illegal fire fair pressure
高圧
謎の壺が飾ってある和室に1人で座ってしばらく経った。
当主と隊長との会議という拷問に近い何かを耐え抜き、さあ帰ろうと花田さんに声をかけた時。本部管理部の何とかという方々に何とかで呼び出されるというイベントが発生した。泣かなかった事を褒めて欲しい。
「.......はあ」
出されたお茶はもう冷えた。なぜこんなことに。
本部管理部は、総能の中でも最大の部署だ。「これどこに言えばいいの?」と言う仕事があれば大体管理部が扱っている。封印したい首があっても、河童を捕まえても、仕事中一般人に接触しても、トイレットペーパーが無くなっても、管理部に言えばいい。
総能には人事部も経理部も法務部もあるが、総務部がない。管理部がその役割を担っている。元々封印管理と土地管理の部署だったらしいが、どんどん巨大化したそうだ。
花田さんに、管理部の部長には気をつけろと言われた。すいません気をつけて帰っていいですか。
冷えたお茶を啜ろうとした時、襖が開いた。
「「あ」」
襖を開けた相手を見て、一瞬で理解した。
「.......君、誰と来たの? 名前聞いていい?」
俺を見て固まった男の子は、妹よりいくつか下ぐらいの歳に見えた。部屋の前で立ち尽くして動かない。俺には分かる。この子.......迷子だ。
「とりあえず座って話そうぜ。ほら、座布団あげる」
座布団を差し出しても、男の子は涙目で立ち尽くすだけ。大丈夫、想定内だ。こんな馬鹿みたいに広い場所で迷子になったら、そりゃ泣きたくもなる。
「俺和臣って言うんだけど。俺はここで数えきれないくらい迷子になったことあるんだ」
先程の会議で、先輩に貰ったお菓子を差し出す。男の子はゆっくり部屋に入ってきた。
「.......お兄さんも迷子?」
「今は迷子じゃないよ。毎回迎えに来てもらえるから」
「.......本当に?」
「本当本当! 君もすぐ迎えに来てもらえるよ!」
俺が飴玉を口に入れれば、男の子も飴玉を食べた。何か食べれば大体大丈夫だ。しばらくは悲しくなくなる。
「.......父上と来た」
「そっか。すぐ来るよ」
「.......僕、しゅうぞう」
「しゅうぞうか。よろしくな」
コロコロと飴玉を転がす音が聞こえる。
「僕もう小学二年生だからね、泣かない。1年生じゃないから」
うっそだろ。もう高3の俺はどうなるんだ。こんなに立派な迷子なんているのか。尊敬する。
「しゅうぞうさん.......こちらのチョコレートもどうぞ」
「? ありがとう!」
やっと笑ったしゅうぞうさんは、チョコレートの包装を剥きながら話し出す。
「今日は見学しに来てねー、いっぱい挨拶してねー、あと視察」
やけに滑らかに「視察」と言ったので、ちょっとドキッとした。
「し、視察ですか!? しゅうぞうさんは社長かなにかで?」
「敵情視察」
「んん!?」
てきじょー視察。どういう事だ、もしかして悪の組織か。俺は一応総能の手下なので、悪の組織が攻めてきたらたとえお腹が痛くても立ち向かわないといけない。
「.......しゅうぞうさんって、総能潰すぞ的組織のトップだったりする?」
「?」
きょとんとしている。勘違いか。良かった、危うく小学二年生にボコボコされるところだった。
「ねえねえ、遊ぼうよ。お兄さんサッカー得意?」
「.......微妙にルールが分からない」
「ええ.......ゴールすればいいんだよ?」
襖を開けて、庭へ降りる。しゅうぞうさんにオフサイドと各ポジションの説明を受けながら、サッカーボールを蹴る。
以前、ハルが縁側の下に様々な遊び道具を隠しているのを教えて貰った。管理部にバレる度新たに隠しているらしく、見つけたらいつでも使っていいよと満面の笑みで言われた。
「お兄さんサッカーボール持ってるのすごいね!」
「俺のじゃないんだけどね.......」
今度俺も遊び道具を隠して置こうか。ただ毎回変な所に行くので二度と使えなくなる覚悟がいるな。
「お兄さんは今日何しに来たの?」
「.......楽しくないお話会」
「?」
「学級会みたいな感じ。それで先生に呼び出されてまだ帰れないんだ」
「ふーん」
微妙に足に当たるボールが痛い。今どきの小学生の脚力すごいな。
「そういえば敵情視察って、何を見に来たの?」
「七条和臣」
とても滑らかだった。滑舌大会優勝間違いなしだった。
「.......し、七条和臣が敵なの?」
まさかの個人攻撃か。
「七条の人間が2人も隊長に選ばれたのは痛い。一条と五条以外の家で差が出るなど千年なかった。七条が台頭してくるなどまったくの予想外。奴らは重箱の隅をつつくように小言ばかり、切るも縛るも一条と五条の後追いだ。そんな奴らがここで力を持つなど。五条を抜くのは」
待て待て待て。どうしたんだしゅうぞうさん。恐ろしいほどスラスラと言葉が出てくる。しかも無表情。こっわ。恐ろしいよ。
「.......三条。いいか、まず七条の次男をよく見ろ。どれほどの術者か頭に刻め。心を折られ絶望しろ。そして、」
「「蹴り落とせ」」
後ろから聞こえた低い声に肩が跳ねる。振り向けば。
「たとえ脚が折れようが飛ぼうが、鞠を失おうが。当たり前だ、それで届くなら笑って差し出せ。届かぬなら全てを懸けろ。そうして我ら三条の時代を築くのだ」
彫りの深い顔の中、やけにギラつく大きな目。三条の現当主、三条
「.......七条和臣。ウチの息子が世話になったな」
「.......いえ」
嘘でしょ普通に話し始めるの? 今俺を蹴り落とせって言わなかった? めちゃくちゃ敵対視してたよね?
「
「走りたくなっちゃった」
蹴三さんはたたっと走って蹴次郎さんの手を握った。本当に嬉しそうで、安心した顔で。迷子の迎えが来る瞬間が、俺は好きだ。
「七条和臣、これで失礼する」
「.......七条和臣?」
蹴三さんが首を傾げる。三秒後。
「お兄さん.......七条和臣?」
「蹴三、きちんと確認しろ。着物の染抜きと線の数で分かるようになっている」
蹴三さんの目が開かれる。そして。
「僕が倒す!! ゆかりを返せ!!」
ビシッと俺を指さして、大声で叫んぶ。そのまま2人は廊下を歩いて行った。最後に蹴三さんは振り返って手を振ってきた。俺も手をふりかえす。2人が見えなくなって。
はて、今何が起こったのかな?
とりあえず地べたに座って空を見た。わあ、なんて青いの。海も空もなんで青いんだろう。綺麗だなぁ。
「.......和臣隊長〜? お部屋で待っててって言わなかったかしらぁん?」
大きすぎる手が、俺の肩を掴んだ。
「ひっ」
「やっだぁ。そんな声出さないでよぉん! .......食べたくなっちゃうっ」
黒い着物の上からでも分かる発達した筋肉。短く黒い髪と、太い首。やけにつややかな赤い唇から、ハスキーな声が出てくる。
「お待たせしてごめんなさいねぇん。何せ管理部は忙しくてぇん」
花田さん花田さん。こういう感じならそう言っておいてください。お願い。この人中田さんより強いよ、圧が。
「本部管理部部長、
ひぃちゃんに引きずられて、俺は部屋に入った。
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