自由

 正直に言おう。


「最高に楽しい」


「それは良かったわ」


 葉月と国際通りを歩く。これだけでめちゃくちゃ楽しい。どうでもいいお土産すら買ってしまうレベル。

 そして、ここに来てうちの学校の意外なカップルの多さに驚いた。というか、修学旅行中に乱立したらしい。あらやだ、ふしだらなこと。


「.......」


 葉月が中身が出たナマコを見る目で俺を見た。


「.......ん?」


 前に居る男子集団。もちろんうちの学校の彼女いない同盟名誉会員達だが、何やら様子がおかしい。よく見れば小柄なじいさんに絡まれている。


「あ、昨日のじいさんだ」


 いつの間にか田中と川田が隣にいた。というか、昨日のじいさんか。


「あーー。葉月さん」


「何かしら、?」


「やっぱり.......?」


 仕方なく謎のじいさんの元へ行く。やはり重要なのは第一印象。にこやかかつ爽やかに、めんそーれ精神だ。


「こんにちは」


「わ、七条! 何してんだ、やべぇって」


「お前ら早く行けよ、俺ちょっと話しとくから」


「おい! このじいさんまじでやべぇんだって」


「何をしとるか小僧ー!」


 突然怒鳴られた。だがこの程度、八条の当主の方が8倍怖い。


「し、七条.......」


「大丈夫だから、行けよ。適当に切り上げるし」


「.......先生呼んでくる!」


「いや、大丈夫。やばかったら電話するし」


「.......」


「大丈夫よ、ほら。遊びに行けばいいじゃない」


「うお!! み、水瀬!」


 名誉会員どもは急にニヤニヤして去っていった。天誅。


「聞いておるのか小僧ー!」


「あ、すいません」


 じいさんはよれたタンクトップに、謎の石のネックレス。さらに両腕にこれまた謎の石のブレスレット。さらに2リットルのペットボトルを持っている。完全に不審者だ。


「あの、おじいさん。昨日なんですけど」


「おい、小僧! お前に悪霊がついておる。ワシがはらっちゃる。大丈夫、安心せい」


 何を安心すればいいのか。


「あのですね。あんまり下手なことしないで欲しいんですよ。昨日みたいにデタラメな事すると、ガマとか力が溜まっちゃう場所では良くないので」


「デタラメ!? ワシは60年間悪霊を退治しておるんじゃぞ!?」


 わーお。60年間よく生きてたなこのじいさん。


「えっと。俺達ちょっとそういうのに詳しいって言うかなんて言うか。まあ、プロ的なアレなんで、おじいさんのやってるのはちょっと違うなーって」


「ああ、まずいぞ! 声がし始めおった! 早く退治せねば!」


「聞いてますー?」


 じいさんはブツブツと何かつぶやきながら両腕のブレスレットをジャラジャラと擦り合わせる。


「.......和臣、ガチじゃない。どうするのよ?」


「もうわかんないよ.......」


 総能が60年も放って置いたのが悪いのではないか? なんで俺がこんな事を。


「.......一応隊長じゃない、あなた」


「今最高に辞めたいよ.......」


 まだブツブツと言っているじいさんを見て。ぎょっとした。


「おお!? じいさんストップストップ!!」


 慌てて腕を抑える。


「離せぇ!! 途中で止めたらいかん! お主に悪霊が!!」


「いや、あんたがやばい! 変なもん出てる! あと呼び寄せてる!」


「アブラカタブラ!!」


「やめろ!」


 しかも日本式じゃねえのかよ。


 触ってわかったが、このじいさん相当まずい。

 人の霊や、雑魚が積もったものなど、大量に溜め込んでいる。


「じいさん、あんた体調悪いだろ!?」


「何を言うとる!! 悪いのはお主じゃ小僧!」


「.......話通じないなぁ、もう」


 涙が出る。


「ちょっと。おじいさん、いい加減にしてちょうだい」


 葉月がピシャリと言った。


「あなたのそのデタラメな方法で、他人に迷惑がかかってるの。今だって彼が止めてるのは、あなたのためよ」


「.......? お、お主.......なんて美しい気じゃ」


「「はあ?」」


「お主の近くは清らかじゃ。生まれて初めて見たわい.......」


 フラフラと葉月に近づこうとするじいさん。


「おい、葉月。後ろにいろ。このエロジジイ!」


 ジロジロ葉月を見ているじいさんの腕を掴みながら過剰なレベルで霊力を放つ。ばぢばぢと音がして、じいさんにこびりついた悪い物が吹き飛ぶ。


「な、なんじゃ!?」


「ちょっと和臣! こんな大通りで!」


 びっと札を飛ばしてこの場所を見えずらくする。これで一般人は自然とここを避けることになる。


「おい、エロジジイ。そのデタラメな悪霊退治とやらを今すぐやめろ。その石も、変なもんだから捨てろ」


「こ、この石は聖なる.......」


「そんなもんじゃねぇ。いいか、あんたはちょっと器のキャパが大きいから、こんなに悪いもんがついてても霊力なしで生きてる。でも普通の奴にとっては1匹憑いただけで一大事だ。下手なことはやめて普通にしてろ!」


「か、和臣.......」


「葉月、出てくるなよ。エロジジイだから。いいか、もうやるなよエロジジイ! 【滅糸のめっしのご尽裏糸つりいと】!!」


 乱暴にじいさんの周りの妖怪や霊を消して去ろうとする。


「和臣!」


「!?」


 葉月に肩を抑えられ、無理やり屈まされる。頭上をすごい速さで通り過ぎたのは。


「まずい!! こっちも西洋だったのか!?」


「どういうこと!?」


 ポケットに入れた指環と手袋を確認する。


「あれが、.......悪魔か.......?」


 じいさんから出た悪魔が、俺の札をこえた。

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