第9話

「あんた今日どうしたのよ? 学校で何かあった?」


 母の声が聞こえます。

 そんなツルリンは、帰って早々に自室の布団へと丸まり包まり、縮こまっていました。


 悲しいとか、戸惑いとか、憤りとか、色々な感情が布団の中で吐き出す吐息と共に、混ざり合って、ぐちゃぐちゃになって、それはもう佃煮の様にヌチャヌチャでした。


「あ、おかえりなさい。明日は休みになったの?」


 ふと、母の声が布団越しに聞こえてきます。


 すると、「ああ、ただいま。どうかした?」と聞き覚えのある声が追って聞こえます。先週の知らない男の人の声でした。「ただいま」そんなひょんな言葉がツルリンの脳裏に焼き付きます。どいつもこいつもふざけた野郎です。


「今担当してる事件の山が一段落してね、また明日には署に戻るよ」

「あらそう、ご飯食べるでしょ? ちょっとその子に何か聞いてあげてよ。帰ってからずーっとこんな感じでね」

「この間の一件?」

「そっからちょっと様子が変なのよー」

「わかった」


 母と男の会話が終わったかと思うと、布団に籠ったツルリンの頭上に、ドカっと男は腰を下し「ツルリン君。おーい」と優しい声で男は布団越しに手を置きます。


「どうした? 学校で嫌な事あったか?」


 ツルリンは首を横に振ります。嫌な事と言えば、嫌なことになります。けれどこれは、人が想像する嫌な事とは遠くかけ離れている気がして、ツルリンは何も言えませんでした。


「ツルリン君。何があったかは知らないけど、君がやったことは間違いじゃない。けれど、自分の行動という物には、必ず責任というものがついて来るんだ。まだツルリン君には少し難しいかも知れないけど、自分が起こす行動によって、誰に迷惑が掛かるか、誰が自分を気にするか、常に違う考え方と見方を持って、行動しなきゃいけないよ」


 落ち着いた優しい声で男はそう言うと、それ以上は、何も聞いてきませんでした。そんな低く、心地よさすら感じるその声を聞いていると、いつの間にか、ウトウトとしてきます。もし、ツルリンにお父さんと言う存在が居たら……。


【おやすみツルリン】


素直に、今の心情を話すことが出来ただろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ツルリンは今日も元気です。 ぼさつやま りばお @rivao

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