【13話】シノラの街へ

 門の前に行くと、外壁が街をぐるっと取り囲むように聳え立っていて、その物々しい存在感にただただ圧倒される。

 見たところ、高さだけでも10メートル近くはありそうな壁が見渡す限りどこまでも広がっている。


 そして、その巨大な壁の中と外を分けているのは、これまた巨大な鉄扉で、造りは観音開きなのか左右対称な扉が2つあり、街の外側に向かって開いている。流石に外壁ほど大きくはないが、それでも5メートル近い高さがあり、灰色の石壁の中にポツンとあるためよく目立っていた。


 なるほど、ここがこの世界での街か。


 日本で育ってきた俺からすれば、多少警戒し過ぎな気もするが、この世界は、地球の動物より遥かに強力なモンスターがそこら中を彷徨いてるから、これくらい厳重に警戒した方が良いのかもしれないな。

 逆に言えば、ここまでしないと駄目だってことでもあるんだろうし。


 門の目の前には、兵士らしき格好の男たちが4人もいた。

 他にも中に何人かいるみたいだが、やっぱりこれだけ入り口が大きいと、門番にも人数が必要らしい。


 そして、俺から向こうの様子が分かるという事は、当然向こうからも俺の様子が分かると言う事だ。

 つまり、めちゃくちゃ俺の方を見つめて警戒している。


 初めて俺の事に気付いた時なんか、全員俺の事を二度見して来やがった。

 そんなに見つめられたら恥ずかしいだろうが。


 もう日中だからか、門に並ぶ人なども特になく、まばらに門から出入りがある程度だ。


 とはいえ問題は、フリーパスではいどうぞと通されるわけじゃなさそうな事だ。


 門の前に来るまで見ていた様子だと、どうやら幾つか衛兵から質問をされるようで、特に怪しくなければ通行料を払うと中に通してくれるようだ。

 中には、何やら身分証か何かなのか、タグのようなものを提示して、通行料を払わないで入っていく人もちらほらいたが、お金も身分証も持っていない俺は大丈夫なのかと、今更になってもの凄く不安になって来た。


 まさか、エンギに大見得切ってきた手前、文字通り門前払いされて手ぶらで帰りたくはないんだが、果たしてどうなることやら。


「次の者、来い!」


 列に並んでいると門衛から声をかけられた。


 俺は、声に従って前に進むと門衛の前で止まる。


 俺を担当する門衛は、気の良さそうな兄ちゃんって感じの男だった。

 パッと見た感じ、年齢は30前後くらいな気がする。


「あんちゃんはなんでそんな格好してるんだ?」


 もっと厳しく問い詰められるのかと思ったら意外と気さくに話しかけられて驚いた。

 こんな気軽に話しかけられるだなんて、こいつきっと陽キャだな。


 取り敢えず、考えていた通りに質問に答えていくしかない。

 対人スキルの低い陰キャの俺にとっては至難の業だが、どうにかやるっきゃ無いよな。


 顔に無理やり笑顔を浮かべ出来るだけ親しみやすそうな表情を心掛ける。

 実際にどう見えてるかは怖いから考えない事にしよう。


「じ、実はこの街に来る途中に追い剥ぎに襲われて、それで服も荷物も全部持ってかれてしまったんです。 そのせいでお金もすっからかんだし踏んだり蹴ったりってなもんですよ」


 なんとか最後まで言い切れた。

 危うく舌を噛むかと思ったぜ。


「なるほどな、通りでそんな格好な訳だ。 一応聞いとくが、ここに来るまでは何してたんだ?」


 ここはテンプレで返せばなんとかなる……はず。

 というか、なってくれ。


「農家ですね。 田舎で畑耕したり種撒いたりってなもんですよ」


 身振り手振りも交えて説明していく。


「ちなみに、どこの村や街から来たのかとか分かるか?」


「えーっと……」


 すまんエンギ。

 お前の名前を使わせて貰うぞ。


「エンギ村って言うんですけど分かりますかね?」


「ちょっと聞いた事が無いな。 どこら辺にある村なんだ?」


「なにぶん田舎ですから、知らないのも無理は無いですよ。 場所は、こっちの方にずーっと行ったところにあります」


 どこから来たのか指差しながら、出来るだけ自信ありげに話す。


「ほぉーん、そんな村がなぁ。 ちなみに、この街へは何しに来たんだ?」


「それゃあ勿論、田舎から出て一山当てるために決まってますよ。 田舎なんて土を弄るしかやる事が無いんですから、飽きてしょうがない。 それに、都会ってやっぱ憧れですしね」


「へぇー、って事はやっぱりユニオンに加入するつもりなのか?」


 ユニオンって何だ?

 何かの組織だろうってのは分かるけど、一体どんなものなのか全く分からない。


 ここまで上手く行っていただけに、余計に戸惑い一瞬言葉に詰まる。


「……ええ、そりゃあ勿論そのつもりですよ」


 取り敢えずこの場は話を合わせようと思い答えると、


「ま、そういう事ならこれを持っていけ」


 気の良さそうな兄ちゃんは、ポケットから何かを取り出してひょいとこっちに向かって投げてくる。


 慌てて手を伸ばして受け取って見ると、何だかよく分からない絵柄が描かれた木札だった。


「それは、ユニオンに登録する際に必要になるから、絶対になくしたりするなよ? 分かったな? 絶対だからな?」


 そう言って念押しすると、俺に向かって茶目っ気のあるウインクをしてくる。


「は、はぁ、ありがとうございます」


 その突然の行動に若干戸惑っていると、


「通ってよし!」


 門衛の兄ちゃんは、他の仲間の門衛に聞こえるように声を上げた。


 そして、


「ようこそ、シノラの街へ」


 歓迎の言葉と共に、なぜか拍子抜けするほどあっさりと俺は街に入る事が認められた。

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