講義


「大変申し訳ございませんでした」


 病院の床に頭を擦り付けて土下座する。

 目の前にいるのは花田さん達特別隊のメンバーと、ランプを抱えたハル。そして札だらけの金髪さん2人を縛り上げている一条さん。四条隊長は貧血で寝ている。


「あはは! 和臣ったらおかしぃー!」


「.........................」


 吐き気がすごい。別に、頭を打ったからだとか、真っ当に生きていたのに肩に銃創ができたからだとか、右手が結構な火傷をしたからではない。


 俺が隊長のクセにミサキをガン見して退治もせず倒れたからだ。


「俺だけ落ちてみんなはミサキ退治までやって.......本当にごめんなさい」


 湿布や絆創膏だらけの痛々しいみんなを見る。俺がダメで、四条隊長が貧血で倒れ、一条さんは金髪2人を拘束していた。そんな中で、花田さんを中心に特別隊だけでミサキを退治。全員連戦だし、ミサキはそこそこ強い。そんなことを押し付けてしまったことに対する罪悪感が半端ではない。

 目の前にいる全員術の使いすぎで顔色は真っ白だし、葉月はベッドで点滴を受けている。ハルが来て怪我は治療してくれたらしいが、その傷だらけの姿にバクバクと心臓が鳴って、指先の感覚は消えていく。


「みんな、大丈夫ですか.......?」


「はは! 悪魔との会話中に意識を失った隊長よりは大丈夫ですね! ところで隊長、どうしてここに? 安静にするよう指示があったのでは?」


「そうですよ和臣隊長! 頭を打ったんです、安静にして下さい!」


 ゆかりんと葉月は床を見つめて動かない。嫌な汗がじわりと出る。指先が震えるのが止められない。


「和臣ったら検査でなぁんにもなかったから、さっき東京タワーまで戻ったのよねぇ!待ってても良かったのにぃ!」


 全員ぎょっとしたように俺を見た。なんで言うんだハル。


「い、いや.......後片付けに.......」


「あんた、バッカじゃないの!? まだあれから5時間も経ってないんだけど!?」


「ごめんなさいゆかりん。女の子蹴るとか.......! 最低だ! ほ、本当に.......! ごめん!!」


「違う!! あんた話通じないわね!? 聞いてよ私の話!!」


「ごめん.......!!」


「聞いてないじゃないのーーーー!!!」


「和臣」


 ゆかりんにぐりぐりと頬を刺されていると、葉月がまっすぐ俺を見て言った。


「私、頑張ったわ」


「.......?」


「私達、頑張ったの」


 葉月は。目を細めて、唇を美しく引き上げて。俺を見下しながら。

 最高にかっこよく笑った。




「最高だと思わない?」




 思います、葉月様。


「なら褒めなさい。あなたの隊は最高だと笑いなさい」


 いえす、葉月様。

 立ち上がって。ドヤ顔のゆかりんと、腕を広げて準備している中田さんを抱きしめた。花田さんは葉月と拳をぶつけていた。


「.......最高です。やっぱり俺の隊は最高だ。ありがとう、みんな」


 中田さんがするすると俺の首を撫でるのを完全に無視する。


「うわぁ.......和臣の弟子ちゃんすごぉい.......」


「...............................尻に、敷かれる」


 聞こえてるぞそこ2人。

 でも、問題はそこじゃない。


「あぁ.......吐きそう.......」


「「え」」


「もうさ、みんなさ.......そんなボロボロで病院とか、やめてよね.......。.......し、死んじゃうとか、思うじゃん」


「「え?」」


 腰が抜けて、その場に座り込む。指先が震えて止まらない。一条さんが洗面器をくれた。すいません。


「あんた、一緒に心中しようとか言っといて.......?」


「やだよ死ぬのは.......死んで欲しくないよ。生きていて欲しいよ」


 膝の間に頭を埋めて、止まらない涙を隠す。俺は未だに、この涙の止め方を知らない。


「え、うそ、あんた泣いてんの!? いつから!?」


「ぶ、部長! 部長の言い方が怖かったんですよ! こんな泣かせ方最低です!」


「も、申し訳ありません隊長!!」

 みんなが慌てているのがわかる。ごめんなさい。多分もうすぐ止まるので気にしないでください。


「和臣。泣くならいつも通り大声で泣いてちょうだい。あなたが泣いているのに気づかないなんて嫌なの」


「.......泣いてないし」


 中田さんがハンカチをくれた。でも俺は泣いていないので使わない。

 ハルがそっと膝の間に飴玉を押し込んできた。

 一条さんはガムを突っ込んできた。

 すいません誰かこの2人に人の慰め方を教えてください。


「ふふふ。随分不思議な人ね。永遠は望まないのに、死は嫌うのね」


 一条さんが、札をはられた金髪美少女の首筋に刀を向ける。もう1人の方は倒れた。可哀想に。


「日本式の儀式も素敵だわ。それを書いたその子も、とっても素敵。透き通る宝石みたいね.......欲しくなるわ」


 一気に立ち上がって、踏み込んだ。

 ハルと背中を合わせて、2人で印を結んだ手を向ける。


「この子に手を出してみろ。俺は地獄だろうが黄泉だろうが追いかけて捕まえてやるからかな」


「ふふふ! 怖い目ね! とっても素敵よ、最高だわ!」


 ぞぞっとした。変態の香りがする。


「今回あなたに弾を当てたお詫びに、私が説明しましょう。.......特別レッスンよ?」


 金髪美少女は、一条さんの刀を首に受けたまま。優雅に礼をした。

 その時の瞳が、紅く見えたのは。


「極東のモノクローム。.......光と影のブラックホワイト、私の教えを受け止めて?」


 気のせいではない。

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