第16話
俺は天才だった。
生後3か月には立ち上がり、言葉を理解した。
1歳になる頃には、武器を振るうようになった。
故に、家が貧しかった私が町の不良を集めて大それた悪事を始めるのに、時間はかからなかった。
「ボス! 今日も大収穫でしたね」
「だから言ったろ? 俺の言う通りにすれば貴族屋敷なんて空き家も同然よ」
色とりどりの宝石をあしらった黄金のネックレスを指で回しながら、俺は得意げに答えた。
実際、襲撃はあくびが出るほど簡単だった。
騎士や従士の巡回ルートを覚えれば、見つからずに入ることができるし、どうしても排除しなければいけない時でも俺の剣術があれば負ける気がしなかった。
見よう見まねで覚えた剣術であるが、刃を握る殺撃という技は中々勝手が良く、騎士の重厚な鎧も棒鍔の打撃でひしゃげる。
不良どもはただ人手だ。宝物を運搬する以外何も期待してない。
「でも盗品なんてどこで捌くんです? 足がついたら騎士団がダースで襲ってきますよ」
「お前みてえな馬鹿じゃねえんだからちゃんと考えてるわ。町の外に伝手がある、3日後には俺らは全員小金持ちよ」
「大金持ちじゃないんすね」
「だからお前は馬鹿つってんだ。一度に全部盗んじまったら追手が厳しくなるじゃねえか。俺はまだまだ盗むつもりだぞ」
「なるほど、さすがボスだ!」
俺の目論見は成功し、15になる頃には私の財産は地方領主の全財産を超えるほどになっていた。食いたいものを食い、抱きたい女を抱き、奴隷を虐げて遊び、幸せを生む薬も色々試した。
この世全ての欲望を味わい尽くして次の目標を考えていた頃、部下の1人がもらした言葉が俺の転機となった。
「そういえばボス、教会の秘宝って知ってます?」
「ああ? なんだそりゃ」
「町で噂されてたんですがね、なんでも教会の地下に古のエルフ時代の秘宝が眠ってるそうなんですよ。それが何とも強力で不老不死を得るだとかなんとか」
「くだらねえな」
「ボスは不老不死に興味ないんですか?」
「長生きして何が楽しいのかわかんねえ」
「そっかー、ボスなら教会の秘宝でも盗めると思ったんだけどなあ。興味ないなら仕方ないっすね」
「ちょっと待て」
「なんですボス?」
「誰も盗まねえと言ってねえだろ」
「え、でも興味ないって」
「不老不死には興味ねえ。だが、秘宝というなら別だ」
「じゃあボス」
「おう。いくぞ野郎ども! 略奪の時間だ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
王都の教会は王国中の寄付金が集まっている。秘宝の噂が嘘だとしても、得られる金は膨大だろう。それを知ってか知らずか、部下たちは舌なめずりをする者もいた。
俺自身やりがいのある目標を探していただけあって、柄にもなく興奮していた。
結果から言うと、俺は失敗した。
「王都で有名な賊だと聞いていたが、期待外れだな」
私は部下たちと共に、冷たい床に倒れ伏していた。意識があるのは私だけ、他の者達は完全にのびている。かくいう私も、指一本動かせない状態だった。何か魔法を使っているのか重装備の聖騎士に踏みつけられた私の身体は、意思に反して硬直していた。
聖騎士は器用にもまびさしの間からつばを吐き、私の顔を汚す。
「大神官様、こんな雑魚を取り込むのもったいなくないですか? 貯蓄だって無限にあるわけじゃないんでしょう?」
「問題ありません。貴方の足の下にいるその男、強盗の際に十数人の騎士を正面から切り伏せたと報告がありますので」
大神官と呼ばれた男は、神官の名に相応しく慈愛に満ちた笑顔であった。
「そうは見えませんがね。なんというか冴えない風貌だ」
「人を見た目で判断するのは賢明ではありません。魔術師相手に痛い目を見ますよ」
「へえへえ、精々気を付けますよ」
「さて、お待たせしました。貴方が盗賊団の首領で間違いありませんね?」
「大神官が俺のような賊を知ってるなんてな……教会の秘宝っていうのは俺を引き付ける罠か」
「罠とは心外です。ちゃんと秘宝は存在しますよ。まあ、餌にしたことは否めませんが」
大神官が手元の石板を操作すると、床から教会の柱より太い筒がせり上がった。中には、ごぽりと泡立つ半透明の液体と、膝を抱えて揺蕩う裸体の男。
「なんだ、これ」
「これが貴方の求めた教会の秘宝です」
男は身動き一つせず、眠っているようだ。だというのに、俺は巨大な魔物と対峙したかのような恐怖心を覚えた。
「正式名称は不明ですが、私たちはベイトールと呼んでいます。
「……名声と犠牲だと」
「そう、名声を得るためには犠牲は付き物です。不老不死の英雄となればなおさらね」
「お前、何を言って」
「
うっとりした目で神官は脳を眺めながら訥々と語る。
「貯蓄された命は寿命を延ばすばかりか、一定以上の損傷を受けた場合、切り離すことで死を回避することができるんですよ。さらには命から抽出された記憶によって生前の能力を行使できます。絶対に外さない狙撃手だったり、あらゆる毒を作り出す錬金術師だったり――――剣の達人だったり」
大神官は光のない目で私を見下ろす。古のエルフを信奉し、人々に慈愛を教える神官が決してしない冷たい視線が突き刺さる。
「もう、おわかりでしょう?」
いつの間にか、透明の液体が俺の身体に迫っていた。
「まさか、やめろ、助け――」
命乞い空しく、俺は液体に飲み込まれる。
「おめでとうございます。これであなたも不老不死の英雄です」
そこで記憶は途絶えた。
久しぶりに冴えた瞳で見たのは、1人の戦士に殺され続ける
ざまあみろだ。
心の中で悪態をつく。
名声のために犠牲を払うとか、大それたことを言っておきながら負けてやがる。見れば俺の周りには他の
命の貯蓄が尽きるのもすぐだろう。できれば冷静ぶってる名声様の吠えずらをずっと見ていたいが、首が3回転もしている。無理だな。
それでも良い。晴れやかな気分だ。
戦士よありがとう。
これで俺は心置きなく逝ける。
「な、なんかすっきりした、か、顔しているから」
はずだったのにな。
「こ、この屍体も
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