【15話】街中探索

 俺は、早朝にユニオンに向かうとホーンラビットの討伐と薬草採取の依頼を受けて東門を出た。


 受付嬢に聞いた話だと、この依頼は食料確保と回復薬の作成に必要なものだから、ほぼ常に出されている依頼だと言っていた。

 そのため、これからも同じ依頼を受ける場合は、依頼の品さえ集めて来れば後から依頼扱いにする事も可能との事だった。


 東の森は、まだ浅いところまでしか行っていないからか、昨日と同じく弱い敵ばかりでスライムやホーンラビット、ファンガスというキノコのモンスターくらいしか見かけなかった。

 ファンガスは特技に毒胞子とあったが、動きがとても遅く回避する事が簡単なため、見かけたら出来るだけ近づかないように気を付けながら依頼をこなした。


 早めに出掛けたおかげでお昼前には依頼を終えて街に戻って来られた。


 俺はユニオンで依頼完了の手続きを終え、素材の換金を済ませると、改めて周囲を見渡す。


 大人達に混じって10代のまだ小さい子ども達も受付に並び、ユニオンの中にある酒場では依頼の話をしている人や、日中だっていうのに既に酒を飲み始めている人もいる。


 やっぱり、服を買ったからかあんまり注目されていない気がするな。

 まだ昨日の事を覚えているのか、俺の事を指差しながら酒の肴にして笑っている奴らもいるが、そのうち忘れていくだろ。


 ユニオンを出ようと受付に背を向けると、ふと、1人の少女の横顔が目に止まった。


 その少女は特に目を惹く顔立ちという訳でも無かったが、周りの若い奴らがパーティーを組んでいる中、ぽつんと1人だけで立ち、顔を下に向けてどこか暗い表情で受付に並んでいた。


 俺は、どこかその表情が気になった。


 見た目は、そばかすが特徴的な顔立ちで歳は15、6といった様子。

 服装も俺と似たり寄ったりの襤褸布を身に纏い、体中汚れていて髪の毛もボサボサ。

 武器も、小振りな短剣が申し訳程度に腰にあるだけだ。


 ステータスも、魔法が得意なこと以外は特別な所は何もない。



 種族 人間

 レベル 10

 特技 魔法



 ただ、ステータスと見た目を合わせて見ると、若干の違和感があった。


 俺が今まで見てきた魔法使いは、ミトやゴブリンウィザードを含め全員が杖を持っていた。

 それは、このユニオンの中にいる他の魔法使いについても例外じゃない。

 でも、そばかすの女の子には杖なんて見当たらないどころか、見た感じ前衛をしているようさえ見える。


 もしかしたら、ダンジョンで出会った女魔法使いみたいなもんなのかもな。

 あいつも近接戦闘ができたみたいだし。

 それに俺は魔法なんて全く分からないから、杖なんて無くても魔法が使える可能性も十分ある。


 ま、俺にもやる事があるし、特に用事も無く話しかけに行く暇も勇気も持ち合わせちゃいないから、気にするだけ無駄か。


 俺は、すぐに意識を切り替えるとユニオンを出て行った。


 さて、これで宿代も稼ぎ終わった事だし色々と街を探索するか。


 ユニオンの周りを軽く見てみると、どうやら、ユニオンには戦いを生業とする人々がたくさん集まって来るためか、その周辺には武器屋や防具屋、それと、魔法に関わる店などが集まっているようだったので、覗いてみることにした。


 武器屋に入ってみると、カウンターを挟んで向こう側の壁に武器がずらっと並んでいる。


 どうやら、武器を盗まれたりしないように客側には何も置いてないらしい。


 それにしても、店主の圧が凄いな。

 この店では何をするにも、絶対に店主からは逃れられないようになっているから、話しかけるのも気が引けてくる。

 さながら、不動明王のような存在感だ。


 正直、このまま回れ右をしたいところだが、これからも色んな人達と関わっていかなきゃ、強くなる手がかりなんて得られるはずもない。


 だったら、前みたいに話すことから、逃げてなんていられないよな。


 俺は深呼吸をすると、店主に向かって歩いていく。


 気を強く持て、よく言うだろ、店主の事をじゃがいもだと思うんだ。


 こいつはじゃがいも、こいつはじゃがいも、こいつはじゃがいも、こいつはじゃがいも……ってあれ?


 これって人前で話す時だったか?


