悪魔
「悪魔って.......物語の?」
「詳しくは俺も専門外だ!! くそ、なんでこんなとこにいるんだよ!」
急に静かになったじいさんに詰め寄る。
「おい、エロジジイ! お前なんかやっただろ! 儀式か、契約か! 言え!」
「和臣、落ち着きなさいよ」
「あああ!! くそっ!」
式神を飛ばして悪魔を追わせる。
「.......ああ、行ってしもうた.......」
頭が沸騰しそうだ。そして、一周まわって静かな思考になる。
「.......じいさん。アレは、あんたが呼んだんじゃないのか?」
「.......」
「どういうことよ」
「俺は悪魔だとかドラゴンだとかは専門外だ。でも、契約って物は日本だろうがどこだろうがさほど変わらない。もしじいさんが悪魔と契約しているなら、あんなに簡単に出ていくはずがない。契約主なんだからな」
「.......わしの、.......」
「まだ言ってんのか!」
「和臣」
ぎゅっと肩を掴まれる。分かってる、冷静じゃない。
分かってる、この場でアレを始末しなきゃいけないのは俺だって。分かってるんだ。
「おじいさん、あなたの事なんて、私は一切興味がないの。でも、さっきのを放っては置けないのよ。ここには沢山人がいるから。早く話なさい、私はその彼より手が早いの」
拳を上げて葉月がじいさんを見下ろす。
「.......ありゃ、天使じゃ」
「は?」
「昔聖人に会っての。授かったんじゃ。天使を身に宿す代わりに、悪霊を祓うと約束して」
「おじいさん、あれは悪魔よ」
「何を言うとる、聖なる力の塊じゃ」
「和臣、殴った方が早くないかしら?」
葉月が話している間に、手袋と指環をつける。3回大きく深呼吸をして、電話をかける。
「葉月、あとで殴ってもいいからちょっと待て。.......もしもし? 七条和臣です」
「はーい、経理部兼任の花田.......ってあれ? 隊長、今ご旅行中では?」
「はい、沖縄です。 悪魔を見ました、一応退治はしてみますけど、誰か専門家って.......」
「悪魔.......ですか」
電話越しにふぅっと息が聞こえる。少しも取り乱さない、やはり年の功か。
「.......隊長、今全力で専門家を探してます。ですが、間に合うかは分かりません」
「でしょうね。なので」
「はい。事後処理はおまかせください」
「ありがとうございます。あ、これ何かかっこいいこと言った方がいいですか?」
「余裕ですねぇ、さすが隊長殿」
「さっきはビビりまくってましたよ」
「「ははは!」」
葉月が怪訝そうにこちらを見ている。
「隊長」
「.......おう、なんだ花田副隊長!」
胸を張って大声で叫ぶ。
葉月がぎょっとして俺を見る。
「ご武運を!! 来年の盆には、会いに来てください!」
「よっしゃあ!!」
ぶつっと電話を切って、式神が全て消された方向を見て笑う。
「和臣? 急に花田副隊長にタメ口なんて、どうしたのよ。それに、急に余裕そうじゃない」
「まあな! 葉月、仕事頼んでいいか?」
「ええ。もちろんよ」
ガバッと葉月を壊れるほど力強く抱いて、一瞬で離れる。
「そのじいさん先生に突き出せ! 出来るなら警察だ! それから、また何かよってきたら手加減ぬきでぶっ飛ばせ!」
「当たり前よ! 和臣、早くやっつけてきて! 清香ちゃんにちんすこう買うんでしょ!」
「おうよ!」
札を回収しつつ、走り出す。悪魔に札は効くのか、俺の糸は通じるのか。何も分からない。
日本で悪魔の討伐記録は、過去に1度だけ。60年前、一条と五条、九条の当主と5人の隊長達が挑み。
全員死んだ。
そうして、たった1匹の悪魔に勝ったのだ。
「日本式じゃ、相性が悪いのか.......。それとも別の原因か.......」
札で移動を加速しながら進む。
「.......札は充分! 装備も万端! 調子は絶好調だ! この俺が勝つ!! かかってこいやぁっ、西洋かぶれ!!」
追いついたそれに、思い切り札を投げる。
ベタりと張り付いたそれは、思い通りの効果を発揮する。
『ヴヴヴ.......』
また札を投げて、そいつの正面に滑り込む。
開けた公園に、札をばらまいて一般人を遠ざける。
「.......効いてるのか?」
足止めの札の効果か、そいつは動かない。
やけに長い膝下に、アンバランスに短い肘から下。
顔は人とは作りが違うのか、不揃いな歯が散らばって目や鼻はどこか分からない。
黒いのか紅いのか。全身を皮膚とは言えない何かが包み、そいつはただ立っている。
『ヴ.......』
ぐるりと頭が回って、赤黒い瞳の様な物が見えた。
「結構キモイな。お前、モテないだろ?」
『ヴヴ』
「 さっさとモテない星へ帰れ! 【滅糸の
1対1、ガチンコ勝負で漢を見せてやる。
俺の彼女は武将だぞ、ここで引くなど有り得ない!
震える膝を無理やり立てて。俺が尊敬する、強い人達を思い出す。
覚悟は決めた。もう振り返らない。今に全てを振り切って。
死んでも、勝ってやる。
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