私を西に連れてって。

出国

 日本の玄関。成田国際空港。

 様々な洋服の人が行き交うそこに、堂々と着物でやってきた。


「.......あなた、そのサングラスはなに?」


「パパラッチ対策」


「バカなの?」


 サングラスの下で涙を流した。ほら、やっぱり役に立った。

 参考書を詰め込んだスーツケースに肘をついて、携帯をいじる。急な大雪情報はなしか。くそ、なんで10月は雪が降らないんだよ。なんとかして欠航にならないかな。


「.......やだぁ」


 腰にしがみついてくる妹の頭を撫でる。ぐりぐりと俺の背中に拳を押し付けている姉はどうしたらいいのか分からない。


「お土産買ってくるから」


「.......やぁだぁ.......」


「昨日までマカロン買ってこいって言ってたじゃんか。いらないの?」


「飛行機やだ.......」


 ぐっと妹を抱き上げる。サングラスを渡した姉は怒った顔のままだった。


「5日で帰るよ。葉月も着いてきてくれるんだ」


 今回、花田さんも中田さんもゆかりんも来ない。5日も海外など、みんな忙しいのだから誘いにくかった。受験生の葉月も連れて行かない予定だったのだが、俺1人はまずいと着いてきてくれることになった。ありがとう。2人で旅行じゃん、とか思ってちょっと嬉しくなって本当にごめん。反省する。ところで食べ歩きデートのプランを立てたんですがどうですか。


「和臣。お姉ちゃん、もう飛行機乗りたくないから」


 じっと姉に見つめられる。今朝父にも同じことを言われた。


「わかってる。大丈夫、今回俺おまけだから。一条さんとハルがいるんだからすぐ終わるよ」


「.......頑張ってきな!」


「おう!」


 ばんっと背中を叩かれて、姉が妹を受け取る。

 さあ3番ゲートとやらに行こうと歩き出した時。


「和臣ーーー!!! 待てこのバカーー!!」


 兄貴が走ってきて、俺の頭をべしんと叩いた。


「え!? なになに!? 俺なんかした!? ていうかなんで居るの!?」


「パスポート!! 忘れてんだよ!! あと着替え!! お前何鞄に入れてんだ!!」


「参考書」


「何をしに行く気だーー!!」


 兄貴にボストンバッグを渡される。おお、着替えも歯ブラシも入ってる。さすが兄貴。


「兄ちゃん机の上見て心臓止まるかと思ったぞ.......。兄ちゃんもこれから仕事なのに.......」


「兄貴、持ってきてくれてありがとう」


「.......はぁ。さっさと帰ってこい。父さんは先代と話してるんだが.......お前何かした?」


 ごめんなさい父さん。昨日俺が先代かららしき電話ガン無視したからですかね。もしかしてあれのせいですかね。


「和臣、もう忘れ物はないわね?」


「うん。じゃあ」


 軽く手を挙げた兄貴と、妹を抱いた姉と、怒った顔の妹と。家の客間にいるであろう父と、日本に。



「行ってくる!」



 葉月と一緒に手を振った。


 それから、総能が持っているという飛行機の中で。


「和臣ぃ! トランプしようよぉ!」


「えー、俺テトリスやるから」


「.........................テト、リス」


「むう。和臣の弟子ちゃんはやるぅ? 勝博はやるでしょお?」


「や、やらせて頂きます!」


「治様、それはUNOです」


 テトリスをやりつつ日本史の単語を覚える。英語は今からネイティブと話してラーニングする予定だから大丈夫。今回の仕事は短期留学だと思うことにしている。


「...............................テト、リス.......対戦」


「い、一条さんテトリスやるんですか!? 」


 俺のテトリスの腕が試されるな。善戦した雰囲気を出しつつ負けなければ。


「弟子ちゃん強いねぇ!」


「い、いえ!」


「あがりです」


「勝博は特別ルールだよぉ! 3回あがんなきゃダメっ!」


「承知しました」


 窓の外を見た。秋だが、桜が見たかった。





 眼下に見えるは日ノ本の。

 青き緑のその大地。

 深き海高き山、皆々我らの神にございます。

 今より向かうは西の国。

 日ノ本に仇なす者あれば、我ら秩序を掲げ裁きに向かわん。

 一条の絶対なる一刀を持ちて、極東の道理を見せに参る。

 許す道理も義理もなければ、ただ完膚なきまでに潰すのみ。


 さあさあ我ら日ノ本日本の! 黒の術者にございます!






 テトリスはボコボコに負けた。

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