8話 過去
事の発端はあっちの世界でメルが健と出会って間もなくって所ですかね。まぁ話の流れもあるからもうちょっと前の出会いから話しますけど。
もともとメルの住んでいたマイルドニア鉱山は、近くにあった村の領主のせいで結構苦しい生活を強いられていたました。
そんな状況の時に健が来てくれたものだからドワーフたちも彼に事情を話して、何とかしてもらおうって。それこそ彼は「旅人だ」としか答えなかったけど、きっとメルたちドワーフを救うためにやって来た神様の使いなのだろうって妄信的に信じて。
で、その頃メルは何をしていたかと言えば、一人で
みんながただ圧政を強いられるだけで何一つ行動をしようとしないからメルだけでもってずっと領主の行動を見張り、攻撃のチャンスを伺ってました。
そこでメルと健は出会ったってわけです。ドワーフの人たちから話を聞いたのか彼はメルの事も知っていて、案外簡単に共闘することを認められました。
けれど、彼らの強さは想像以上。メルなんて一度だって勇気が出せずに攻撃を仕掛けることなんて出来なかったのに、健はたった一晩で作戦を練り上げ、すぐに攻撃を仕掛けました。
彼の剣に迷いなんて言葉は一切似合わず、猪突猛進の勢いで敵に向かって斬る・斬る・斬る。それに少し離れた位置からはシリアの魔法での援護。いや、援護だけじゃない。特定の家を燃やしたり、風を起こすことでさらにその火災の規模をデカくしたりって。
そうやって一瞬のうちに領主を追い詰めては、縄で縛って反省させちゃいました。
メルの出る幕なんて欠片も無かったです。
これじゃ共闘じゃなくて観戦だってツッコミさえしたんですから。
でも、めっちゃカッコよかったです。メルは彼らがどうしてそんな強いのか知りたくなっちゃったし、知ることで自分も同じくらいの強さが欲しかった。
いつかは自分の故郷を自分の力で守れるくらいの力が…………欲しかったのです。
そこでメルはドワーフの
でこっからが今につながる話です。
旅をしているうちに、というか一緒に歩いていると割とすぐにシリアが健に好意を持っていることには気が付きました。
そしてそれと同時に二人きりの旅の邪魔をしやがってってメルの事を疎ましく思っていることも。
もちろんメルはただの付き添いで二人の関係が何も変わらなければ問題無かったのかもしれません。
けど、現実そうじゃありませんでした。
健が結構メルに「可愛い。可愛い」って言ってくれまして。事あるごとにメルの心配をしてくれたり、構ってくれたり、一緒に遊んでくれたり。自分で言うのもおかしな話かもしれないですけど、すごい好待遇でした。
当然、メルとじゃれついてくれる間はシリアを放置することになります。たまにはシリアの事も誘ってみましたけど、「今日のご飯を調達してくるから」とか何とか言い訳付けてシリアがメルと遊んでくれることは一度もありませんでした。
多分シリアもメルに健が取られちゃうんじゃないかって焦ったんだと思います。
旅の途中に野宿をしたある夜。
メルが寝付けず寝たふりをしている時にシリアは健の方へと歩み寄って……
「メルをここに置いて行こ」って。
確かにそう言っていました。
もちろん健は「何で?」って聞き返して、でもメルにはその後シリアが何を言ったのかは聞こえませんでした。
耳元で言ったのか小声で言ったのでしょう。
でもその後の健君の言葉なら聞こえてきました。
「シリアはお姉ちゃんなんだから我慢も必要だろ」って。
そんな話を盗み聞きされていたなんてシリアは知らないと思いますけどそれからはメルに対して恨みがましい目線を向けることも少なくなったし、言い合いこそたまにしましたけど喧嘩の回数も少なくなりました。
それから先、健とメルたち二人の関係が大きく動くことも無く。途中でキーラってやつが仲間になったあたりでひと悶着無かったわけでも無いですけどそこは今のシリアには関係ないと思います。
多分彼女が怒っているのもメルのせい。メルが健だけにとどまらず翔さえもシリアから奪おうとしたから。
「奪うったって別に俺はシリアの物でも無いし」
「それは分かってます。でも翔達ってやっぱりそっくりだし重ね合わせるものはあるんじゃないですか」
もともと先に出会っていたのは翔とシリアだし、そこにまたメルが乱入することでシリアが苦しむのは分かっていました。
でもこっから先はメルのエゴです。健の時はシリアに嫌われるなんて分かってなかったから、ただ強くなる方法が知りたいって彼に近づきました。
でも今回の翔に関してはメルが一年間寂しい思いをしていたところにメルたちみたいな特殊生体を受け入れてくれる人を見つけて甘えたかった。ただそれだけです。
淡々とメルちゃんは語った。
「つまりシリアはメルちゃんに対して嫉妬してるって事か?」
「まぁ自分で言うのもあれだけど多分そうだと思います。後は健と翔を取られたという憎悪も持ってるかもしれませんが」
正直、そんな過去が二人にあったなんて知らなかったけど、俺も行動としては
どうしても子供のメルちゃんの方を大事にしてあげなきゃって想いが強くなりすぎていてシリアの気持ちを蔑ろにしていたのかもしれない。
「とにかくそれでも探しに行こう」
そう意気込むと、だがメルちゃんは顔を背ける。
「メルちゃん?」
「今シリアを探しに行くって事はこの家から私を追い出すって事ですよね。おそらくシリアが戻ってきたら、彼女はメルと翔の同棲は認めないでしょう。つまりここで探しに行くならこの家に住めるのはシリアの方。このまま彼女を放置すれば家出したんだからメルがこの家に――――いや、ゴメンなさい。何でもないです」
さらに続けて小声で「メルのバカ、最低」って。そんな言葉小学生に吐かせるものじゃ無い。
「大丈夫だ。シリアの事は連れ戻すけどメルちゃんの事を追い出したりはしない」
「でも……」
「俺も兄ちゃんとよく喧嘩した。本当にくだらないようなことでずっと言い合ったりしてね。もちろんシリアとメルは血のつながった姉妹じゃないから俺たちと同じとは言わないけど結構似てるでしょ」
「…………」
「一度届かない場所までどっちかが行っちゃうともう戻っては来れないんだよ。今、シリアを手放せば一生メルちゃんはシリアと会えないかも知れない。例えシリアを追い出してこの家に住む権利を手に入れたからってメルちゃんの心の中からシリアは消えない。消えないからこそ多分辛い思いをすると思う。今共に在れる人を一番大事にした方がいいぞ」
そして俺はメルちゃんの手を取った。小さくて可愛らしい小動物のような手。
ただ、無理やり引っ張り出すのではない。彼女の意思で一歩を踏み出してほしい。
このままシリアと離れ離れになんかならない。ちゃんと話をして二人でともに歩める道を探ってほしい。
「翔。この辺に森ってありますか」
「え?」
「シリアはエルフだから
森と言われて思い当たる場所はこの付近だとこの家の北側にある森だけだ。もち
ろんシリアの背中に羽が隠れていてどっか飛んで行ったとなればどうしようもないがそうでないなら、歩いていくとするなら行ける森はそこくらいだろう。
「そこまで案内して下さい」
そう言われ、俺はメルちゃんの手を引いた。
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