第13話 アベルの我慢

 魔王近衛隊といえば騎士階級の花形的な役職だ。

 辺境領守備役などと比べようもないほどに。

 ただし、末席に名を連ねる者の扱いはどんな職場であろうと悪い。悪いのだ。


 兵舎で備品の武器の手入れをしていると、俺より上位に位置する騎士が現れた。


「おい新入り」

「はい」

「馬に餌やっといてくれ。ついでに馬糞まぐそも片付けとけよ」


 気性の荒い馬に絡まれながら 厩舎で馬糞塗れの敷き藁と格闘していると、


「おい新入り」


 と別の騎士が現れた。


「食堂の清掃やっとけ」


「おい新入り」「新入り」「入り」「り」

「ぼさっとしてんじゃねえぞ」

「……」


 朝から始めた仕事だったが、全く終わる気がしない。

 ……そもそもこれは騎士の仕事なのか?

 そこへ、新たな騎士が現れた。

 俺の教育係をしてくれている騎士イェルク・ブルクナーだった。


「アベル殿、すまないね。うちの連中は口が悪くて」


 この男は俺に頭を下げた。この男は近衛騎士の中ではまともな性格をしている。


「いえ、大丈夫です」

「大変だと思うけど、慣れるまで頑張って。何かあれば僕まで連絡を」

「ありがとう……ございます」

「あ、今やっている仕事が終わったら執務室に来てね。書類仕事が待ってるからね」

「……はい」


 前言撤回だ。どいつもこいつも!

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「抜けと言われた聖剣へし折ったら~」特別編 江田・K @kouda-kei

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