第11話 アベルと魔王

 謁見の間には魔王ひとりしかいなかった。

 玉座に座る華奢な体躯をひじ掛けに預けて、肘をついて手を顎にあてていた。

 威厳もなにもない。

 気怠けだるげな少女の姿。


 絶大な魔力を除けば、だが。


 これが魔王サターニアか。


「ギュンター、手間をかけたな」

「労いのお言葉感謝いたします、陛下」

 ギュンターは一礼し、

「卒爾ながら申し上げます。この不埒者が拝謁の栄に浴するのはもう仕方ありませんが、おひとりでお会いになられるのは如何なものかと」

「ふふ、余の身に危険が及ぶとでも?」

「はい。万が一に備えてせめて近衛を傍にお置きくださいますよう」

「近衛隊長ギュンター・フィリップス。余を誰だと思うておる」

 

 そう発した瞬間、魔王から放たれる魔力の圧が増した。


「余に仇なすことができるものなどおらぬ。ゆえに余が魔王なのだ」

「はっ、失礼いたしました陛下」

「構わぬ。ギュンターの忠誠心からの諫言、心に留めておく」

「それでは、私はこれで――」

「いや、ギュンターも居れ」

「はっ? はい、畏まりました」


 ギュンターの訝しげな表情を無視して、魔王は俺に視線を向けた。


「さて、アベル・ルッヘンバッハ」

「はい」

「今回の件は既に聞いておる。何か申すことはあるか?」

「ございません」

「ふむ。どのような処分も受ける、と?」

「はい」

「覚悟はできている、か。よかろう。――それではアベル・ルッヘンバッハ。貴様は只今よりギュンター・フィリップス麾下、魔王近衛隊の所属とする。精々汚名を雪ぐがよい」


「はっ!? へ、陛下!?」


 俺よりも先にギュンターが声をあげていたのが面白かったのか、魔王は悪戯っぽく微笑んでいた。

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