覚悟


 病室に戻れば、家族全員に本気で説教された。

 堂々と、「肉が食いたい」と要求すれば思い切り頭を殴られた。5発。


「.......ひどい.......堂々としたのに.......」


「このバカ!!」


「俺が悪いの? 葉月、俺が悪いの?」


「そうね」


 突然の裏切り。

 涙が出た時、病室のドアが開いた。


「和臣!!」


 小さなゴスロリ少女が、弾丸の様に俺にぶつかってきた。


「ぐえっ」


「ごめんねぇ!! 私がもっと早く着いてれば.......!!」


 五条治。現在の術者の中で、最強と名高い天才。

 60年前、五条の当主も悪魔に殺された。

 そして、五条家は、もう二度とないだろうと思われた悪魔の再来に備え、術を作った。ただ、それを扱えるものは、現在ハルだけらしい。

 そんな彼女が沖縄にいたのは、全くの偶然。キジムナー大量発生にいたく興奮した彼女が、わざわざ1人でやって来ていたらしい。


「ハルは間に合ったんだ、ありがとう! ハルが居なきゃあのまま終わりだったよ」


 ハルは俺と葉月が全力で回した術を、無理やり高次元に引き上げた。彼女の家も千年続く歴史を持つ。あの儀式は俺とハルが揃うことで、時間的制約をすり抜けた。そして葉月が流れを整えて、普通なら崩壊するレベルの力を術におとしこんだ。


「和臣ぃ、頑張ったねぇ!! 和臣の弟子ちゃんも、頑張ったねぇ!」


 ハルがびっと札を飛ばした。ふっと体が軽くなる。


「ごめんねぇ、血は自分で作らなきゃダメなのぉ。でも辛いのはとってあげる!」


「ありがとう」


 ハルがにっこり笑った。


「.......おい、五条」


 兄貴の低い声が聞こえた。


「お前が変な事言うから勘違いしただろーー!!!」


 何故か兄貴は俺の頭をぐりぐりと押さえつける。


「なんで俺ーー!?」


「黙ってろー!!」


 頬をつねられて、兄貴と父さんがハルにちくちく小言と説教をし始めた。


「和臣、本当に、大丈夫なのね?」


「うん、姉貴、心配かけてごめん」


 姉はしばらく俺の頭を触っていじっていた。妹は俺の膝の上。葉月はお茶を入れに行った。


「和兄」


「ん? どうした、ちんすこう買いに行くか?」


「葉月お姉ちゃん、追いかけて」


「へ?」


「はやく!!」


「わ、わかった」


 急いで部屋を出て、葉月を探す。自販機の前にも、給湯室にも居ない。

 既に自分がどこにいるのかも分からない。

 とりあえず角を曲がれば。


「え? .......葉月さん?」


 葉月がベンチに座って、いつもと同じ表情で泣いていた。


「え!? ど、どうした!?」


 葉月は霊力を全部持っていかれて、しばらく寝ていたらしいが俺が起きてからはずっと一緒だった。怪我もないと聞いている。


「.......私」


「う、うん」


 とりあえず葉月の横に座る。


「和臣が死んじゃったらどうしようって!」


 がっと抱きつかれる。


「五条隊長が、和臣が冷たいって叫んで! 頭が真っ白になって!」


「.......俺起きたよ?」


「ず、ずっと訳が分からなくて! お医者さんの話も覚えてなくて! 和臣は起きたのに、て、手が震えて!」


 気が付かなかった。葉月は、ずっと普通な顔をしていたから。


「み、みんなが来て、生きてるって、思って! そしたら、もっと怖くなって!」


 ゆっくり葉月を撫でて、考えた。俺は隊長になってしまったので、これからも覚悟がいる。悪魔なんて滅多に出ないだろうが、人なんてあっさり死んでしまう。俺がくだらないミスで、妖怪に殺されないとも限らない。


「葉月」


「和臣!!」


 葉月が俺の胸ぐらを掴んで、鼻が触れるほど顔を近づける。


「和臣が死ぬ時は、私が死ぬ時よ! 隣りで死んでやる!! それであの世で殺してやる!!」


「ええ.......? 死なないでよ....... 」


 あと怖いよ。


「だったら和臣が死ななければいいのよ! わかった!?」


「なんでキレてるの.......?」


「和臣ならできるでしょ! 私の師匠なんでしょ!」


「.......」


 葉月の目が俺を見る。しっかり、俺を見ている。

 覚悟の仕方が現代の女子じゃない。さすが武将。


「葉月、俺は覚悟を決めたよ」


「だから.......!!」


「葉月の隣りで死ぬ覚悟だ!! 畳の上でな!」


 思いっきりキスした。ガチっと歯がぶつかったが、知ったこっちゃない。


「ダメか?」


「.......なによ、かっこいいじゃない!」


 葉月は真っ赤な顔で笑って俺に抱きついた。

 俺の覚悟は、武将の心に響いたらしい。


 それから、全てを見ていたらしい看護師さんにニヤニヤしながら部屋に戻されて。

 退院してそのまま京都に報告に行って。

 しばらくうちの食卓に肉が並んで。


 学校に行けば俺が修学旅行の途中で消えた理由が、ヤンバルクイナを追いかけて迷子になった事にされていた。


「.......ヤンバルクイナはないだろう。なんで?」


「沖縄と言えばそれかしらって.......」


 葉月と学校帰りに本屋によって、参考書を探す。


「.......」


「ほ、ほら! 町田さんの写真集よ! 買わないの?」


「.......買うけども」


 参考書とゆかりんの写真集を買って、バスに乗る。


 家に帰れば。

 玄関の棚の上に、2匹の赤いシーサーがいる。

 一匹は、猟奇的事件の香りがするけれど。

 隣りに並んで、ずっと一緒に。




ーーーーーーー


なろうさんでの感想の返事を貼らせてもらいます。


悪魔とは、人と契約することでこの世界に来ます。沖縄に現れた悪魔は、大分昔にある人と契約しました。その人の望を叶える代わりに魂を貰う契約です。魂と結んだ契約が果たされるまで、悪魔は繋がりに頼ってこの世界にいることが出来ます。その繋がりは、契約なので簡単には切れないし、普通は目に見えません。

和臣はあの瞬間少しハイになったと言うか、ちょっと人間離れした所にたどり着いて、契約を破棄しました。それで悪魔は帰っていきました。和臣は他人の契約を切っちゃったんです。これには変態も驚きでした。天才です。

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