11話 異世界と日本は違う
てなわけで俺たち二人はそこそこ大きめなショッピングモールまで来ていた。そもそも自転車相手にメッチャ驚いていたシリアだ。こんなショッピングセンターを目の当たりにすれば。
「何ここ? 市場⁉ でも市場ってレベルじゃないほど店がたくさん」
と目を輝かせていた。そもそも移動手段が馬車とか言っていたけどこいつらの文明はどれだけ進んでいないのだろうか?
「ねぇねぇ翔君。ここにあるものって全部買ってもいいの?」
「まぁ買う権利だけなら。当然そんなお金も無いから俺たちはあれもこれもって買えるわけじゃないけど」
「まぁそれもそうね」
と、意外とシリアの聞き分けはよかった。
「とにかくさっさと服買って帰るぞ」
「うん」
そして俺たちはいろいろなお店を回った。基本レディース中心の店ばかり回るものだから俺としては居にくいし、たまに目のやりどころないし。
特に下着ショップって男子が入るのに抵抗あるよな。あんな空間に俺は居ていいのだろうかって。
だが、シリアを野放しにする訳にもいかず仕方なく俺が入る。そして俺が金を払う。
洋服程度ならまだしも下着を買ってプレゼントしてあげる(ようにしか見えない)光景に店員さんは何を思ったのだろうか?
まぁその報酬はエルフ少女が現代日本の様々な服を試着し、お披露目してくれたところに帰結しておけばいいだろうか。
とりあえずラフな部屋着とストライプの羽織りもの。それとダメージジーンズに白いチノパン。これだけあれば最初に着ていた初期装備とあわせて生きていくことくらいは出来るだろう。洗濯も追いつくはずだ。
「にしてもすごいわね。こんなに一体どこの国から輸入すれば品揃えよくなるのかしら」
「アメリカ?」
つい咄嗟にそう答えてしまったが多分そういうことではないだろう。「あめりか?」と彼女も拙い感じで聞き返すしかなくなる。
「あぁいや、この国ではなくさらに別ベクトルでいろいろなものが発展した国だ」
「二フェリア共和国的な?」
いや、ゴメン。反撃されて初めて気付いたよ。アメリカって言われても何じゃそりゃって感じだよな。
「まぁとにかく船を使っていろいろ運ばれてくるんだよ。船くらいはそっちの世界にもあるよな」
「バカにしないでよ。船くらいあるわよ」
「やっぱり。いや、船って遅いけどあそこから見える景色って結構きれいだし、いつかはデートとかに使ってみたいよね」
と、やっと見つけた共通で理解できる話題に俺は興奮気味に話していたが、彼女はむしろ引いたようにして、
「翔君って商人だったの?」
と一言。
「え?」
「だって翔は船に乗ったことがあるのでしょ?」
「うん。小学生のときに。箱根……いや、リゾート・温泉地で」
「じゃあやっぱり商人じゃない。船なんて商人しか乗れない特別な乗り物なんだから」
何をいまさら。そんなことは世界の常識でしょくらいの気概で彼女は俺の秘密を知り、ご満悦の様子。
やっと共通で通じる話題を見つけたと思ったがそうでもなかったらしい。こいつ横浜の港とかに連れて行ったらどうなるんだろうか。
『商人がこんなにたくさん⁉』
とか言って目を丸くしそうだな。
とりあえず彼女に俺は商人では無いという事と、この世界では誰でも船に乗れるということを伝えてみたがあまりピンとは来ていないようで。
今度乗せてあげれば納得でもしてくれるのだろうか。
とそんなことを考えながら歩いているとちょっとした騒ぎ声、というか言い争いが聞こえてきた。
目線の先でトラブルを起こすは一人のシリアくらいの少女と若い女性の店員さん。
「いや、一日で俺はこいつらの世界に毒されすぎだな」
と、比較対象をシリアにしたことを後悔。普通に女子高生くらいの女性。
その声はこちらまで届いていた。
「あの! お客様。しっかりとお支払いいただかないと困るんです」
「困惑。私はしっかりとお金を置いた。間違いなく」
「いや、間違いありますよ! あなたお金じゃなくてガラクタ置いていって許されると思っているんですか?」
「ガラクタ? バリスはガラクタなんかじゃない。モンスターを倒して得た正当なお金?」
「何それ……。あなた詐欺られながら殺し屋でもやってるの?」
店員の引いたようなというか乾いた声に俺も同調できてしまう。
「まぁそんなところ。確かに依頼されて殺してる」
「あんた警察行ったほうがいいよねそれ⁉ あなたも捕まっちゃうだろうけど」
「疑問? なぜ私が捕まるの。私が殺したら町のみんな喜ぶのに?」
「喜んでんのは町のみんなじゃなくてあなたを雇ってる組織の人たちでしょ。あなた騙されてるわよ。訳を話せばもしかしたら捕まらないかもしれないから警察行こ。ね?」
「拒否。私は悪いことしてない」
「う~ん。どうしたら分かってもらえるかな。とにかくお金ないならどっち道警察を呼ぶからここで待っててくれる」
「だから何回も言ってる。お金はある。さっき置いた」
すると店員さんが、もうすでに俺は一度見たことのある銅貨を持ち上げた。
「これはね。お金じゃないの? 何かは知らないけど。とにかくこれでお洋服を買うことは出来ません」
幼稚園の先生があるいは母親が言い聞かせるかのように。
だが、それでも女子高生くらいの少女は困惑そうな表情を見せるばかり。
「なぁシリア。あいつももしかしてお前の知り合いか?」
そう聞けば何のためらいも無く、
「えぇ。ラグナリアよ」
と。
友達なら助けに行けよ‼
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