第6話 Production

藍斗の誕生日から10日


私たちの人生初の禊の日が訪れた


母は連れてきた人たちを生贄と呼んだ


私の初めての生贄の相手は37歳の地方政治家だったわ


その政治家は天皇様にとって いやこの国にとって脅威となることをしようとしたのだと毋は言った


突然意識のないままここに連れてこられた彼はとても怯えとても怒っていたわ


でもそれもものの数時間で安堵の表情に変わっていたわ


たった少し私と話しただけで


どうして人間はほんの少しの情報で恐怖に感じていた場所や人を 安全だと勘違いするのかしら


その話をしてくれた相手は今日初めてみた世界で 今日初めて会った人のはずなのに


その人が本当の話をしている確証なんてどこにあるの?


その人が貴方をどんな感情で見ているかなんてわからないのに?


その人はいま貴方が見ている世界の表面上の話しかしてないかもしれないのに?


何が 何がその人をそこまで錯覚させるというの?


私にはわからない



彼は消えた。たった数時間話をしただけの私を信じたから


彼は消えた。恐怖という感情に自分の人生を委ねてしまったから


彼は消えた。私という快楽に溺れて。

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