第7話 切っ先は彼の地に至る
野盗を殴り倒し、魔獣を殴り倒し、街道を歩き、歩いた果てにあったのは、大きな街だった。
「中央自治区……でしたか」
規模が以前より大きくなっている。
「人間は脆いのに、すごいですね」
強いのか弱いのかわからない。
「それはそれとして――」
お姉様の匂いはこの街にある。そこまでは追える。
けれどこれ以上細かくは無理、か。
どうしようかと視線を巡らせた先、円錐台の建造物が目に入った。
「闘技場ですか」
ひょっとしたら、あそこになら殴り心地のいい人間がいるかもしれない。
「ちょっとやってみますか」
「中で戦いたいんですけどー」
闘技場の入り口付近にいた受付らしき人間に声をかける。
彼は訝しそうな顔と表現するのが最も妥当な表情で、
「えっ? 誰がですか?」
と言った。
主語を省いたのはこちらの落ち度だと判断する。
「『私』が『この闘技場』で戦いたいんですよね。『出場』できますかー?」
「あの、わかっていますか? 大怪我することもありますし、最悪死ぬことも……」
私を? 人間が?
もしそんなことが可能な存在がいるとすれば――
「それはそれですごいですね。むしろ大歓迎です」
知らず知らず口角が上がっていた。これを人は笑顔
「あのですね……」
「――構わん」
突然会話に割って入ってきたのは、よく肥えた中年の男だった。
「オズワルド様!」
係の人間が縮こまって頭を下げた。
どうやらここのお偉いさんのよう。
「やらせてやれ。女闘士の参戦となれば客も多いに盛り上がるだろう」
「ははっ」
オズワルドは値踏みするようにこちらを見ながら、
「お嬢さん、この闘技場の闘技者は自己責任だ。腕がもげようと失明しようと我々は関知しない。よろしいかね」
「よろしいですよー」
よろしいかね、の「ね」の発声前に返事をした。
オズワルドは若干鼻白んだものの傲慢な態度は崩さず、
「ふははっ。剛毅なお嬢さんだ。早速やってもらおうではないか。おい!」
「はっ、はい。あの、お名前をいただけますか?」
「名ですか? ……名無しでもいいですか?」
「匿名ですか?」
「構わん。私が許す。匿名選手として登録しろ」
「はっ」
「さてさて。楽しみですねー」
私を砕ける人間が出てくるだろうか。
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