第22話 十四人目①
うーん。 それにしても前回はあんまり盛り上がらなかったわねぇ。
私――星と運命の女神ズヴィオーズは思った以上につまらない落ちだったと呟く。
盛り上がりを期待して何も起こらなかったような肩透かし感は中々拭えないわ。 まぁ、ガチャを一切引かなかったから期待値は低かったけど、もうちょっと頑張ってほしかったわね。
次は面白い出し物を期待した所だけど――あら?
引っ張られる感覚。 来た来た来た! 今回はガチャを沢山回してくれる奴を期待したいわね!
さぁ、女神の導きの時間よ!
現れたのは――うーん。 何こいつ?
いつもの空間には明らかに陰気な雰囲気を纏った男が一人いた。
記憶を参照。 名前は
二十七歳。 職業はフリーターね。 日雇いバイトを転々としているみたい。
ふーん。 ま、労働しているだけマシなんじゃない? ここに来る馬鹿にはノージョブも多いので特に気にならないわ。 性格は――あー、また変なのが来たわね。
面と向かって話せず、下を向いてブツブツと自己主張。 不満ははっきりと言わずに口の中でモゴモゴと恨み節を溜めると。 そんな調子だから人間関係も続かずに職を転々、気が付けば日雇いでその場限りの関係に気楽さを感じているようね。 唯一の心のよりどころは対戦型のゲームで他人に嫌がらせをする事と救いがない。 ちなみにこいつはネットですらはっきりと物を言えないので、無言でつまらない嫌がらせをしつこくするみたいね。
待ち時間がないものなら負けそうになると放置。 次回以降はひたすらに遅延を繰り返して粘着。
勝ちそうになると手前で放置して相手が降りるのを待つ。
待ち時間があるものならギリギリまで遅延して相手を苛つかせると。 うーん、暇な事しているわねぇ。
ターゲットは自分を不快にさせた相手らしいわ。
ちなみに気分が良くなる瞬間は相手が怒ってチャットにさっさとしろと書き込んで来たのを無視する時みたい。 相手を怒らせてこいつ馬鹿じゃねーのと画面に向かって煽り散らしていたわ。
それって何か面白いのかしら? こいつの趣味はどうでもいいんだけど、ちゃんと喋ってくれないのは面倒臭いわねぇ。 いつも通りの説明をすると雲丹坏 余薗は納得したように頷く。
この世界のフィクションに傾倒した人間は呑み込みが早くていいわねぇ。
納得させる手間を省略できるのはいいけど、軽く考えすぎているからその辺も考えようかしら?
ま、面白いからどうでもいいけど。 取りあえずお試しのガチャを引くようなので、結果を見守ると――
N:異世界転移権
いつもの転移ね。 でもNはちょっと低いわねぇ。
大抵はR以上なんだけど、この場合はこれがなくても転移する因果を背負っているか問題のある世界のどちらかね。 取りあえず引いた物に対しての説明を行うと雲丹坏 余薗はぐるぐると色々考えているわ。
Nに対する不満と異世界転移に関する期待。 それとこの光景が本当に現実なのかの疑問。
一切、口に出さないけど陰気にずっと思考をループさせている。 めんどくせぇなぁさっさと引くか決めろよと思いながら表面上の笑顔はそのままに黙って待つ。 この生き物の面白い所はぐるぐると考えるけど自身を客観視できないので結局、最初に浮かんだ結論に至る。 要はこいつの場合は考える時間がそのまま無駄になっているのよね。
周りから嫌われる原因ってこれなんじゃない? 知らんけど。
ぶっちゃけるとまともなレアリティを引けなかった事が不快だったので追加を引きたいと思っている癖にさっきからくだらない事をずっと考えているのだ。 本当に他人を待たせる事に関しては天才だと思うわ。 ま、この空間はあんまり時間の流れは気にしなくていいから好きなだけ悩みなさいな。 ただ、これだけ待たせといて引かないとか言いだしたら絶対に許さないけど。
しばらくした後、結局引くと言いだしたのではいどうぞと寿命を変換したコインを渡してガチャを回す。 全部で五回、さてさて何が出るのやら――
R:外界活動服
N:鉱貨
R:身体能力強化(小)
N:視力強化(小)
N:聴力強化(小)
……ぷっ。 しょっぼ。
内心で笑いを我慢しながら出たものに関しての説明を行う。
まずはお決まりの強化(小)三つはそのままね。 もしかしたら視力に関しては眼鏡要らなくなるぐらいかしら? 鉱貨は向こうの通貨みたいね。 適当な金属を加工した貨幣みたい。
表面に変わったパターンが刻まれているけど、こいつの世界に置き換えるとバーコードに近い物でこれを何かに認識させる事で金銭としての価値を担保するみたいね。
さて、最後の外界活動服なんだけど、全体的に丸っこい形状をしている。 この世界の人間にも分かり易く例えるなら宇宙服が近いんじゃないかしら? 背中に付いたケーブルのようなものを接続するコネクターから何らかのエネルギー供給を得て生命維持を行う。 そして装備それ自体にも様々なエンチャントが施されており、過酷な環境や概念的な変化にもある程度耐える事が出来るみたい。
……ふーん。 結構、面白い代物ね。
武具としては落第レベルだけど、防護服としてはかなり上等な部類だ。
これを身に着けて、エネルギーの供給を得ている限りは大抵の環境下で活動ができる。
ただ、概念的な防御に関しては少し疑問ね。 魔法の上位互換の能力になるのだけど、より直接的に対象に影響を及ぼせる異能。 世界によっては「権能」とも呼ばれ、世界の外に存在する
確かに効果は凄まじいけど、私から見ればエネルギー効率の悪い身を削った曲芸ね。
気軽に使う奴の気が知れないわ。 ともあれ、この服はその概念的な攻撃や変化にも高い水準で耐える事が出来る凄い服って訳ね。
……まぁ、レアリティがRだから転移先ではそこまで貴重でもない代物なのかもしれないわね。
雲丹坏 余薗は結果がお気に召さなかったのか、引き直しができないかと尋ねるけど私が黙って首を振ると内心であらん限りの罵声を飛ばした後、追加で五回引くと言いだしたわ。
はいはい、どうぞ引きなさいな。
N:鉱貨
N:鉱貨
N:鉱貨
N:鉱貨
N:鉱貨
……あーっはっはっは!!
ねぇ、どんな気持ち? ムキになって引いたガチャでゴミばっかり出たのどんな気持ち??
雲丹坏 余薗は内心でこのクソガチャと罵っているけど私に言わせるとクソなのはお前の運だよと鼻で笑う。 追加でもう五回引いたけど、鉱貨と携帯食料とかいうNランクのゴミが出ただけだったわ。
いやはや、ここまでやってSRに掠りもしないのはある意味才能よ?
雲丹坏 余薗は更に引こうかと考えたけど、思い直したのかやや強引にクールダウン。
どうせ忘れるしもういいと割り切ったようね。
「では、私はこれで。 貴方に良き運命が訪れん事を」
もう引かないと宣言した所でいつもの社交辞令を告げての雲丹坏 余薗意識を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます