第11話
ゆっくりと目を開ける。
どうやら覚醒したらしい。
服も道具も木端微塵に消し飛んでいるけれど、そんなのは本当に些細なことだ。
「ごめん。心配掛けた」
二人の顔を見上げる。正直な話、いつからこの地面に立っていたのかさえ分からないけれど、
「
雷鳴の轟く中、太く滑らかな声が響いた。
黄色のフルジップパーカー。黒いスカートにタイツ。
「ありがと」
損傷の失せた身体に服を纏ってゆく。首にしても、調合薬を補填された感覚がある。
「痛みはないッスか?」
雨の中で着衣している私の背に、士々瓦さんが問い掛けた。首だけ向けて返事をする。
「うん。脳も問題ない。ヲサカナは?」
「だいぶ消耗してるッスよ」
「そろそろ勝機の光が差してく ッ!」
会話が途切れて、音。
いきなり背後に躍り出た
と。
士々瓦さんがいきなり私の手首を掴んでがむしゃらに駆け出した。近くにあった樹に雷が直撃し、爆風と轟音が襲った。雨のせいか、火は立たない。
「ちょ、ちょっと待って!
息堰切って走る士々瓦さんは戦場から出来るだけ離れようとしていた。
「どうするもこうするもないッスよ! わかんないッスか? 味方が近くにいれば逆に戦いづらくなる。最悪、負けることだって有り得るッスよ?」
そうだ。私は戦闘においては足手纏いで、二人のお荷物でしかない。
「けど、メルトさんは絶対に負けないッス。そのために悪性橋へ来たんスから」
その言葉で思い出した。私にして欲しいことを、
「他者の存在認証があってこその生だ。誰かに認めてもらわなければ存在さえ立ち消える。独りで存続出来ない……」
情念の類が今回の問題を、危機を解決する。乗り越えるカギになる。
ええと、何だったっけ? 思い出せ。私達三人の――
「そうッスよ。メルトさんは他人との繋がりで強くなる」
そうだ。
絆、もしくは信頼が
「メルトさんは絶対に負けないッス」
士々瓦さんが対峙する二者を見据えながら力強く呟いた。
つられて上を見る。膨大な広葉樹の枝葉を踏み潰しながら
けれど私がやるべきことも、しかと見据えている。大丈夫。いつも通りにやればいい。
「ねえ、士々瓦さん。
「そりゃあ調整も終わりましたし、起動させようと思えばいつでも出来るッスけど……。何に使うんスか?」
私は体内に仕込んでおいた
「何ってそりゃあ? 応援以外にないでしょ」
微笑みながら電源を入れる。キィンという鈴鳴りに似た音が悪性橋を通り過ぎ、やがて消えた。宣言通り、
息を吸う。
声にして届ける。
『何やってるんですか、
響く響く。響き渡る。
昏い森に、街町に、橋の上下に。
そして何より人々に――。
私の叱咤激励が大音量の熱波となって人々の心に響く。呪いの
『負けたら承知しませんよ! あ、煙草は終わってからにして下さいよォ!』
目を丸くして私を見下ろしている
叫んでいる間に、テスタメントハーマーが私と士々瓦さんを裂くかのように突っ込んでくる。本物の津波を回避するために彼が呼び寄せたのだった。
二人が乗車するとまもなく橋の遥か向こう、真っ黒な大海から低い轟きが迫ってきた。ついに来たのだ。
乱戦の最中、ヲサカナが大津波を呼び寄せ、死水の海を創造するに至る。
甲高く、ゆったりとした金属の摩擦音。それが頭上から響いてきた。軋みとも唸りともつかない鉄の響きは、悪性橋の崩壊を示していた。
足元からは地鳴りが響き、地盤崩壊と沈下とで徐々に侵食されてゆく。
このままだと香下は崩れた橋の下敷きになり、景下は崩れゆく橋と運命を共にする。止まっていた時間が唐突に息を吹き返し、香下の住人達は広大な森と共に盛大に罅割れて、彼らの存在を否定するかの如く、木っ端微塵に消滅した。
まさに青天の霹靂。残ったものは崩壊寸前の色褪せたドッペルテキンセンション以外には何もない。それもじきに灰色の
「
士々瓦さんが短く言って、テスタメントハーマーを発進させた。彼は朽ちた都を一瞥すると、かつて腐葉土だった
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