第9話
売れそうな部位だけを剥ぎ取り、残りはヘスティオンの炎で焼き尽くす。一息に焼却とはいかないが、神に捧げるという意味では、こちらの方が都合がよい。
大量に手に入った魔石は、腰に提げると重心が崩れるほどの重さになっていた。ヘスティオンの点火や戦技の鍛錬を行わなければならないことを考えると、多くて困ることはない。しかし、余分は心に隙を生む。
常に足りないくらいが、戦士にとって丁度よいのだ。
大部分は売り払って盾の購入費用に充てよう。
「遅くなってしまったが、そろそろザクロのところに戻らねば」
ほとんど何の説明もせずに飛び出してしまったので、いらぬ心配をかけているだろう。
……ザクロは心配しないな。
屍体の1つ2つもっていけば埋め合わせになるだろう。
戻る方向は先にイザドラが飛んで行ったのでわかっている。まっすぐ歩けばそのうちに着くだろう。
しかし、夜目が効く私でも、月も星もない夜では直進することは難しい。冥界のように暗い夜では、自分がまっすぐ歩いているも思っても、気付けば同じところを回っていたり、あらぬ方向に曲がってしまうものだ。
若かりし時を思い出す。丸刈りでぼろ切れを着ていたような少年時代には、新月の夜でも道に迷った。暗殺対象が住む家と上官の家を間違えたのは、今となっては笑い話になっている。
眠っていたのに顎と首の筋肉でナイフを止めたのは、さすがスパルタの先達だと感心したものだ。
私は毛皮を巻き付けた骨に火を灯し、晒された馬の首の断面に差す。簡易的な松明にしては結構明るい。脂の質が違うのだろうか。
「もっと習熟すれば、ヘスティオンを本当に松明としてつかえるのだがな」
魔石のおかげで魔剣の発動はできた。だが、使いこなすには程遠い。
火力の低さもそうだが、発動時間が極端に短い。前の持ち主であるエドは常に炎上させた上で、戦技も放っていた。
対して、私が剣に火を纏わせれるのは、心臓が60打つ程度の時間しかなかった。3個ほど食べて確認したが、動きを速めればさらに発動時間は短くなるので、おそらく心拍と同期しているのだろう。
さらに、やはりと言ってよいか石を食べるのはつらい。口の中でじゃりじゃりするのはもちろん、喉に残る不快感や胃の重たさを考えると、日に何度も使う気は起きないのが本音だ。
強力だが、利点ばかりでない手段。
あくまで、空気中の魔力を感じ取れるようになるまでの繋ぎと考えた方が良い。
でなければ、鳥のように腹が石だらけになる。また
「まあ、細かいことは後で考えればよいか。まずはザクロと合流して、イザドラの依頼のことを話すとしよう」
青獅子騎士団と赤竜騎士団の動向を探る。
両騎士団を壊滅させて解決というわけにはいかないだろう。ピエタがオークに占領されていた際、あまり諜報活動は上手くいかなかった。だから今回の依頼はその名誉挽回と言っても良い。
「ふふ、楽しくなってきたな」
スパルタの栄光を知らしめるまたとない機会。新しい技、まだ見ぬ強敵、イザドラとの約束された幸福。
血沸き肉躍る思いだ。
駄目だ。筋肉が奮い立ってしょうがない。
ちらりと横を見ると、星空の代わり輝く獣の眼。火を怖がっているのか、近づかずに周囲をうろうろとしている。
思わず上唇を舐める。
私がザクロのところにたどり着くまで、さらに死体の山を築いたのはいうまでもない。
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