友達100人

「おい」


 読んでいた本から顔を上げた。講堂の隅に座っていた俺の前に立っていたのは、たしか同じクラスの3人の男子。3人ともガタイが良く、スポーツと友達です、と言った雰囲気だ。


「お前、調子乗ってんなよ」


 誰に言っているのか分からなくて、思わず周りを見回した。特に調子に乗っていそうな人はいなかった。授業前に調子が上がるタイプは少ないようだ。


「お前だよ! 七条和臣!」


 ばんっと机を殴りつけたガタイのいい男。まさか、入学早々、授業2回目にしていじめか。しかも3対1、いきなりハードモードだな。


「だが俺は堂々と立ち向かう.......」


「は? 何言ってんだ?」


「なんの用だよ。リンチか? わかった、体育館裏行くぞ。手加減しろよ、左手まで折れたら俺は泣く」


「は、はぁ?」


「まず体格差考えろよ。お前らの軽いパンチで俺は気絶だ」


「ま、待てよ。そんな怪我人殴ったりしないって。ただ、お前が初めっから彼女といちゃついたり先輩従わせたり目立ってるから、他の奴らに手出すなって釘さしとこうとしただけで.......」


「そんな覚悟で俺をいじめてんのか。あ? お前らの筋肉は飾りか? ならよこせよ」


 3人が怯え始めていた。もしかしたらこの3人、そこまで悪いやつじゃないのかもしれない。スポーツマンシップのあるタイプのいじめっ子なのかもしれない。


「や、やべぇ奴だよコイツ.......」


「関わんねぇ方がいいって!」


「そ、そんなこと言ったって.......」


 とりあえず落ち着け、と隣の席に1人座らせた。そして残りの2人は前の席に。買ったは良いものの食べきれなかったグミを3人に渡しながら、これでぼっち授業回避だなと思っていた。ちなみに第1回の授業はぼっちだった。


「で? お前ら名前は? 俺は七条和臣、八鏡高から」


「あ、あの山の方の? 結構進学校じゃん」


 急にフレンドリーになった1人が、俺の隣に座ったスポーツマンに叩かれていた。


「.......俺は藤田、四国から来た」


「へぇ」


 隣のスポーツマン、藤田が俺を睨みながら言った。その後に、前に座ったフレンドリーな幸田と静かそうな坂田が自己紹介してくる。幸田はこの近くの高校で、坂田は藤田と同じ四国から来たらしい。


「3人とも同じ部活か?」


「ラグビーやってんだ」


「どうりで筋肉あるわけだ。プロテインとか飲んでる?」


「お! お前も筋肉に興味あるのか?」


 目を輝かせた坂田が、オススメのプロテインを教えてくれた。フレンドリーな幸田はグミばかり食べている。よく見れば、坂田は筋肉質、幸田はぽっちゃり系だった。


「.......お前ら、何仲良くしてんだよ」


 リーダーっぽいムキムキスポーツマン、藤田が嫌そうにこちらを見ていた。相当俺のことが嫌いらしい。


「藤田、もう良くね? 七条が可愛い彼女いんのは勝手じゃん。グミくれたしよ」


「思ってたより喧嘩するタイプじゃなさそうだぜ? なあ七条、お前あの建築科の先輩に喧嘩させて気に食わないやつボコボコにしたって本当か?」


「どこ情報だよ」


 まず気に食わない奴に出会ってすらねぇよ。ぼっち舐めんな。


「ほらぁー。藤田の勘違いじゃーん」


「ごめんな七条。藤田は中高男子校で女子に対してこじらせてんのと、弱いものいじめが嫌いなんだ」


「現在進行形で弱いものいじめしてたぞ」


 はっとしたような藤田。そんな人生最大の気づき、みたいな反応されても困る。教授入ってきたし、ノートの準備しろよ。


「お、お前.......その怪我、喧嘩でやったんじゃ.......」


「転んだだけだ」


 幸田に、どんくさいなぁ、と言われた。坂田にはオススメのトレーニング表を送るからと連絡先を聞かれた。


「す、すまん七条!」


「七条って言いづらいだろ、和臣でいいよ」


「ゆ、許してくれるのか.......!?」


「何を? あ、消しゴム忘れたのか? 貸してやるよ」


 ちょうど2個持ってるからな。

 その後は真面目に授業を受けて、今日の授業はなくなった。帰る前に食堂に行こうと腰を上げたところで、隣の藤田が泣いているのに気がついた。うっそだろ。


「お、おい。大丈夫か? 授業わかんなかったのか? ノート貸してやろうか? な、なぁ。大丈夫かよ」


 教室でクラスメイトが泣いていたら動揺するぐらい許して欲しい。自分が泣くのは慣れているが、俺の周りの人達はそんなに日常的に泣かないのだ。なんで泣いてんだコイツ。どうしたらいいんだ。


「気にすんなよ、藤田は割とすぐ泣くから」


「嬉しくても悔しくても泣くんだ。あと感動しても泣く」


「う、嬉しかったのか.......!?」


 一体何が嬉しくて泣いてんだ。やっぱり怖いよ大学。難しい人ばっかりだよ。


「和臣、飯一緒に食わねぇ? ほら藤田、いこうぜ」


 坂田が藤田を引っ張って歩き出す。俺も幸田と一緒にあとに続いた。


「和臣って思ってたより面白いやつだな」


「そうかな?」


「不良じゃなくてよかったよ。グミありがとな」


 異常な量を食べる3人と一緒に昼飯を済ませ、今度藤田の下宿先に遊びに行く約束をした。

 部活まで待つという3人と話していると。


「和臣、帰るわよ」


「葉月」


 3人が微妙な顔で俺を見ている。わかるぞ、俺の彼女がこんな美少女で混乱してるんだろう。俺もたまに混乱する。


「あなた1人じゃ帰れないんだから、早く道と電車を覚えてちょうだい。私と時間が合わない日があったら大変でしょう?」


「.......大変申し訳ない情報なんだが、俺が中学に通えるようるまで1年かかってる。小学校に至っては3年生までたまにたどり着けなかった日があった」


 葉月の後ろで、3人がドン引きしていた。


「か、和臣.......お前.......」


「あら、和臣のお友達? ごめんなさい、この人酷い方向音痴なの。私とはクラスが別れてしまったから、迷っていたら助けてあげてくれないかしら? 自分で突拍子もない場所に行って、帰ってこられないの」


「もちろんだ」


 いちゃついてたんじゃなかったのか、などと聞こえたが、いちゃついている。申し訳ない。

 葉月と電車に乗って、最寄り駅まで帰った時。


「おー! 和臣ー! お前も学校帰りかー? 相変わらずイチャついてんなー!」


「おー、田中も帰りか?」


 大学でもバレーをやっている田中が、俺とは違う大学のジャージを着て駅にいた。同じジャージを着た川田もいて、葉月と嬉しそうに話していた。


「和臣、友達できたかー?」


 元気が有り余るバカに、肩を組まれながら。


「できた」


「よかったな! 今度紹介しろよ!!」


 楽しい学校生活になりそうだ。

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