その2「隻腕のアベル」
第9話 アベルのその後
俺は辺境領管理部門に護送され、何年振りかに魔王直轄領を訪れることとなった。
宮殿に向かうことは当然なく、地下牢獄へと連行された。
あの人間に斬り落とされた右腕には包帯が巻かれ最低限の治療が施されていた。
そのおかげというべきか、そのせいというべきか、俺は生きていた。
独房に放り込まれその日から「親殺し」などと呼ばれるようになった。
地下牢獄の独房には日に二度、看守が訪れる。
「おい、エサの時間だぞ。親殺し」
「……」
「ほらよ」
鉄格子の隙間からトレイを差し入れられ、受け取る前に床に落とされる。
乾いた音が狭い独房に響く。
「……」
俺はトレイを左手で拾い上げ、抱え込むようにして食事を摂った。
「辺境領旧男爵家の跡取りが、惨めなもんだな」
侮蔑。
嘲笑。
嫌悪。
俺が他者に向け続けていた
因果応報、ということか。
独房に入れられてはじめのうちは日数を数えていたが、だんだんどうでもよくなっていった。日付どころか昼夜の感覚もなくなり始めた頃、いつもの看守とは違う身なりの整った男が姿を現した。
「アベル・ルッヘンバッハだな」
汚物を見るような視線で俺を確認し、そして告げた。
「――魔王様がお会いになられる。出ろ」
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