外国

 飛行機から降りた時。

 今回のメンバー全員、黒のスーツに着替えていた。


「それ、可愛くなぁい」


 訂正。ゴスロリ少女はそのままでした。


「治様、こちらを」


「むう。もっとフリフリじゃないとぉ.......」


 ハルが俺の後ろに隠れる。やめてハル。俺を盾にしないで。勝博さんめちゃくちゃ強いんだから。俺とか瞬殺だよ。一発殴られたらすぐ終わりだからね。


 第五隊副隊長、灘 勝博なだ かつひろ

 間違いなく副隊長の中で最強の術者である。初の9つの家以外からの隊長誕生か、と言われた秀才だが、10年前にハルの副隊長におさまった。さらに一般業務も全て完璧にこなす、優秀おぶ優秀副隊長。でも花田さんだって優秀だから。絶対引き抜きなんてさせないからな。


「現場へ向かう際は、着物に着替えていただきます」


「.......むう」


「治様」


「おさむって呼ぶなぁ!」


 空港の中を、一条さんがいつも通り足音もなく背筋を伸ばして歩いていく。後ろには、半泣きの葉月がいた。よく見れば一条さんは葉月の荷物を持っていた。


「も、申し訳ありません.......! じ、自分で持ちます.......!」


「...............................Ladies first」


 葉月が泣きそうな目で俺と一条さんを交互に見る。かわいそう可愛いので、しばらく観察することにした。


「皆様、これから宿泊施設へ向かいます。実際の業務は明日、現地時間16時からになります。今後の予定は資料にまとめておきました」


 ふうん。優秀じゃないのん。でも花田さんの資料だって見やすいんだからね! たまに変なイラストとか載ってて和むよ! 女子が多いから花田さんは色々気を使ってるよ! やっぱり優秀俺の副隊長!


「和臣、和臣どうしよう.......! い、一条のご当主に、荷物.......!」


「まかせとけ」


 そろそろ可哀想なので、一条さんに泣きついて葉月の荷物を受け取る。ガムもくれた。


「ありがとう和臣.......。?」


「れでぃーふぁーすと」


 と言ってもあとはもう車に乗るだけなのだが、葉月の荷物も持って空港の中を進む。そのまま観光ガイドを読んで、明日の午前中の予定を考える。


「博物館行こうぜ。すごい石とかいっぱいあるらしい」


「括りが大雑把なのよ。.......ありがとう、gentlemanさん」


 葉月が俺の腕を取った。両手が塞がっているから手ではなく腕を取ったのだろうが、なんというか。


「.......せんきゅー世界.......」


「?」


 密着度。とても、いい。スーツ姿の葉月はめちゃくちゃかっこいいが、こんなに近くで見るとやっぱり可愛い。感情が複雑すぎて涙が出てきた。好き。


「私.......あなたのスーツ姿、結構.......好き、かもしれないわ」


「ふーーーーーお」


「どういう気持ちよ.......」


 俺一生スーツで生きようかな。呉服屋の息子だけど。関係ないなそんなこと。初めて服に興味出てきた。


 空港から、黒塗りの車に乗る。

 しばらくすれば、大きな橋に、大きな時計塔。

 少しの不思議と霧の匂いと、西の歴史を感じながら。

 俺達はやって来たのだ。


「来たぞイギリスロンドン!」


 大きなホテルの前で、荷物を預けながら噛み締める。すごい、外国だ。めちゃくちゃ楽しい。


「楽しいねぇ、和臣ぃ!」


「.........................Fish and chips」


「「いぇーい」」


 ハルと手を合わせる。もう仕事とかどうでもいいな。観光したい。フランス行きたい。食べ物が美味しいらしい。あと姉に読まされた漫画の舞台がみたい。アントワネットしたい。


「か、和臣! このホテルに泊まるの?」


「うん。ハルと一条さんはVIPだぞ? 自動的に1番いいホテルになるんだ!」


 葉月は表情はいつも通りだが、たぶん喜んでいる。


「葉月ってこういうの好き?」


「だって.......! こんなの、お城じゃない!」


 今日可愛いが過ぎてるな。なんですかあなたは! 抱きしめちゃいますけど!?


「終わったらフランスで遊ばない? 本当の宮殿あるよ」


「.......勉強が、あるもの.......でも、アントワネット.......」


 やっぱり葉月もベルサイユしてたか。


「ちょっとだけ。ダメ?」


「.......私、マカロン食べたいわ」


「やったー!」


 フランスのガイドブックも買っておいて良かったぜ。

 そのあと、廊下で買い物に行く行かないでむうむう言っているハルと勝博さんをスルーして、なぜかクッキーをかじっている一条さんもスルーして、葉月と部屋へ向かった。


「なあ、この後フィッシュアンドチップス食べに行かない?」


「行くわ」


「この店がいいらしい」


「あなた、このガイドブック付箋だらけじゃない」


「俺はいつでも本気だ。楽しむことに労力は惜しまない」


「.......荷物を置いてくるわ。変な所には行かないでちょうだい」


「ははは、さすがに外国で迷子はシャレにならないからな! 大丈夫大丈夫!」


「絶対よ。絶対ホテルから出ないでちょうだい」


 さすがにそこまででは無い。

 部屋へ入って、荷物を置いたところで。カタカタっと、鞄から音がした。


「あっ、ごめん」


 鞄から金のランプを取り出す。怒っているのかと思ったら、トカゲはガラスに張り付いてガラス越しに俺の指へとすりすり頭を寄せた。くそ、なんだこの可愛さ。抱きしめたい、火傷するけど。


「もうお前とは離れられないな。ずっと監視しなきゃいけなくなったんだ」


 鞄に財布とランプだけ入れて、葉月の部屋へ向かって。












「シャレにならないーーー!!!」


 見た事のある時計塔の前で、鳩に襲われていた。

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