第二回 十三年も一緒に暮らしていたのに……。


 お家に帰って来ると、


 なぜ泣いているのか、わかってあげられなかった千佳ちかのこと。

 そして最近になって、わかるようになってきた少しだけでも。



 ……千佳の大好きなものはゲーム。アドベンチャーでもなく、RPG(少しは勉強したよ)でもなく、インベーダー(アラフォーだからいいじゃない)のようなシューティングでもなく……格ゲー。――つまり格闘ゲーム! 三十六インチの画面を見るような、まっすぐな眼差し。一途なまでにそれ一筋、熱中の仕方も半端なく……釘付けのようで、


『それのどこが楽しいの?』


 と、興味を持つことなど夢にも思えず、まるで他人事のようにその様を見ていた。



『冷ややか……でも、どうだろう?

 いつの間にか心の奥……これまでなかったような感情が生まれる?』



 生活のため、高収入を求めて、子供の前では説明できないような宵の御仕事。子供のためと思いながらも、心を亡くすばかりの毎日……つまり何一つも、子供のことを考えてあげられてなかった。……その挙句に、千佳の心に、大きな傷を残してしまった。


 千佳は、自分のことを「僕」と言う。


 傷を残す前……千佳が「学校に行きたくない」と言った日、私は頭ごなしに「行きなさい!」と怒鳴る。そして学校から帰って来た千佳は、涙も枯れ、心も体も……


 それ以来――「私」が「僕」になった。

 それが悲しく、千佳が「僕」と言う度に悲しくて……でもね、同じ「僕」でも一緒に、


「千佳、お母さんも一緒にゲームしていいかな?」


 警戒心? 怪訝とする千佳だったけど……今は次第に、頬も綻ばせつつ、


「いいよ! 楽しもうね、お母さん」――と、言ってくれるようになった。



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