第8話 さやかの希望
「で、そのあと結局私はその井上先生と生活することになったの。中学卒業して、高校に進学してからも井上先生が私の面倒を見てくれた。あ、でも学費は両親が慰謝料って名義でもらったわ。」
「で、結局何で木葉先生は意思を目指したの?」
「その話だったわね。井上先生のお陰で私の人生は助けられたわ。井上先生がいなかったら今の私はいない。だからね、私も井上先生みたいに多くの子供たちを汚い大人から救いたくて意思を目指したの。学校の先生ではどうにもすることのできない部分から、子供たちを助けられるのは精神科医しかいないからね。」
「あー、そう言う事だったんですね。」
数日後、さやかは飛び切りの笑顔で診察にやってきた。
「木葉先生!私決めました。私頑張って英語勉強したら、海外の子供たちを助ける団体に入る。」
木葉は正直、さやかがここまで元気になるとは思ってもいなかった。最初に出会った頃のさやかの心には何もなかった。底知れぬ闇。それが木葉がさやかに出会った時の最初の印象だった。しかし、今ではこうして誰にも負けないくらい輝く笑顔で進路の話をしている。木葉はそんな子供たちをもっともっと増やしていきたい。
「ところで木葉先生結婚しているよね?」
「え?」
なんで分かったのだろう。仕事上の名前は旧姓のままなのに、勤務中は結婚指輪を外すようにしているのに。
「だって、先生いつもそのネックレスしてるでしょ?たかしってアルファベットの入っているの私結構気になっていたんだ。」
「あれ?これ見えてる?」
「ううん、見えてない。前にそのネックれる付け直しているの似たことがあるから。」
「なんだ。驚いたー。そうよ。」
「でもやっぱり井上先生って、木葉先生と結婚したんですね。」
ばれていたかと思いつつもその後ののろけ話に花を咲かさずにはいられなかった。
精神間の診療時間が長いことを利用して、木葉はついさやかに話過ぎてしまった。しかし、こうして明るい話に花を咲かせられるようになればさやかのはもうここには来なくても平気そうだ。
「さやかちゃん。あと一回、診察に来たらもう卒業ね。」
その時さやかは何故かがっかりしたような表情になった。
「えー。木葉先生ともう会えなくなっちゃうの?」
「違うよ、さやかちゃん。さやかちゃんはもうここに来なくていいってことはね、元気になったってことなの。」
「じゃあ、次の診察の時に連絡先教えてください。それなら規則違反じゃないよね?」
それから七年後。
「木葉先生、私は今ケニアにいます。」
と、木葉のメールボックスに写真付きのメールがさやかから届いた。そのメールを最後まで読むと、さやかは本日最初の患者の名前を呼んだ。
未完成 玉井冨治 @mo-rusu
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