第13話
ヲサカナの白い作品像が、たった一撃で粉々に砕け散って後方へ吹き飛ぶ。その影を追うようにして、荒れる炎の海がさざめきにも似た輝きで鎮火していく。最後には何の変哲もない、
「
開け放った窓から大声で呼び掛けてみるも、返事がない。
不意に、何か異変を察した士々瓦さんが水面の上に立つ
「聞こえますか、メルトさん! オレです!」
やはり返事はない。赤々と燃える瞳は
士々瓦さんがすかさず動いた。手袋の上から握っていた何かを獣の唇の隙間へ捻じ込むと、火を付ける。とたんに辺り一面にすっとした臭いが立ち込めた。一服の煙草だった。嗅覚に反応してか
上る煙を見つめながら待つことしばし。半分ほど吸ったところで、今度は優しく声を掛けた。士々瓦さんに焦った様子はなく、私は二人の様子をそっと見守っていた。
「メルトさん」
呆れたような、それでいて疲れたような声。著しく感情の低い声で彼は言った。
「……ああ、聞こえた」
瞳を閉じたままに、ゆったりとした声が返ってきた。語調はやや遅いが私達と同じ言葉で返事をする。猛っていた獣の言葉ではなかったことに、安堵した。獣の姿のまま、彼は一言「すまない」とだけ謝った。
「いいですよ。反撃手段はあったんで」
さも当然のように士々瓦さんが囁いた。隠すように、煙草を衣服のポケットに入れた。
「殴る前に一服しておいて良かったですね。これで」
「夢を――見ていた。懐かしい夢だった」
私達のことも任務のことも忘れ、まるで視界の裏に広がる光景に想いを馳せている。心の中で風を感じ、深い呼吸をし、安住の地が損なわれていないことを喜んでいた。
「…………」
ほんの少し憂うように足元を気にかける。
車内は浸水が始まっていて、もう足が隠れるほど水が上がってきている。私達は、武器を捨て装備を捨て、愛用したテスタメントハーマーを捨てて出来る限りの軽装になり、本来の姿に戻った
「さて、行くか」
瓦礫の降りしきる中、妖精の歌声が響く。それは彼の翼がはためく音。光輝く毛並みの背に
波がさざめくだけの穏やかな光景を目にしたときに、少しだけ。
こみ上げた。
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