同期
「それでねぇん。管理部としては念には念をいれたいのよぉん。どうにも最近は侮れないから.......受けてくれるかしらぁん?」
すいません前半の好みのタイプの話からよく聞いてなかったです。本当に大事な話ならもう一度お願いします。
杉原さんは部屋に入るとマシンガンの様に喋り続け、新しく出されたお茶ももう冷えた。
「あっ! あとこれあげるわぁん」
杉原さんが片手で差し出したのは、やけに小さく見える救急箱。受け取ると普通の大きさだった。この人といると物の大きさが分からなくなる。
「どうも」
「大したものは入ってないんだけどねぇん。特別隊って救護班ないじゃない? 花田が最近その手の本ばっか読んでるから.......差し入れよぉん!」
確かにウチの隊には救護班がない。それどころか1つも班などない。治療も呪術も戦闘も、区別なく全員がやる。それが出来るメンバーで構成されている。
しかし花田さんがウチの隊にそっちの面で不足を感じているなら、俺も考えないといけない。ハルに色々教えてもらうか。
「で? 仕事は受けてくれるかしらぁん? 」
「.......すいません、何の仕事ですか?」
「んま! これは本物ねぇん! 花田が選ばれる訳だわぁん!! 」
杉原さんが笑う。地鳴りかと思った。
「特別隊にお願いしたい仕事は、護衛よぉん! 護衛って言っても他の仕事もやって欲しいんだけどねん」
「.......誰を、何から守るんですか? 」
「い・ろ・い・ろっ!」
バチンとウィンクを決められる。
黒封筒で強制の仕事とせず、直接俺に
「すいません。相談したいので少し待ってもらってもいいですか?」
「あらあらん? 花田と話すのぉん? なら今呼びましょ!」
「え」
止める暇もなく杉原さんが式神を出す。真っ白な女が部屋を出て、五分も経たずに息を切らした花田さんがやってきた。
「杉原!! なぜお前1人なんだ!! ウチの隊長に手を出すな!!」
「やっだぁ。たまたまアタシしか空いてなかっただけよん! 下心はゼロっ!」
「貴様が口紅を付けている時点で下心が見え透いてるんだ!!」
花田さんが初めから怒っている。嘘でしょ。ちょっと泣きそうになった。花田さんが杉原さんを怒鳴りつけている途中で。
「はっ! す、すみません隊長お見苦しい所を! こんなことなら私もお供するべきでした.......何かされませんでしたか? これを好きなだけ殴っていただいても結構ですよ」
「花田、アンタ早く座ってちょうだいよん。相談に呼んだんだからん」
「黙れ!!」
花田さんが俺の横に座る。花田さんは俺を見ると、さっきまでの怖い顔を引っ込めていつも通り笑った。それもそれで怖い。
「いやぁ、まさか隊長がまだ本部にいらっしゃるとは! それで、私に何かお話ですか?」
全くいつも通りの声のトーン。いつも通りの七三分けに、いつも通りのメガネ。少し安心した。
「杉原さんから、仕事のお願いを受けたんです.......。どう思います?」
「お願いですか?.......隊長、少し失礼します」
花田さん杉原さんを睨みつけた。こっわ。
「おい杉原!! 仕事内容とその他条件の資料ぐらい出せ!! あと正式な仕事では無いならそれ相応の理由があるんだろうな!!」
「もうっ。これだから花田は嫌なのよん」
バサッと杉原さんが資料を放る。花田さんはそれをキャッチして、すごい速さで確認しながら話し出した。
「俺も貴様が嫌いだ。だいたい毎度毎度雑費の桁がおかしいんだ貴様は! 何に100万単位で金をかけている?」
待って。花田さんが俺って言った。貴様って言った。嫌いって言った。待って。
「.......ちっ。まあそれなりの事は書いてあるな」
待って。舌打ちしませんでしたか今。花田さんですよね。いつもニコニコ花田副隊長ですよね。
くるっと花田さんが俺を見る。いつも通りの笑顔だった。
「隊長、こちらご覧下さい。おかしな事は書いてないのでご心配なさらず!」
「ど、どうも.......」
細かい字で埋まった紙を見る。小難しい文ばかりで、全く頭に入ってこない。思っていた50倍は真面目な資料だった。
「.......花田さん。つまりどう言うことですか?」
「正式に処理するには少々不安要素が多いようです。そこで我々の隊が、
「うーん.......」
表沙汰にしない。それぐらいなら別に隊に頼まずとも本部の術者数人を集めればいい。ウチの隊はたったの5人だ。それぐらいの人数集めようと思えばすぐ集まる。
「この仕事内容ですが。正直隊長ほどの術者がする事ではありません。そもそもこれは管理部の仕事です。ですが」
もう一度資料に目を落とす。つらつらと書かれた文の中から、やけに目立つ名前を拾った。
「.......表沙汰って.......もしかして管理部内にも知らせたくないんですか?」
花田さんも杉原さんも何も言わない。それが答えだった。
「隊長」
花田さんが真剣な顔で俺を見る。
「正直こんな事は断るべきです。副隊長として反対します。.......ですが」
花田さんは少しムスッとした顔でメガネをかけ直した。
「.......杉原がこれを最善だと言うなら、花田裕二個人としては支持します」
「了解です。受けましょう」
胸元から白い円の書かれた黒い封筒を取り出す。先ほどの資料を入れて、杉原さんに渡した。花田さんが言うのだから、断る理由はなくなった。
「特別隊が正式にこのお願いを受けます。でも、もし万が一この件で何かあるようなら。俺と杉原さんで責任を取ってもらいます」
「やっだ男前じゃない.......。花田アンタこんな信頼されて.......良かったじゃないのん」
「.......今ちょっと胸にきてるから.......少し待て杉原.......」
花田さんがメガネを取って目頭をおさえる。本当に大丈夫か。ウチの隊は花田さんがいなければ確実に崩壊するので、無理しないで欲しい。
「.......アンタもじじ臭くなったわねん.......オススメの青汁教えてあげたでしょん?」
「.......飲めるかあんなもの」
2人はしばらく軽口を言い合っていた。
「もしかして.......お二人とも仲良し?」
「「まさか!!」」
ばっと同時に俺を見た。そうか、とても仲良しか。
「お邪魔しました。俺帰るんで、何かあったら連絡してください。じゃ!」
「お待ちください隊長!! この筋肉口紅とはただの同期なんです!! あとお車までお送りします!」
「ちょっと筋肉口紅って何よん!! この元ヤンメガネ!! ただの同期の癖に!!」
「あっ! 元ヤン言うな!」
仲良しそうで良かった。俺はそっと部屋を出て、そっと門へ向かう。花田さんに今度休暇取ってもらおう。そうしよう。
その後普通に迷子になった。大慌ての花田さんがすぐ見つけてくれて、夜には家に帰った。
元ヤンと筋肉口紅と言う言葉は、記憶から消した。
ーーーーーーー
唯一の同期である2人。2人とも優秀すぎる、キセキの世代です。(年齢が同じ人は他にもいますが、2人と同時に総能本部に入った人はいません)
花田さんは昔はブイブイ言わせて他の出世頭を弾き飛ばし進んできたタイプ。
杉原さんは何でもそつなくこなしてきたエリートタイプです。
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