第10話 アベルは宮殿へ

 地下牢獄から連れ出された俺は何日ぶりかの日の光を浴びた。

 陽光に目が眩む。


 謁見のため宮殿に行く前に、近衛兵詰所で風呂に入れられた。水風呂だった上に、見知らぬ衛兵にデッキブラシで全身を擦られた。まともな扱いを受けられるとは思っていなかったが、完全に汚物扱いされるとはな。

 濡れた体は、風の魔法で乾かされた。タオルさえ与えられない。


 だが、与えられた服は新品だった。

 これは俺のためではなく、魔王の不興を買わないためだろう。


「魔王、様か……」


 魔王サターニア。

 妹のコーネリアの同窓にして、史上最年少の魔王。

 その魔王の宮殿。

 

 正面の入り口からまっすぐに伸びた廊下を引きずられるようにして進み、二階に上がったその先に謁見の間がある。扉の前に衛兵がいた。この衛兵は俺を見ても表情を変えなかった。己の職務に忠実な誇り高い魔族だと、俺は感じた。そんな風に考えることなど、今までの俺にはあり得ないことだ。


「アベル・ルッヘンバッハを連れてきた。取り次いでくれ」


 俺を連れてきた魔族そう告げると、衛兵は黙って頷くと、


「ギュンター・フィリップス様ですね。陛下への謁見に際して武器をお預け頂きたく」


 と言った。

 ギュンターと呼ばれた男は腰の長剣を手渡す。


「アベル様は武器をお持ちではないですね」

「ああ」

「勝手に声を発するな!」

 ギュンターの拳が俺の頬を打った。口の中が切れた。

 睨みつけると「その目をやめろ」とまた殴られた。


「やめよ」


 扉の向こうから声がした。

 まだ若い、幼ささえ残る女の声だ。

 同時に強烈な魔力の圧を感じた。


「差し許す。通せ」

「ははっ」


 衛兵が扉を開いた――

 

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