第7話 お家事情
木葉は浜辺にいた。夕焼けの空と水平線のツーショット。
綺麗だ。私なんかこんなものにかなわない。私の人生って何だろう。私は何のために生まれてきたのだろう。このまま、ここで消えてしまおうかな。
夜になると流石に暗くて心細くなってきた。木葉は朝からずっと海を眺めていたので何も食べていない。おなかもすいた。ゆっくりと立ち上がり、まだ冷たい二月の海に歩を進める。
ちょうど膝が浸かった時。
「君、何してるっ!」
と声がした。もしかしたらこれは幻聴なのかもしれない。今私が聞いた声はきっと幻のものだ。だって私なんか透明人間なんだから。誰も私の事なんか認識していない。誰も私の事なんか助けてくれない。
そう思っていたのだが、木葉がはっきりと気付いた時にはもうパトカーの中にいた。
海辺の警察署(浜保署)に着くと木葉は自分の事を反半ば強制的に話すことになった。彼女が株式会社ワダ建設の一人娘であることが判明すると、警察官は顔色を変えた。すぐに両親に電話するを言い出した。
「嫌です!絶対に電話しないでください。私、逃げてきたの。」
木葉が猛烈な勢いで抵抗すると警察官がまだ若かったこともあり、何とか電話はしないでくれた。その代わり、学校に連絡が言った。二十分後に井上先生が来るとのこと。井上を待っている間、木葉の身に何があったのか、なぜ逃げなくてはならなかったのか警察官は彼女に問いかけたのだが彼女は決してこたえようとはしなかった。
木葉は井上の家に泊まることになった。女性教員に取り合おうとしたのだが、誰も出なかったのでそうするしかなかったのだ。
夕飯を食べ終えると井上はやはり木葉に問いただした。
「和田。一体何があったんだ?」
木葉はなかなか話そうとはしなかったが、井上が少しずつ話の角から聞いていくと結局すべて話してくれた。
木葉の今までにあったことを知り、井上は次の比にも彼女を保護する必要があると考えた。
「明日、児童相談所に相談してみる。いいね?」
「…はい。」
翌日、児童相談所に相談したがうまく取り合ってもらえない。警察に連絡すれば何かしらしてくれると考え井上はそうしたのだが、やはり取り合ってもらえない。
何故かとの理由は答えられないらしい。
「先生。」
「ん?どうした?」
井上がスマホを片手にどうしようか困惑していると部屋の隅にいた木葉が小さな声で自信なさげに言った。
「もしかしたら。もしかしたらですよ?」
「うん。何?」
「あの、私の両親は地主なんです。あの辺りでは私の両親に逆らえるような大人はいません。だから、そのようなことになっているのかと思います。」
結局その時だけではどうすればいいのか分からなかったので、とりあえず井上が保護することになった。学校は井上の車に乗せてもらっていくことになった。
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