友情


 勢いよくドアが開いた。

 隊員達は慌てすぎて、転んだ1人に躓いてその場に積み上がる。


「お前らーー!! 何やってんだー!!」


 部屋から出てきたのは。

 上半身裸の、九条隊長だった。


「お前ら、また性懲りも無く!」


「うああああ!!」


 俺は慌てて九条隊長の前に立つ。そして、こちらを見ている隊員達の頭を抑えつける。


「こ、これはダメだろう!? 生はダメだろう!!」


「おい、お前っ!」


「ダメだろ、女性に対して、嫁入り前だぞ!?」


「.......」


「覗きっていってもこれはダメだろ!! 一対多数はいじめだろうがぁ!!」


 俺が隊員達の頭を押さえつけていると。


「.......し、七条隊長.......後ろ.......」


 隊員が真っ青な顔で俺を見上げる。

 振り向くと。


「.......っ!!」


 涙目の九条隊長が思いっきり腕を振り上げているところだった。半裸で。


 ばぢんっという音と共に首がもげたと思った。

 廊下に倒れ込んで、ぐわんぐわんする頭を上げて九条隊長を見れば。


「.......っ! だから、嫌いなんだー!」


 だっと走っていった。半裸で。


「.......え、」


「七条隊長.......まずいです。ウチの隊長ああなるとしばらく戻らないんです.......」


「.......え、」


「追いかけてください。私達ではどうしようも.......」


「.......え、だって、覗きしてたのは、え?」


「七条隊長、ウチの隊長のNGワードをお教えします」


 その後、俺は宿舎の窓からそのまま外にでて、目の前の海へと走った。

 言われた通りブロックの陰を見れば、体育座りの九条隊長がいた。半裸で。

 俺はそっと隣りに座って膝を抱える。

 茜色の海を見ても、今は全く心が動かない。


「あー.......その。すいません」


「.......」


「女性.......だと.......思ってて.......」


「うああああ!!」


 バシャンと砂をかけられる。


「.......すいません」


「だ、だから! 嫌いなんだ!」


「ごめんなさい.......」


「お前の兄貴もなぁ! 俺のこと、女だと思いやがってなぁ!」


「.......」


「爽やかに手をかしてきやがって! ちょっとかっこいいって思っちまったんだよーー!」


「.......ウチの兄貴がすいません」


 兄貴は女性に優しい。昔から結構モテる。なぜ俺はモテないのか。


「俺だってなぁ! もっと身長があって、筋肉があればなぁ!」


 それはもはや別人とは言えなかった。


「.......俺も、背低いですから.......」


「お前まだ高校生だろうがぁ!! 俺はもう26なんだよ!」


「.......ぎ、牛乳とか」


「1日2リットル飲んでんだよ!」


「.......」


「隊員なんて、俺が男って分かってんのに覗きは無くならないし!」


「.......」


「いまだにコンビニで年齢確認されるし!」


「.......」


「免許証の性別の偽造を疑われるし!」


 不憫だった。


「あの.......結構、男らしい所も.......」


「どこ? 言えよ、どこか言えよ!」


「.......ま、眉毛、とか.......?」


「うああああ!! やっぱり嫌いだ、お前らなんかー!!」


 俺の方が涙が出てきた。


「.......あの、戻りませんか? もうすぐ夜.......」


「.......」


 膝の間に顔を埋めてしまった九条隊長はピクリとも動かない。


「く、九条と言えば! 呪術、呪術ですよね! 今回の仕事も! 頑張りましょうね!」


「.......お前、天才なんだろ。俺なんかいらないんだ」


「そ、そんなこと.......!」


「知ってる.......お前、専門でもないのに呪術できるんだろ。俺が何年もかけてできるようになったモンを、簡単にやりやがって。お前がやればいいじゃないか」


 ぶぢっときた。


「.......俺だって、」


「ああ?」


「俺だって、好きで天才なんじゃないわ! ナヨナヨしやがって、だから女って言われんだよ!」


「なんだと!? 俺のどこがナヨナヨしてるって言うんだ!」


 砂浜に立ち上がって睨み合う。

 そして。


「この野郎!」


 結論から言おう。


 ボコボコにされた。俺より腕が細いのに、信じられない力で殴られ、最後は馬乗りになってボコボコにされた。


「おら、俺のどこがナヨついてんだよっ!」


「.......ひいん」


 正直に言おう。俺は殴り合いの喧嘩などしたことが無い。中学のとき田中に軽く小突かれて泣いてから誰も手を出してこなくなった。


「.......え、泣いてる?」


「.......痛い」


「おい、ウソだろ.......。さっきあんなにイキっといて?」


「.......口の中切れたぁ.......」


「ご、ごめん」


 九条隊長が俺の上から退いて、チラチラとこちらを見ている。


「.......普通ここまでやる? だって、もう途中からおかしいじゃん。一発目で無理だってわかったじゃん」


「.......」


「俺だって、生意気な事言ったよ? それはごめんね? でも、こんなに殴る?」


「.......」


「砂でジャリジャリだしさぁ.......見て? 俺の右頬見て?」


「.......」


 ぶっくり腫れた頬に触れて、また涙がでる。


「.......七条、和臣」


「なに? まだなんかあるの?」


「俺も.......無神経な事言って.......殴って.......ごめん」


「.......もういいよ。俺もごめんね」


 立ち上がれば、九条隊長が優しく俺の服の砂を払ってくれた。


「.......戻って冷やそうな」


「うん」


 何故か肩を組んで宿舎に戻る。


「なあ、優止って呼んでいい?」


「ああ.......俺も和臣って呼ぶ」


 奇妙な友情が生まれた日だった。

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