演目その4 リモート・オリンピック
ツクテンテン、テンテン・トンテン、チャカテンテン♪
えー、毎度バカバカしい
最近は、もうコロナの患者さんが増えてどうしようもなくて、オリンピックの方も、
「それどころじゃない、
「何言ってんだ、せっかく招致して準備もしたんだ、
なんてぇ具合に、いろんな声が飛び交って、世論もすっかり二分されていますね。
えー、ここにも、開催派と中止派が論を戦わせておりまして……。
「おい、八つぁん、大変だ大変だ」
「おう、熊じゃねえか、どうしたぃ」
「いや、どうしたもこうしたもねぇ。三丁目の花ちゃんが働いている高齢者施設でクラスターが発生したって」
「ええっ! そりゃ大変だ」
「5丁目のキヌちゃんが入院している病院でも、コロナの患者さんの対応で、通常診療ができなくなっているって。こんな状態じゃあ、オリンピックなんて無理だなぁ」
「いやいや、そりゃあ、なんねぇよ、熊よ。おいらの同級生が現場で働いていた新国立競技場でオリンピックをやるのを、おいらだって楽しみにしていたんだ。世界の晴れ舞台をおいらの知り合いが作ったんだ、ってみんなに自慢してやろうと思っていたんだ。ほかにも今まで税金しこたま使って色んな準備してきたんだ、今さら中止なんてできねぇよ」
「いやいや、人の命がかかっているんだ。金だなんだと言ってらんねぇ」
「いやいや、こういう時だからこそ、元気の出るイベントをやって……」
「いんや、俺ぁ、絶対に反対だ」
「いんや、おいらは開催するべきだと……」
と、そこへやって来たのが町内でも知恵者と言われる、和菓子屋のご隠居です。
「あ、ご隠居いいところへ。今ね、八の奴にオリンピックは中止するべきだって言ってたところなんですよ」
「いや、おいらは開催すべきだと思うんですよ」
「ご隠居だって中止するべきだって思うでしょう?」
「いんや、ご隠居は話の分かる方だ。そんなこた言わねぇ」
「まぁまぁ、熊も八も落ち着きなさいよ、え? 開催だ、中止だって、どっちかしかないような考え方をするから対立するんだよ。
アタシはね、もういっそのこと、オリンピックも
「ええっ!?
「ご隠居、そいつぁ無理がありますよ。だって、個人競技ならまだしも、サッカーやバスケットボールみたいな団体戦はどうするんです?」
「それはもう、『ウイイレ』※とか使って」
「ご隠居、それゲームじゃないですか。それ、E-スポーツですよ」
「そうですよ、それじゃ別なスポーツになっちまいます。それに、
「いいじゃあないか、ゲームでもなんでも。まぁ、大会の公式記録を残すためには、大会の公式な審判が見張っていなくちゃいけないなんて決まりもあるだろうから、今回はもう、オリンピックじゃなくて、『準オリンピック』みたいな扱いにしてね、スポーツの祭典、ただのお祭り、ってことでやったらいいんじゃないかい。
だいたいね、最近のオリンピックは、どうも本来の趣旨から外れているような気がしていたんだよ。なんだかもう、国の威信をかけたメダル争奪戦みたいな雰囲気になっちまって、参加する側も、メダルを取ったらスポンサーがつく、金が入る、喰うに困らない、なんていう経済戦争みたいなことになっているようで、アタシなんかは、もうちょっと、平和とスポーツの祭典っていう、ゆるぅーい感じの祭りの方がいいのになぁ、なんて常々思っていたんだよ。
準オリンピック、
しかも、ほかでやってないんだからね、準オリンピックなんて。オンリーワンなんだから、自動的にナンバーワンですよ。だから東京オリンピックは一番だ! ってことにしちまえば、なんでも日本が一番だってことにしたい政治家の先生方も納得するんじゃないかい?」
「しかし、ご隠居。実際のところ、どうやってやるんです?」
「やっぱりインターネットでつなぐしかないでしょうね。技術力のある日本としては、ホロ画像とかも使って、いい感じに選手が全員集合してるっぽい合成画像を作っちまえば、画面越しに見ている人にゃあ、違和感なんてそんなにないですよ」
「いや、でも、ご隠居。合成画像なんかじゃあ、やっぱり記録について『こいつ、ズルをしたんじゃないか。ここがオカシイぞ』なんて声が出るんじゃないですか」
「そうすればネット民が湧く、ネット民が湧けば余計にみんな見直したり、コメンテーターがあーだこーだ言ってテレビの視聴率が上がる、そうすりゃ、それを見越して放映権が余計に売れる、ってんで、風が吹けば桶屋が儲かる的に放映権が高く売れて金が入ってきますよ。
いっそのことあれだ、バナナの叩き売りでも引っ張ってきて、放映権を高く売らせたらいい」
「ご隠居、放映権を高く売るって、最初と言ってることが……」
「ああ、そうだ。金、金、ゼニ、ゼニじゃあないんだった、ゆるいお祭りにしようって話だ。まぁでも、炎上もネットじゃあ『祭り』なんて言い方をするじゃあないか。いいじゃあないか、それも含めてお祭りで」
「いや、ちょっと待ってくださいよ、ご隠居。炎上したら、ゆるい祭りどころじゃない、火祭りだ。下手すりゃ血祭りだ」
「大丈夫だよ、熊公。最後にはまぁ―――るく収まるから。なにしろ
ハイ、お後がよろしいようで。
みなさんもね、変異ウイルスって強力なヤツが出てきたみたいですから気を付けてくださいね。うがい、手洗い、消毒、ディスタンス、忘れずにね!
では。ここいらへんで失礼をば。
ツクテンテン、テンテン・トンテン、チャカテンテン……
※注)ウイイレ=正式名称は、『ウイニングイレブン』。ビデオゲームのサッカーゲームシリーズ作品
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます