第13話 八人目①
前回は馬鹿が馬鹿やって死んだって言う捻りもない展開と落ちだったけどそれなりに面白かったわ!
転生して早々にステータスシステムを理解して経験値稼ぎを行う所までは割と悪くない行動だったかもしれれないけど、強さに酔っぱらって――というよりはゲーム脳拗らせて好き勝手やった結果、自滅したのは笑えたけどそれだけね。
収入も十年とまぁまぁだったしそこそこの客だったわ!
私――星と運命の女神ズヴィオーズは目を閉じて思い返す。
正直、一回見たらもう満足できるような内容だったので、これ以上は少ししたら思い出す事もなくなりそうね。
いい加減に待っているのも飽きてきたのでそろそろ新しい客が来ないかしら何て考えていると、お馴染みの感覚。 来た来た来た!
待っていたわ。 今回はどんな面白い
さぁ、女神の導きの時間よ!
出て来たのは……うーん。 何か頭悪そうなのが来たわね。
茶色に髪を染めた若い男だったが、染色をサボっているのか生え際が黒い。
いつも通り記憶を参照してプロフィールを確認。
適当にバイトを転々として食い繋いでいるって感じね。 感想としては中途半端って所かしら?
記憶を見た限り、こいつはとにかく何をやらせても中途半端なのだ。
度胸がない癖に舐められるのは嫌い。 努力は嫌いだけど結果は出したい。
見下されたくないけど見下したい。 とにかく楽して他人にマウントを取りたいと言った粋がりたいだけの奴ね。
その為、趣味も中途半端。 ソシャゲ等に手を出している癖に自分より結果を出している奴には「何、本気になっちゃってんの」とか言って馬鹿にしているといったどうしようない性格ね。
そんな調子なので交友関係も広いけど浅い。 遊びなどに誘われる時も数合わせの時だけで、関係は広げる時は早いけど長続きはしない感じね。
……まぁ、お陰で状況に対する理解は早そうだから私としては都合がいいわ。
思考には強い困惑が浮かんではいるが、狼狽えるのはダサいとでも思っているようで特に表に出さないように顔の向きはこちらに固定。 それでも視線だけは不安げに彷徨っているが手に取るように分かる。
まぁ、黙っていても時間の無駄だし、さっさと説明するとしましょうか。
いつも通りガチャの説明を行うと加治佐 慎弥は嬉しそうに目を輝かせる。
まぁ、お手軽に他人にマウントを取れる力が手に入る状況になれば飛びつくわよねぇ……。
この手の人種は割と見た事があるので、反応はある程度だけど読める。
ただ、こう言う馬鹿には大きく分けて二種類いるので、この後の反応は何とも言えないわ。
支払い通貨が寿命と聞いて渋い表情を浮かべる。
こう言う奴はリターンは欲しがるけど、リスクを負うのは極端に嫌がるので寿命を支払うと言った話をすると途端にこれだ。
さて、二種類の内、片方はリスクを支払うのは死んでも嫌なのでひたすらにごねる。
タダでもっと引かせろ、良いのが出るまで引き直しをさせろだのと舐めた事をほざく。
酷いのは俺は客だぞと馬鹿みたいな事を言っていた奴もいたわね。 そいつは何をやっても寿命を支払う気はなかったので無料分だけ引かせた後に追い出した。
そしてもう片方だけどこちらは私にとっては非常に都合がいいわ。
何故なら他人にマウントを取る事を優先して寿命がなくなるまで引いてくれる場合があるからだ。
これは夢だと自分に言い聞かせて都合の悪い事は勝手に見ない振りをしてくれるので、それも都合が良かったわ。
――さてさて? この馬鹿はどちらかしら?
寿命を支払うリスクを避ける? それともマウントを取る事に文字通り命を賭ける?
加治佐 慎弥はまずはお試しにと無料分のガチャを回す。
こういうのに理解が早い奴は無料ガチャに関して本当に躊躇なく回すわねー。
何を引いたのかしら?と確認すると――
N:異世界転移権
加治佐 慎弥は事前にレアリティについては聞いていたので落胆した表情を浮かべていたけど、私は内心で首を傾げる。 転移でN?随分とレアリティが低いわね。
前例がない訳ではないけど、この手の現象は簡単に発生しないので基本的にレアリティは割と高い。
ここまで低いとここに来なくても転移していた可能性が高いか、もう一つ余り良くない可能性があるけど……。 これは次以降に引く物を見ないと判断に困るわね。
加治佐 慎弥は説明を求めて来たので、私は異世界転移についての概要を簡単に説明する。
それを聞いてかなり迷っているようね。
ここで引いてスタートダッシュを決めるか、寿命を温存するかを。
転移は何の保証もないので、安全が欲しいなら何かしら技能なりアイテムなりを引いておいた方がいいのだけど、判断するのはこいつなので私は黙って決断を待つ。
本音を言えば文句を言ってもっと引かせろと言いたいけど、そんな度胸もないと言った思考を読みながらさっさと引けよと言った本音は笑顔の裏に隠す。 女神スマイルは完璧な笑顔!
「じゃ、じゃあ追加で二回引かせてくれ!」
はいはいどうぞ。
コインを引き渡してガチャを引かせる。
出て来たのは――
「うぉぉぉぉぉ! きたぁぁぁぁ!」
加治佐 慎弥は大声で喜びを露わにする。 それもその筈だ。
二回で引き当てたのは――
SSR:神槍グングニル
SSR:聖剣グラム
――最高クラスのレアリティの武具だったからだ。
サンプルが加治佐 慎弥の前に現れる。 何かどこかで見たような輝きを放つ重厚なデザインの槍と剣が現れた。
加治佐 慎弥は大はしゃぎで槍と剣を振り回している。
「……」
私は何も言わない。 加治佐 慎弥はちゃんと出るじゃねーかと馬鹿みたいに笑いながら私に追加で引くと言い出した。 私は表情を変えずにどれだけ引きますか?と尋ねると、十連と言い出したのでどうぞとコインを引き渡す。
SSR:王剣ジョワユーズ
SSR:魔剣ダモクレス
SSR:聖槍ロンギヌス
SSR:神器パシュパラストラ
SSR:神剣フラガラッハ
SSR:聖剣デュランダル
SSR:雷槌ミョルニル
SSR:聖剣エクスカリバー
SSR:雷霆ケラウノス
SSR:呪剣ハルパー
……ははは、大盤振る舞いね。
ドサドサと加治佐 慎弥の目の前にこれまたどこかで見た事のあるような凄そうな武具が山と積まれる。 武具に対して説明を求められたけど、扱えばわかるとしか言いようがなかった。
大喜びしている加治佐 慎弥に対して私の心は冷めきっている。 何故なら、もうこいつはどうしようもないからだ。
恐らく最初の異世界転移を引いた時点で決まっていたのでしょうね。
これだけの物を百パーセントの確率で引いている時点で転移のタイミングも見当が付いた。
私のテンションは最低レベルまで落ち込んだが、こいつに取っては幸せな結果になるんじゃない?と投げ遣りに考えながらどうしますかと尋ねると加治佐 慎弥は悩む素振を見せる。
私としては引きたければ好きにしなさいなと言った感じだ。
どうせこいつに取っては
随分と悩んだみたいだけどもういいと切り上げる事にしたみたいね。
「では、私はこれで。 貴方に良き運命が訪れん事を」
用事も済んだので私はいつもの社交辞令を告げると加治佐 慎弥の意識を後にした。
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