7話 シリアの……

 皿も洗い終わり、リビングに戻ったところ、こいつらは依然として喧嘩を繰り返していた。

 何があったか詳しくは知らないが話題はテレビという機械について。


さっきまでの戦いではどちらかと言えばメルちゃんの方が優勢だったものの、今回のテレビ対決ではシリアの方が有利に立ち振る舞っている。


「って事でここから色々な人が情報くれるのよ」


「し、しって……ますし」


「はぁ~それは知らない反応だね。全く強がっちゃって」


 やっと勝てたからか粋がるシリアに対してメルちゃんは酔っ払いに絡まれているかのような嫌な目で、こちらにヘルプ要請を出す。


 しょうがない。あんまり面倒ごとには巻き込まれたくないけど助けてやるか。


「シリア、その辺にしてやれ」


 俺は二人に近づきながら言う。


「お前の方がお姉ちゃんなんだからそんな小さなことで張り合ったってしょうがないでしょ」と。


「何言ってんのよ! 先に喧嘩を吹っ掛けてきたのはメルの方なのよ!」


「喧嘩って程の喧嘩では無いんですけどね。シリアが私に出ていけって言うからちょっと見返しに」


 己の人差し指と人差し指を突っつかせながらによるメルちゃんの言い訳。だが俺が気になったのはメルちゃんの態度ではなく言葉の方。


「シリア本当か? メルちゃんに出ていけって」


「当たり前でしょ! 何でうちの子でも無いのにずっとこの家の中にいてご飯まで食べようとしてるのよ」


 そんなことを言ったらシリアもうちの子では無いんだけど。


「別にいいじゃないですか! あっちの家は寂しいんですよ。誰もいないし電気付かないから暗いし。私はずっと一人だったんですよ‼」


「それでもでしょ。何でこの家なのよ」


「そりゃ単純に――――」


 終わらないこの言い争いはいつ見ても頭が痛くなる。


「とにかく! いいだろ別にメルちゃんがうちの家にいたって。それでシリアが困ることがあるのか。冒険だって一緒にしてきた仲なんだろ」


「別に」


 六年近く共に旅してきた割には素っ気ないシリアの反応。

 メルちゃんの方も軽く顔を背けていた。


「え? 違うの⁉」


「別に違わないけど。それでも……」


 何かを隠すようにはぐらかす。


「良いですよ。私から説明してあげます」


 対してメルちゃんの方は割り切っているのか少し大人の対応を見せてくれた。が、それすらも拒むはシリアの方。


「じゃあいいわよ‼ どうしても翔君がメルと一緒に居たいって言うなら居ればいいじゃん。あたしの方がいなくなればいいんでしょ!」


 なんでだよ。ちょっと話が飛躍しすぎじゃない? 取りあえずメルちゃんの話を――――。

 だが、シリアの方は言葉そのままに部屋を飛び出していく。


「ちょ、おま!」


「知らない! 翔君もメルも健君も! みんなみんな私はお姉ちゃんだからって」


 そのまま言葉はドアの向こうへと消えて行く。やがて、玄関のドアが開き閉まる音まで響いてきた。


「お、おい。今何時だと思ってんだよ。どこ行くんだよ」


 当然家すら出て行ってしまった彼女に届く言葉では無かった。


「メル! 急いで探しに」

「いいですよ。行かせておけばいいんじゃないですか」



 は?



「だって今の流れからして翔はちっとも悪くないじゃないですか。悪いのはあのシリアの方です」


「それでも探しに行かなきゃでしょ! あのまま野放しにしていたらどうなる事か」


「じゃあ探す当てなんてあるんですか? 見つけた後どうするんです。あんな感じで出て行ったシリアに見つけたから帰っておいでって言って帰ってくると思いますか?」


「それは――」


 自信が無かった。そもそも何でいきなりあんなに怒りだしたかも分からないし、彼女が何を考えているのかさえ分からない。


「ホントはあんな出て行った女そのままにしておきたいですけど、翔がどうしてもさっきの話の続きをして欲しいって言うならしてあげてもいいですよ。彼女の状況を知れば少しは分かることもあるんじゃないですか」


 その提案に軽く首を縦に振り、二人の間になにがあったのかを聞くことにした。


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