第15話 九、十人目①

 あー……萎えるわー。

 私――星と運命の女神ズヴィオーズはひたすらに落ちたテンションでぼんやりとしていた。

 幻影相手にお喋りしたり腰振ったりとクソみたいな自慰行為を延々と見せつけられたので死ぬほどの虚無を味わったわ。


 本人が最後の最後まで幸せそうだった事がまた私の不快感を煽る。

 笑いさえ起こらないレベルのつまらない茶番だったので、次は面白い奴が来ないかしらと低いテンションで待ち続けていたわ。


 あー、テンション上がんないわー。 つまんねーわー。

 何か面白い事起こらないかしらー。 そんな事を考えながらぼんやりと空間を漂っていると不意に引っ張られるお馴染みの感覚。


 お、来た来た。 この萎え切った気分を吹き飛ばしてくれる生き様を期待してるわ。

 

 さぁ、女神の導きの時間よ!




 お馴染みの空間とガチャマシン。

 そして目の前には波長の合った存在――なのだけど、珍しい事が起こっていた。

 何と二人もいるのだ。 同じタイミングで波長が合ったのかしら?


 両方とも男。 片方は小太り、もう片方は背の低いチビ。 チビの方は髪を金に染めている。

 歳は見た感じ成人前って所かしらね。 顔つきにやや幼さがあるわ。


まぁいいわ。 取りあえずいつものプロフィールチェックっと。

 小太りが上嶌かみじま 夏兎史なつとし

 チビが崗波良おかはら 矗斗たつと


 両方とも十八歳。 高校生ね。

 学校も違うし面識もない。 ただ、住んでいる地域は近いわね。

 記憶を漁った限り、家は駅を挟んで反対側なので、面識がないのも無理ないか。


 えーっと、性格は――あらあら、どっちも碌でもないわねー。

 親があまり家に寄り付かないのをいい事に上嶌 夏兎史は学校さぼってネトゲ三昧みたいね。

 趣味は気に入らない奴にひたすら嫌がらせをして、ブチ切れた相手の罵倒を無言で見つめ続ける事みたい。 画面の前での口癖は「やっべ、こいつ顔真っ赤。 超ウケる」


 当然ながら態度がでかいのは画面の前だけなので、学校では普通に陰キャ扱い。

 本人も自覚しているようで、デカい顔が出来ない学校は居心地が悪いから行きたくないと。

 うーん。 いいわねー。 非常に私好みのクズよ。 


 もう一人の方も負けず劣らずって感じね。

 こっちは札付きって程じゃないけど、近所では有名な不良みたい。

 あちこちで暴力を振ってカツアゲしたり、気に入らない奴を扱き下ろして追い込んだりしているわ。


 それだけならただのイキっているだけのクソガキで済むんだけど、こいつの場合は中々に面白い。

 ターゲットに一定の偏りがある。 それは自分より弱そうかつ、自分より背が高い男だ。

 どうもこいつは自分がチビな事に強いコンプレックスを抱いているらしく、それを発散する相手を常に探しているみたい。


 ――で、自分より体格に優れた奴を貶めたり殴りつけて屈服させる事で優越感に浸り、チビでも自分は優れているんだと良い気になる。


 一番、面白いのは弱そうな奴しか狙わないので、自信がないのが見え見えと言う事だ。

 そんな半端なメンタルな物だから自分よりも強そうな連中とは怖くてつるめないし、弱そうな奴からは蛇蝎のごとく嫌われていると。


 孤立している事に若干の寂しさを感じているみたいだけど、変にプライドが高いので認められない。

  

 ……うーん、実にいいわー。 いい感じにやらかしそうなので期待できそうね!


 上嶌 夏兎史はおどおどと困惑の表情を浮かべつつ私の方をチラチラと見ている。

 まぁ、私の美貌が眩しすぎるから見たくなる気持ちも分かるわ! ほら、もっと見なさいクソガキ、お前程度では一生に一度見れるか見れないかの超絶美人の女神様よ!

 崗波良 矗斗はビビっていると思われるのが嫌なのか真っ直ぐにこっちを見ているけど、思考が筒抜けなので内心で怯えているのがはっきりと伝わっている。


 いつまでもこんなガキと見つめ合っているような趣味はないので、早速いつもの説明に入る。

 ガチャについてとその代償。 後は無料ガチャについてまで触れると上嶌 夏兎史は即座に引くと言い出した。 うん、こういう奴は理解が早くていいわー。

 

 崗波良 矗斗はそれを見て慌てて同じように引くと言い出す。 ビビっていると思われたくないようで、結構食い気味に言い出したわ。

 取りあえず順番に引いて貰いましょうか。

 上嶌 夏兎史、崗波良 矗斗の順番で引かせる。 引いた結果は――


 R:異世界転生権


 N:異世界転生権


 レアリティは違うけど、内容はまったく同じね。 これは単に引いた物に対する縁でレアリティが決まるので、引けた以上はあまり意味がないわね。

 二人とも理解しているのか説明するまでもなかったが、レアリティの件を聞いた所で上嶌 夏兎史がちょっと優越感を表情に浮かべ、それを見た崗波良 矗斗が「何だテメエ」と殴りかかろうとしたけど、相対位置を固定しているから何をしても殴れないわよ?


