第3話 木葉が暗い性格になってしまった経緯

 和田家の家庭環境はとても良いとは言い難かった。木葉は連日両親から性的暴行を含む虐待を受けていた。彼女はこの虐待は教育だと覚えさせられていた。性的虐待が家庭内でみられる場合、大抵の場合は母親の再婚相手の新しい父親からの暴行のケースなのだが、彼女は少し違った。彼女に性的暴行を与えていたのは彼女の実の父親だったのだ。彼女はそう言うものだと思ったまま成長していた。少し違和感というものを感じてはいたが両親が「これは教育なんだ。子供は黙って従え。」と彼女に言うと彼女はまた信じるしかなかったのだ。彼女は小学校四年生ほどの学力しかなかった。彼女の両親は虐待を怪しまれないように徹底していた。なので、彼女を毎日学校に通わせていたのだが、家庭学習は許していなかった。家庭学習なんかする時間があれば両親に奉仕することだと教育された。

 木葉の小学校時代の唯一の救いは学校だった。学校に行けば両親からの暴行から逃げられる。学校にいる時間が長ければ長いほど彼女は苦痛な時間を逃れられる。彼女は大人し目な女の子でクラス内に友達は一人しかいなかった。しかしそのお友達とはとても仲良しで彼女の事をよく理解してくれていた。彼女の心が正常な状態に保てていたのはこのお友達がいたからである。彼女は洗いざらい友達の暁子に話しはしなく、両親の話を頑なに避けたが、好きな男の話など一般的な小学生が抱くようなちょっとした悩み事は暁子に話していた。それほど彼女は暁子のことを信用していた。暁子は唯一無二の友達だとも思っていた。

 木葉と暁子の友情が消えうせたある一件によって木葉は段々とふさぎ込むようになっていった。

 小学校六年生の夏休み明け、暁子は長かった髪の毛をバッサリ切りショートヘアになって、更に視力低下により眼鏡をかけてくるようになった。暁子のそのスタイルは以前の彼女のそれよりとてもよく見えた。彼女は一躍学級のアイドルとなった。アイドルとなった暁子は以前と同じ通りの友人関係を築くことはとてもできなかった。現代でいうクラスの陽キャたちと仲良くなったため、今まで仲良くしていた木葉の事など全く見えなくなってしまったのだ。

 ある日の放課後、木葉は教室に忘れ物をしたので教室に後戻りして忘れ物を取りに行った。教室には暁子と暁子の新しい友達数人が残っていた。どうやら誰かの話で盛り上がっているらしい。少しずつ聞こえてくるその内容に木葉はかたまってしまう。

 「ね、やっぱり和田さんってやばいよね。」

 「私あの子に睨まれたことあるんだけど。」

 「ええー、怖い。やっぱりそういう子なのかねー。」

 「暁子といた時もそんな感じだったの。」

 その答えを木葉は固唾を飲んで待っていた。暁子ならきっと正しい答えを言ってくれる。きっと悪いようには言わない。そう信じた。

 暁子はしばらく考えた後に言った。

 「私といたときはそんなにそっけなくはなかったのに、皆と付き合いは付き合い始めたら冷たくなった気がする。あの子、何考えているのか分からない。」

 「そんなのと仲良くしなくていいよ。うちらのところにいていいよ。」

 「うん。ありがとう。」

 その瞬間から木葉は何か大きな暗い穴に落とされたような感覚にさいなまれた。いつどのようにして家に帰ったのか、記憶にはなく気づいたらまたいつものように両親に暴行を受け、洗い物をしていた。

 その次の日から木葉は誰も信じることが出来なくなった。以前から彼女は人と話すのが得意な方ではなかったが、それよりまして誰かと関わることを強く拒むようになった。担任の教師が彼女を心配して何かとクラスメイトに取り計らっていたが、彼女は担任教師の頑張り虚しくいつまでも一人でいた。

 そんな木葉にも一縷の希望が見えた。彼女の家は小学校の学区ぎりぎりのところに位置していたため、中学校は彼女だけ別の学校に行くことになった。中学デビューの兆しが見えた彼女は中学校ではうまく人付き合いができるように図書館で見つけた心理学の本を読んだ。心理学の知識を蓄えた彼女は自信たっぷりで小学校を卒業した。

 しかし、この頃になるとこ木葉の心はまるで死にかけたカブトムシのようにぼろぼろになっていた。彼女は自分では気付くことが出来なかったが、彼女は笑えなくなっていた。それが彼女の心が死にかけ寸前だと物語っていた。それでも彼女は踏ん張って、何もかも我慢して生きていた。彼女の心は死にかけでも彼女の友達が欲しいという信念は燃えていた。

 木葉は心は病んでいたが体は元気だった。しかし、心が病んだ状態では通常の判断が出来なくなる。そんな彼女はまず身なりを整えられなくなった。中学校の入学式も上手く笑うことが出来なく、結局彼女は中学生になっても中学デビューに失敗し、友達はできなかった。

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