第4話 切っ先の内なる声
「あらら」
私は状況を検分する。
馬車が一台、冒険者らしき人間が四人、商人が一人、御者が一人。
それを取り囲む魔獣の群れ。
魔狼だ。数は、二十ほど。
「このままだと全滅しちゃいますかねー」
けれど私には無関係の人間だ。
先を急ごう。
そう思った時。
――護れ。
誰かが私にそう囁いた。
周囲を見回す。
けれど誰もいない。
――剣を以て戦え。
「剣ですか」
何も持っていない両手を開いたり閉じたりする。
指を折り、拳を固める。
何かしっくりこない。
――護れ。
手を開き指を揃えてまっすぐに伸ばし、手刀の型にする。
違う。
これだと殺してしまう。
「やっぱりコレですねー」
手刀の型から指を折り曲げ、掌は外側に逸らす。
掌底。
何度か試した。やはり一番しっくりする手の形。
「行きますかー」
道端に転がっていた握り拳くらいの大きさの石と良い感じの木の棒を幾つか拾って、馬車へと向かう。
近づくにつれ、大きくなる怒号、獣声、そして悲鳴。
「冒険者の人、馬車を中心に防御をしててくださいねー。商人の人と御者の人にはー、ハイこれ」
と、拾った石と木の棒を投げ渡す。
「自衛してください」
「あ、アンタは!?」
「この場はお任せをー」
私は魔獣の群れにすたすたと歩み寄っていく。
ぐるる、と喉を鳴らし警戒を強めている獣の中を進む。
一番近くにいた魔狼が飛び掛かってくる。
見え見えの挙動。
私はすい、と一歩だけ体をズラす。
魔狼が慌てたように見えた。動物にも感情はある。
でももう遅い。
私はその顎先に掌底を打ち込んだ。
「あと十九ですかー。今なら退けば見逃しますよー」
群狼に向かって私はそう宣言したのだった。
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