第12話 アベルの右腕

「陛下、それは一体どういう御沙汰で……」

 ギュンターに、魔王サターニアは笑みで答えた。

「今言った通りだが? そこのアベルを近衛に編入する」

「しかしその者は親殺し――」

「殺してはおらん。未遂よ」


「しかし!」


「くどい。余の決定に異議があるなら、余が相手をしてやろうか」


 魔王サターニアが立ち上がった。

 小柄な、それこそコーネリアよりも小さな体躯から放たれる殺気は尋常ではなかった。怯まず向き合っているギュンターの胆力もかなりのものだ。


「失礼致しました、陛下」

「フン、まあよいわ。ギュンターの言い分もわからんでもない」

「畏れ入ります」


「――さてアベル。近衛と言っても貴様は最底辺の一兵卒だ。上官に逆らうことは赦されない。理解したうえでしっかりと励め。これこそが余が貴様に与えるよ」

「……拝命致します」

「うむ。では就任祝いに良いものをやろう」


 そう言うと、魔王サターニアはかざした右手を

 肘から先が異空間に消えている。


「たしかこのあたりに……おお、あったあった」


 抜きだした手には黒い金属の塊があった。

 それをこちらに投げ渡してくる。


「受け取るがよい」

「これは……」


 義腕だった。


「それは闇妖鉄ダクレスアイズンで鍛造された義腕よ。魔力を通せば動く」

「陛下! そのようなものを下賜されては――」

「まあそう喚くな、ギュンターよ。就職祝いというやつだ。それにこれも試練のようなもの。さあアベルよ、腕に付けてみよ」


「はっ」


 闇のように深い黒い腕を腕の切断面に当て、魔力を流した。

 吸い付くような感触。

 血が通うような感覚。

 手指が、動く。


「フッ、良く似合うではないか。精々励むがよい」


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