 それを知った後の上嶌 夏兎史は最高だったわ。 無料を引いた以上、記憶も消えると言う事もあって、イキイキと崗波良 矗斗を煽り始めた。

 俺の方が運がいいとか、俺の方が優れているとか言いたい放題ね。

 まぁ、私としても何かと都合がいいので、そのままやらせる。 こうして煽り続けると――


 ――崗波良 矗斗が十回引くと言い出した。


 ほらこうなった。 いいわねーこういうの。 その調子でガンガン煽りなさいな。

 煽られた崗波良 矗斗は上嶌 夏兎史を睨みつけて一気にガチャを回し続けたわ!

 引いたのは――


 SR:聴力強化(中)

 N:異性交際権

 R:身体能力向上(小)

 N:腕力強化(小)

 R:記憶想起

 SR:記憶力強化(中)

 N:脚力強化(小)

 N:精神強化(小)

 SR:精神強化(中)

 N:聴力強化(小)

  

 SRが三つもある割にはパッとしないラインナップねー。

 転生している以上は想起を引けたのは割と運が良いけど、他はメンタルと五感関係の強化は大きいぐらいしか見所がない。 身体能力関係は申し訳程度ね。 正直、しょっぱい引きねといった感想しか出てこないわ。


 それでも高いレア引けた事には満足したのか、崗波良 矗斗は鼻で笑う。

 上嶌 夏兎史は怒りに顔を歪めて、五回引くと言い出したわ。

 これはケチっている訳ではなく、少ない回数で高レアを引いた方が優越感に浸れるかららしい。


 ……まぁ、私としては引いてくれるなら何でもいいわ。


 取りあえず五回回したのだけれど――


 N:異性交際権

 N:ナイフ

 N:指輪

 N:ロープ

 N:鞭


 ……ぷっ。


 ドサドサとサンプルが落ちて来る。

 ナイフは本当に何の変哲もない鉄製の代物ね。 あんまりいい素材を使っていないのか、頑丈そうではあるけれど安物感が半端ない。 指輪も――うわ、なにこれ? 鉄製? 申し訳程度に銀でコーティングしているみたいだけどこっちも安物感がすごいわね。 時間が経つとボロボロ剥げそう。


 ロープも何かボロい中古品みたいな代物で鞭に至っては短い上に傷みが酷くて、派手に使うと千切れそう。

 あれだけイキっておいて全部Nとか笑うわ。 しかもゴミばっかり。

 崗波良 矗斗は大爆笑! あんだけ大口叩いといてそれかよと指差して笑っているわ!

 

 上嶌 夏兎史はキレてナイフを投げつけるがすり抜けて足元へ戻って来る。

 あくまで本人にしか触れないサンプルだから攻撃できないわよ。

 崗波良 矗斗はそれを知って気分を良くしたのか更に笑い出す。 私も同じように笑いそうになったけど、女神の威厳を保つ為に鋼の精神力で耐えたわ!


 上嶌 夏兎史は私を睨むと十年コインでもう一回引くと言い出したのではいどうぞと引かせる。

 引いたのは――


 R:身体能力強化(中)


 ……ぷっ。


 あっはっは。 こいつは私の腹筋を破壊しようとしているの?

 どこまで無様を晒せば気が済むのかしら!? 女神を試すなんていい度胸ね。 笑い堪えるのが大変だわー。 十年分使ってこれは酷い。


 上嶌 夏兎史はやけくそのように今度は五年コインで引くと言い出したのではいはいと新しいコインを渡す。 そのまま何のためらもなくガチャを回し――


 SR:記憶想起


 ……ぷぷっ。


 ま、まぁ、いいんじゃない? 折角転生するんだから想起ないと思い出せないかもしれないし、一応とは言えSR引けたけし……。

 崗波良 矗斗は笑い疲れたのか掠れた息を吐き続け、満足したようでもういいと言い出したので大きく頷いて送り返す。


 笑うのを堪えながら残った上嶌 夏兎史にどうしますかと尋ねる。

 正直、崗波良 矗斗が消えた以上、もう何を引いてもあんまり意味ないと思っているみたい。

 いない相手にはマウント取れないしねぇ。


 屈辱に打ち震えながら上嶌 夏兎史は気持ちが納まらないのか、私に贔屓しやがってと八つ当たりを始めた。 自分の運のなさを棚に上げて何を言っているのかしらこの馬鹿は。

 思考を見る限り、新たに引く気もない上に可能であれば引き直しを要求するつもりだったようなのでもういいわね。 引く気のない奴に用はないわ。


 「では、私はこれで。 貴方に良き運命が訪れん事を」


 私はお決まりの文句を述べて上嶌 夏兎史を空間から追い出した。

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