散ればこそ
「和臣、どこ行くの?」
「んー、京都」
「はあ!? 今から!? 仕事じゃないわよね? 明日一限から授業じゃない!」
「代わりに返事しといて! いい感じの声で!」
「ばか!」
夜の10時。玄関で運動靴を引っ掛けて、むっと膨れた葉月に向かい合う。
「明日の夕方には帰るよ」
「.......だって。明日はあなたの誕生日じゃない」
「うん。だから、絶対帰ってくるから」
葉月の膨らんだ頬を潰すと、べしんと殴られた。
「.......1人で行くの?」
「うん」
「たどり着ける?」
「大丈夫! 俺今日運悪いんだ!」
「訳が分からないわ.......」
そのまま車を拾って、京都に向かう。
途中富士山によってもらって、メンチカツと酒を買った。もう日付けが変わったので、1人で酒が買えるようになった。いつか貰った酒瓶も、きちんと持ってきた。
「お客さん、こんな時間に京都?」
「そうなんですよ、花見にね」
「夜桜かい? いいねぇ、若いっ!」
京都について。本来踏み入る事など出来ない山へ入る。今日の俺は最悪に運が悪いので、運悪くこの山に入れてしまう。あの時のように。
「.......うわ、またムカデ踏んだ.......」
その後も散々な目にあいながら、満開の桜を目指す。
完全なる不法侵入だが、後で土下座したら許してくれないだろうか。
「.......おお、綺麗!」
大きな桜の木は、この世のものとは思えないほど綺麗だった。
その桜の木の下に座る。買った酒の瓶を開けて、一気に飲んだ。
「.......約束したから、来たぞー! 酒も持ってきたからな! ははは! 楽しいな! 夜桜!」
ふわふわと楽しい気分になる。ただ花びらが舞うだけで、おかしくてたまらない。
「ふふ、ははは! やっぱり桜はいいな! 帰ったら葉月と見よう! あ、やばいめっちゃ笑える」
何が面白いのか分からないが、葉月を思い出しただけで笑いが止まらなくなった。
「.......変態も、楽しいかな?」
「そりゃあもちろん!! 最高だよ!」
「あ、飲みすぎたかな。幻聴が」
「ええ! 大丈夫かい? 水を飲みたまえ! 君の家族はみんなよく飲むけど、君初めてだろう? 一気に飲みすぎだよ」
「.......」
とりあえず貰った酒瓶を開けて煽った。
「はははぁ! さすがあの酒豪一家!大丈夫かい?」
「ははは! 嘘だろ変態がいるー!」
「よ、酔っ払いじゃないか!」
「.......え? なんでいんの? 死んだよね?」
一気に酔いが覚めた。怖いぐらいに体温が下がる。
「はははぁ! また生き返ってね!でも大丈夫さ! 君がくれたんだろう? 切れない繋がりを!」
変態が見せた指には、糸が結ばれていた。
「いつでも帰れるからね、歩いて来ちゃったよ! 道満との勝負は.......まあ僕の勝ち! 和臣くんの事はこれからも見る! 最高じゃないか!」
「.......え?」
「はははぁ! 僕が誰か知っているかい? 神にまで近づいた男さ! 最強陰陽師ってね!」
「.......」
「あれ? 感動の再会じゃないのかい?」
「.......散ればこそって、知ってる?」
「もちろん! でも、和臣くん!」
ぱちんっと指がなれば。俺の家の縁側だった。
「散るまでは、見ていたいじゃないか!」
それから縁側での飲み会に姉と兄が乱入して、全員ベロベロになるまで酔っ払って。
次の日は、頭痛と共にみんなで花見に行った。
ゆかりんも花田さん家族も誘って。
まだまだ満開の、桜を見に。
ーーーーーーー
散ればこそ いとど桜はめでたけれ 憂き世になにか久しかるべき
「散るからこそ、いっそう桜は素晴らしいのだ。この世に変わらないものなど、ないのだから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます