【14話】ユニオン

 街の中に入ってみると、街は活気に満ち溢れていた。


 道端で風呂敷の上に商品を並べて、通りがかる人に何やら石ころやガラクタのような物を売ろうとしている人も居れば、宿屋の客引きなのか色んな人の所へ行っては快活な声で話しかけている人もいる。

 少し先では、屋台や店舗もあるみたいで、人々が賑わっている様子が見て取れ、食べ物の美味しそうな匂いがここまで漂って来ている。


 こういうのを見ると、なんだかお祭りみたいで何か買ってみたくなるが、なにぶん今は蛮族スタイルだ。

 一銭も持ち合わせちゃいないから何も買えるわけがない。


 それどころか、俺の格好を見てあからさまに顔をしかめる人や、俺が目の前を通ろうとすると、先ほどまでの威勢の良い声は何処へやら、早く行ってくれとでも言うように、静かになる奴までいやがる。


 俺の格好が悪目立ちしているのは分かってるんだが、こうも露骨に嫌悪感を前に押し出されると、こっちも思うところはある。


 とはいえ、特に当てがある訳でも無いし、まずはさっき門衛の兄ちゃんに言われたユニオンに行きたいところだが、適当に探しても見つかるか分からない。


 しょうがない、人に道を尋ねるか。


 でも、知らない人に話しかけるのって、なかなか勇気がいるんだよな。

 今の状況だと余計に……。


 少しの間、店を見ているフリをしながら躊躇していたが、ちょうど空いていた近くの出店で装飾品を売っている若い男に声をかける。

 断じて、隣の厳ついおっさんが怖くて若い男の方に話しかけたわけじゃない。


「あのー、ユニオンってとこに行きたいんですけど、どこにあるか知ってますか?」


「ユニオンですか? それなら、この大通りをまっすぐ行くと右手に大きな建物が見えるからそれがユニオンです」


 装飾売りの男はあまり居座られたくないのか、早口で捲し立てると、「用が済んだならさっさと行った行った」と手で追い払われた。


 なんだろうな。

 エンギと別れたばかりで心細いのか、心にグサグサと突き刺さってくるんだが……。



 俺は言われた通り、大通りを進みながら大きな建物を探してみるが、中々見えて来ない。


 大きな建物ってだいぶ大雑把な説明だったけど、一体どれぐらいの大きさなんだ?

 もしかして、普通の家よりちょっとでかいくらいの建物とかじゃないよな?

 あるいは、俺の相手をするのが面倒になって体良く追い払われただけの可能性もあるんじゃ……。


 段々と不安になってきた時、目の前に一際大きな建物が見えて来た。


「お、あれか?」


 気持ち足早に歩いていくと、そこには大きな二階建ての建物があった。


 外から見た感じだと、人の出入りも多いし、殆どの人が武器なり防具なりを身に着けているから、戦いを生業とする人たちが利用しているみたいだな。


 なるほど。


 門衛の兄ちゃんが言ってたユニオンの登録っていうのは、要は異世界テンプレの冒険者ギルドみたいなところか。


 早速行こうと思うが、ふと考える。


 そんなところにほぼパンイチ状態の俺が突っ込んで行ったら、一体何されるのか分かったもんじゃないよな……。


 ……でも、ずっと眺めててもしょうがないか。


 覚悟を決めて建物の中に足を踏み入れると、周りから値踏みするような、警戒するような鋭い視線が殺到する。


「っ……!」


 一瞬、そのヒリつくような雰囲気に呑まれ、息が出来なくなったのかと錯覚し足が止まりかけるが、敢えてそれらを全て無視して足を進める。


 無だ。

 無になれ。

 何も考えるな。

 ………………………。


 まだ様子見という事なのか、何とか絡まれる事は無かったようで、気が付くと受付らしきところまでやって来ていた。


 何やら周りで


「あいつ変態か?」

「なんかチラチラ見えてね?」

「あんな格好でよく通りを歩けたな」

「羨ましいな」


 などと言っていたような気もするが、俺は無になっていたからおそらく気のせいのはずだ。


「あー、ユニオンの登録?っていうのをしたいんですけど。 それと、門にいた人からこれが必要になるって」


 女性と話す経験がほとんどなかったため、緊張して若干挙動不審になったが、門衛から受け取った木札を差し出す。


 受付嬢は、にっこりと微笑みながら木札を受け取る。


 俺の事を見た目で判断しない人がついに現れたかと思ったら、よく見ると頬が僅かにヒクヒクしている。


 ……お仕事ご苦労様です。


「はい、ユニオンへの登録ですね、確かに承りました。 それと、この木札は南門で通行料が払えなかった事を表すものになっておりますので、その料金については今後受ける依頼から差し引く事になります。 ご了承下さい」


 ……なるほど。

 やけに念押ししていたと思ったらそういう事か。

 門衛の兄ちゃん、嵌めやがったな。

 何が絶対に必要になるだ。

 普通に借金だなんて言ったら誰もユニオンに木札を持ってかないから、大切なものだと思わせてたって事かよ。


「それでは、お名前と年齢、得意な武器や魔法などはありますか?」


 こういう中世風の世界だと、名字が無い事が普通の可能性もあるから、念のため名字は言わないでおこう。


「えっと、名前は誠、年齢は22で、得意な武器や魔法は特にないです」


「名前はマコトで、年齢は22歳、得意な武器や魔法は無しですね。 それではランクタグを用意するので少々お待ち下さい」


 受付嬢は、ランクタグを用意するためか、受付の奥の部屋へ引っ込んで行った。


 こういう待ち時間って何をしたら良いのか分からないから、困るんだよな。

 特にやる事もないし、情報収集を兼ねて酒場にいる人達のステータスでも覗いてみるか。


 ざっと見回してみると、大抵の人がレベル10前後で、レベル20以上の人は4割ほど、レベル40以上の人は1割ほど、レベル60以上の人は1人も見当たらなかった。

 格好もしっかりと革鎧や鎖帷子などで防具を身に付け、しっかりした武器を持っている奴もいれば、俺よりはマシだが、襤褸を身に纏っただけの浮浪者のような奴もいる。


 俺が周りの様子を見ていると、3人組の男女が階段から降りて来るのが見えた。

 その男女のステータスも確認してみる

と、レベル68、72、74だった。


 階段から降りて来た奴らがこのレベルって事は、もしかしたら、上の階には一定以上の強さがある人しか行けないのかもしれないな。


 ある程度ステータスを見終わった頃になると、ようやく先ほどの受付嬢が戻って来た。


「お待たせしました。 こちらがFランクのランクタグになります」


 受付嬢は、手に持つタグをカウンターに置き、こちらに滑らせる。


「このランクタグは、現在のユニオンでのランクを表す物で、登録者の名前とランクが記されており、街などを移動する際は身分証の代わりにもなりますので、無くさないようお気を付け下さい」


 手に取って見てみると、何やら文字みたいな物が両面に彫られているが、何て書いてあるのかは全く分からない。


 と言うか、考えてみればこの世界に来て初めて文字を見たかもしれない。

 言葉が通じるからてっきり文字も読めるのかと思っていたが、残念なことにどうやら文字は読めないらしいな。


「続いてユニオンについて簡単に説明していきます。 まず、ランクについてですが、下から順にF、E、D、C、B、A、S、SS、SSSとなっており、ランクは、依頼を達成する事で貰える功績ポイントを一定以上貯めた後、実力試験をクリアする事で上のランクに昇格が出来るようになっています」


 ランクか。

 レベルとの関連性があるのか後で聞いておきたいな。

 そうすれば、大まかな強さをステータスから判断する事ができるようになるからな。


「依頼は受付にてご紹介させて頂きますが、自分のランク以下のものが受けられ、失敗すると功績ポイントが減り、依頼によっては違約金が発生する場合もございますのでご注意下さい。 又、ダンジョンで見つけたアイテムやモンスターの素材の買取はあちらのカウンターで行っているので、是非ご利用下さい」


 受付嬢は、受付カウンターとは反対側に見える買取カウンターを手で示しながら場所を教えてくれる。


「以上で説明は終わりとなりますが何か質問はございますか?」


「あの、ランクってレベルで言うとどのくらいとかってありますか?」


「そうですね、Fランクは成り立てなら皆さん同じなので考えないとして、一般的にはレベル20毎にランクが上がると言われています。 Eランクがレベル20までで、Dランクがレベル40までって感じですね。 Sランク以降になって来るとまた話が変わって来るらしいですけどね」


 なるほどな。

 って事はこんな感じか。


 E 〜20

 D 21〜40

 C 41〜60

 B 61〜80

 A 81〜100

 S 101〜


 そうすると、さっき上の階から来た奴らは、Bランク相当で、優男達はDランク相当の実力ってところか。

 これで、レベルを見ただけで大まかなランク分けができるようになったな。


 他にも質問はないかと言われたので、モンスターとダンジョンについてもランクなどがあるのかも聞いてみた。

 すると、ダンジョンのランクについては、Eランクのモンスターが出ればEランクダンジョンというように、出現するモンスターの強さから脅威を推定して決めているらしく、安定してダンジョンを攻略するには基本的にダンジョンのランクよりも1ランク上のパーティーが必要との事だった。


 モンスターのランクについては、脅威度によって分けられていてこんな感じになっているらしい。


 F 大人1人の危機

 E 大人数人の危機

 D 村の危機

 C 町の危機

 B 街の危機

 A 都市の危機

 S 国家の危機

 SS 大陸の危機

 SSS 世界の危機


 これは、同ランクの人と魔物が戦った場合、同じくらいの強さだと言う事を表すらしい。


 エンギは多分Eランクってとこだろうな。


 その後は、特にめぼしい情報も無く、すぐに依頼を受けられるとの事だったので、服を買うためのお金稼ぎにホーンラビットの討伐と薬草採取の依頼を受ける事にした。 

 薬草は、押し葉を見せて貰ったから多分何とかなる思うし、ホーンラビットは、エンギと一緒に何体も狩った事があるから大丈夫だろう。



 それから俺は、森に近い東門から依頼に行き、何事もなく依頼を終えるとユニオンで報酬をもらって、近くの古着屋で嫌な顔をされながらも服を買い身なりを整えた。

 そして、本来、睡眠も食事も必要ないため、わざわざ取る必要は無かったが、周りに怪しまれないように念のため素泊まりの宿を取って一夜を明かす事にした。


 最低限服も買えたし、明日からはきっと街の人達も露骨に嫌な顔をする事は無いと思いたいな。

 そうだ、明日は宿代を稼いだら何か強くなる手がかりが見つかるかもしれないし、街中を見て回る事にしよう。


 1日目は強くなる手がかりを得られなかったが、その代わりに大まかな強さの指標は分かったし、お金を稼ぐ手段も見つけた。


 残りは29日か。

 あっという間に過ぎてしまわないよう気を付けないとな。

 

 俺は部屋で1人、物思いに耽りながら夜を明かした。

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