5話 転移の真実
メルちゃんの一言に二人は完全に困惑してしまい会話は終了してしまった。
確かにメルの言っていることは矛盾しているように聞こえなくもない。ついさっき転生してきてこれだけの食材を買い、留守中とは言え、しっかりと生活をしているのに馴染めていないというのだから。だが、そう考えてしまうのは一つの固定概念にとらわれているからかもしれない。
「ねぇ、メルちゃんっていつこの世界に転生してきたの」
「え~っともうすぐで一年って所ですかね」
と、いう事らしい。やっぱりそういう事か。つまり転生したタイミングがシリアとメルちゃんでズレているのだ。
「って! どういう事よ」
だが、現実に付いていけない少女が一人。
「ハイ?」
いや、二人。
「そもそも二人は同じタイミングであっちの世界からこっちの世界に来たのか?」
その質問には迷いなく二人とも「うん」「はい」と答えた。
つまり答えは――――。
「転生してきたところが場所は近くとも時間がズレていたという事だ。メルちゃんは一年近く前のこの世界にやって来た。それに対してシリアはついさっきこの世界にやって来た」
それでも困惑する二人。
「でも私たちは同じタイミングでこの世界に呑まれたんだよ」
「けれど、降り立つ時間軸が異なっていた。無い話では無いだろ。戦国時代にタイムスリップする転生物だってあるんだから」
「なるほど」
どうやらメルちゃんの方には理解いただけたようだが、シリアの方はいまだにピンと来ていないご様子。
家に帰ってから図にしてあげればもうちょっと分かりやすいだろうか?
そうなると彼女がこの生活に慣れていることにも納得がいく。一年近くも過ごしていれば体も適応するはずだ。
「と、なると一つ問題なのが、他の仲間や、その魔王? もこの世界にすでに転生してるかもしれないし、まだかもしれない。それに下手したら遠い昔に転生してるかもしれないし、逆に遠い未来に転生してるかもしれないってことになる」
「つまり?」
……何でこんなにシリアは物分かりが悪いんだか。
「例えば兄ちゃんがこの世界にすでにいるかもしれないし、いないかもしれない。魔王がすでにいるかもしれないし、いないかもしれない」
「じゃあ私たちが魔王を倒すって粋がっても、当の本人がいないかもしれないって事?」
そういう事だ。やっと分かってくれたか。
「じゃあ私たちは何しにここに来たのさ!」
「んな事知るか!」
*
なんだかんだスーパーの中で言い合った挙句、その第二ラウンドは俺の家でも繰り広げられていた。
「ったくシリアは何にも知らないんですね。ちょっとはメルがこの世界についてレクチャーしてあげますよ」
「いらないわよ! あんたの助けんか。そもそも何でメルがこの家まで付いて来てるのよ。あんたの家はここじゃないんでしょ」
「そりゃここじゃないですけど、メルの家にいたってしょうがないですから。なんせ仲間が見つかったなら合流するのが冒険者の筋ってものじゃないですか」
「あんた以外なら喜んで合流してたわよ」
つい昨日まで静かだったはずの俺の家は一瞬で騒がしい家へと変わり果てる。
「と、とにかくだ。早くご飯を作ってくれシリア。そのためにスーパーまで行ったんだろ」
俺はとりあえずこの『混ぜるな危険』を引き離すことに専念した。本当に兄ちゃんはこの二人を束ねていたのか。どんな精神力だよ。
「そうね。あんたは子供なんだからそこにある箱テレビでも見てゆっくりしてるといいわメル」
少しでもマウントを取ろうとするシリア。
「ふん。私だって料理くらい出来ます。一年近くメルはずっと一人だったんですから」
「プフフ。どの口が。あっちの世界ではろくに料理なんて作れずに、焦がし魚や丸焦げ肉ばっかり作ってたくせに」
「それはシリアも一緒ですよね。得意料理って言いながら材料鍋にぶち込んだだけの料理ばっかり作って」
「何を~」「何よ~」
っていがみ合う二人を誰か止めてください。もしかしたら仲間の中に、この二人を止めることが出来る奴がいるのかもしれない。早くそいつと出会いたい。
「とにかく! どっちでもいいけど早く作ってくれ。じゃ無きゃ俺が作るぞ。すると二人ともこの家での存在意義無くなるからな!」
「そうね。私は料理をしなければならない義務があるのよ。だからメル、あなたは自重しなさい」
「ふん。じゃあ逆に裏を返せばメルが料理でシリアよりも存在意義があるって証明できればこの家にいてもいいって事ですよね」
まぁ確かにそういう事になるな。シリアは家賃が払えないから料理するのであって、逆にメルちゃんの方が料理の腕が立つ場合、彼女を家に招き入れるのは大いにありだ。
「何でよ! 何で私が……。いいわよ。分かったわよ。私を追い出せるものなら追い出して見なさいメル! 実力勝負よ。料理を作って翔君を美味しいと言わせた方が勝ち」
「フフ。そんな事言っちゃっていいんですか? 本当にシリアこの家から追い出されちゃいますよ」
「そんなことは戦いに勝ってから言いなさい」
こうして二人の料理対決が始まった。
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