 いや、でもまあ少しは楽になった気がするし、どうでも良いか。


「……あのー、この武器屋ではどんな武器を扱ってるんですか?」


 勇気を出して話しかけてみると、店主のおっさんは俺の事をじろりと睨む様に見つめてくる。


「その格好からしてどうせ金なんて持ってないだろ。 客じゃないならとっとと帰りな」


 店主の素っ気ない拒絶の言葉が正論過ぎて喉が詰まる。


 気持ちとしては今すぐ店から出たい。

 出たいが、それでも早まるな。

 それじゃここに来た意味が無い。

 じゃがいもの言った事なんて気にするな。

 どうせこのじゃがいもだって、1人でここにいて暇してるはずだ。

 客だって今は俺1人だけ。

 それならまだ、何とかなるだろ。


「……そう言わずに、未来のお客の為に少しくらい良いじゃないですか。 それに、何で店番をやってるのかは知らないけど、元鍛冶師ですよね? それなら武器についても詳しそうですし、余計に色々教えて欲しいんです」


 俺は、店に入る際に見た店主のステータスを改めて見る。



 種族 人間

 レベル 35

 特技 鍛冶



 こんな事を言ったら地雷になるかもしれないとも思ったが、どっちにしろダメで元々だ。

 なら、どんな結果になったとしてもやってみるしかないだろ。


「ふむ…………」


 店主は僅かに目を見開くと少し考える様子を見せた。

 店内には、店主がカウンターを指でトントンと叩く音が、やけに大きく響いて聞こえる。


「……それで、何が聞きたい?」


 店主はこちらを真っ直ぐ見つめると質問をして来た。


 どうしてかは分からないが、どうやら賭けには勝ったようで、俺の話を聞いてくれるらしい。


「自分、田舎から来たもんで詳しくないんですけど、武器の素材って何があるんですか?」


「うちで扱ってるのは鉄と鋼鉄、ミスリルの武器までだ。 アダマンタイト、ウルツァイト、オリハルコン、ヒヒイロカネ、他にもまだ上があると聞いたことはあるが、滅多に出て来ないから詳しい事は知らん」


 聞いた事がある素材も多いみたいだが、知りたい事とは少し違いそうだ。


 それならばと、話題を転換してみる。


「色んな種類があるんですね。 因みにレベルが低くても使える強い武器とかってありますかね?」


 店主は突然の質問に困惑したようで、顔にシワが刻まれる。


「何だそれは。 鉱物は普通、良いものほど重くなるから、良い武器ほど低レベルで使いこなすのが難しくなるんだ。 そんな物があるとすれば魔具の類だろうが、扱ってるのは大店かコレクターくらいのもんだろう」


 まぐ? いや、魔具か?


「へぇー、魔具ってのがあるんですね。 一体どんな物なんですか?」


「魔具ってのは滅多に出回らないから詳しい事は分かっとらんが、人の強い想いが道具に宿った物だと言われておる。 それも、死ぬ直前のものほど強烈な想いになるから、負の感情が強いものなんかは持っただけで死ぬものもあると聞くな」


 となると、現状手に入れたいのは魔具って事になるか。

 でも、数がほとんどないらしいから、在処とかの情報を集めないと始まらないな。


「なるほど。 色々教えてくれてありがとうございます。 今度来る時はちゃんと武器を買えるくらいお金を貯めてから来ます」


 俺は店主に礼を述べると、店を後にする事にした。


 その後は、防具屋にも行って話を聞いてみたが、こっちはすんなりと話を聞く事が出来た。

 どうやら、モンスターの素材から作った防具も、スピード系のモンスターなどの一部の例外を除いて、鉱石と同じで良いものほど重くなって行くようだった。

 また、その例外も一般人が着れる高級装備という事で高値で取引されているため、手を出すのは難しいらしい。


 他にも何軒か覗いてみたが、結果は鳴かず飛ばずといったところだった。


 魔法の道具を売っているお店では、マジックアイテムという魔力を充填して使う道具があり心が惹かれたが、これも値段が高い上に魔力が魔法以上に必要になるようで使い勝手はあまり良くなさそうだった。


 魔具だろうと、マジックアイテムだろうと、強くなるには兎にも角にも金、金、金。


 それなのに、お金を稼ぐには現状強くなって稼ぐしかないだなんて、八方塞がりも良いところだ。


 楽して強くなれるみたいな、そんなうまい話はどこにも転がってないって事なんだろうな。

 そりゃ楽して強くなれるなら、みんな強くなってるに決まってるもんな。


 とはいえ、街の探索だって途中だし、約束の日まで時間だってまだある。

 今度は、もう少し手広く探してみるとするか。

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