第4話
「ない!」
棚を見ると、
ということで、気分転換も兼ねて店まで足を向ける。燃料の素材ならここは事欠かない。
「あ、スーちゃんだ」「ほんとだ」
通りを歩いていると、名も知らぬ少年少女が振り向いたので笑顔で手を振る。彼らは堂々と
「今日はなに話すの?」「面白いのがいい!」
徐々に、または一斉に皆が口を開く。まるで小鳥の合唱だ。
「あー、今日はですねえ、サプライズがあるのですよ。だからお休みなのです」
そう告げるとやはり子供達は盛り下がった。再度手を振りながらディベレキラの前から去る。今日は多少の覚悟を決め、骨を折るつもりだ。
「
「おや、
「ジョークはいいよ。そう言う爺ちゃんこそ、物好きなんだから。科学物質なんて売ってる店、橋の上じゃここしかないじゃん。身体の手入れのためにも必要な品だし。たまには全力出さないとね?」
「活きが良いのお。ワシに
言って、豪快に笑う老人はバイクの持ち主だった男であり、私を轢き殺した張本人だ。私はあえなく事故に遭い、生死をさ迷っていた。当時、士々瓦さんは楽器から武器へとシフトを変え、戦闘用女性型機械の試作機を組んでいたが、そこにちょうど瀕死の
それからというもの、私は一般人でありながら最強の身体を譲り受け、老人は士々瓦さんの影響で機械工学を独自に勉強し始めた。今ではこの店の常連で、足しげく通っている。
「轢かれた時は妙齢の女性だったんになあ……」
「なぁに感慨に浸ってんのさ。別にいいの。これはこれで楽しいよ」
「そうかい、そりゃ良かった。はい、注文の品。一本オマケしとくから。それと、このホルスターも持っていきな。液体燃料だけなら十本入る。試着してみな」
言われた通りにホルスターを着けてみる。胸の前に背負うようなタイプで、中身が見えるように、革の部分には窓があった。身体にピッタリ合い、着け心地も悪くない。
「何から何までありがと、爺ちゃん。お代は今度払うから!」
蒸留水の入った紙袋を渡しながら、爺ちゃんが言った。
「
「それは生身の身体も一緒だよ」
注文した品物を受け取って、私は店を後にした。
玄関扉を押して入るとまず、正面に姿見と椅子が見える。独特の装飾が多い椅子は、士々瓦さんが手術祝いとして贈ってくれたもので、休憩場と荷物置きを兼ねている。出入口の近くに姿見があるのはメンテナンス道具を置く棚が扉のすぐ脇にあるからだ。部屋の中央に鎮座するガスタンクは
さっそくシートを広げてマターテル・オートを試験管へ精製する準備を始める。まずは箱の引き出しから気体圧縮筒を出し、次いで配管を取り付けてゆく。銃のように複雑にも見えるが、実際は簡単だ。幾つかの
お世辞にも女の子らしいとは言えない部屋で回復薬や甦生薬などの薬品を過不足なく精製し、数と種類を確認する。
茶色を基調とした被薬品用の上着と、身体機械専用の隙のない
最後に、しばらく戻っては来ないだろう部屋を静かに見渡す。私の背後にはいつの間にか
「心配するな人間。その身体は並大抵のことじゃ損傷しない。最高の
ただの事実を述べているだけなのだろうが、励ましの言葉にも取れた。お前は死なない、士々瓦の腕を信用しろと。そう言っているように聞こえた。
「そうだね。補填や組み換えが出来ないと戦えないし、
「その言葉は職人冥利に尽きるだろうな」
そう呟いた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます