第11話 七人目①
いやー、正直かなり面白かったわ。
抵抗できないような雑魚を処分していい気になっていた霊能力少女(自称)が本当に危険な家に足を踏み入れて食い殺されて死亡。
あんな調子で滑稽さを披露してくれるのならもうちょっと見たかったぐらいね。
落とした寿命も十五年とまぁまぁだったから個人的には悪くない客だったわ!
私――星と運命の女神ズヴィオーズは目を閉じて思い返す。
いい加減、今までの連中の末路を反芻するのも飽きたのでそろそろ新しい客が来ないかしらと考えていると――お馴染みの呼ばれる感覚が私に伝わって来る。
来た来た来た! 待っていたわ!
今回も寿命をいっぱい落として私を楽しませなさいな!
さぁ、女神の導きの時間よ!
現れたのは――何か冴えない感じの男ね。
落ちた肩にやる気のなさそうな無気力そうな表情。
なーんか。 つまんなさそうな男ね。 いつも通り、記憶を参照してプロフィールを確認。
様々な職を転々としていたけど、少し前に退職。 世間の荒波に打ちのめされてすっかり部屋から出なくなったと。
まぁ、この手の人種は掃いて捨てる程見て来たので新鮮味はないわね。
嵜岡 釼木はキョロキョロと見回し、思考には強い困惑が浮かんでいるが、私の姿とガチャマシンを見た瞬間、即座に状況を把握。
この手の輩はこういった事柄に対する状況把握が異様に早い。
その為、説明の手間が――特に納得させる件を省略できるのは非常に楽でいいわ。
つまらない人種だとは思うけど、客としては当たりの部類だ。
私はいつも通り、ガチャの説明を行う。
代償が寿命とお試し用の無料ガチャについての説明を一通り済ませると嵜岡 釼木はさっきまでの覇気のなさは何処へやら、すっかり目を輝かせてガチャへと視線は釘付けだ。
ちなみ話を聞いている最中は私の顔と胸ばっかり見ていた。
溜まっているのは分かるけど、気持ち悪いから邪な視線向けるのを止めなさい。
女神はおさわり厳禁よ。 見るだけで満足しときなさいな。
……後、受け答えははっきりしてくれないかしら? ブツブツ言ってて気持ち悪いわよ?
――という本音を完璧な笑顔の下に隠して私はさぁどうぞと促すと、嵜岡 釼木は迷わずに無料ガチャを引く。 いやぁ、この手の馬鹿って即決してくれる奴が多いから楽でいいわー。
取りあえず無料ガチャで引いたのは――
R:異世界転移権
あら? Rで転移引くのね。
低レアリティで出るって事はこいつは引かなくても転移していた可能性があるわね。
嵜岡 釼木は妄想が逞しいようで陰気に笑いながら、異世界転移した後の事を妄想し始めた。
思考が丸見えなのでこっちにも伝わるからそう言った妄想は他所でやってくれないかしら?
ちなみに妄想の中で嵜岡 釼木は複数召喚された勇者の中で抜きんでた才能を持っているらしく、それを隠しつつやれやれと他を助けて目立たずに一目置かれる存在になっていた。
……はは、夢を見るのは自由だけどそれがやりたいならまずは相手の目を見て話せるようにならきゃね?
そんな事を考えつつ引きますかと尋ねる。
嵜岡 釼木は異世界転移を引けて興奮したのか鼻息荒く十回引くと言い出した。
まいどありー。 私は嵜岡 釼木の寿命をコインに変換して引き渡す。
――で、何を引いたのかと言うと――
一枚目SR:鑑定眼 六枚目SR:異性交際権
二枚目R :身体能力向上(小) 七枚目R :聴力強化(小)
三枚目SR:根源盾タンタル 八枚目SR:根源鎧クリプトン
四枚目SR:根源剣プラセオジム 九枚目N :金貨百枚
五枚目R :反応強化(小) 十枚目N :銀貨百枚
……は?
結果に思わず目が点になった。 ちょっと引き強すぎない?
十回やってSRが五? いやいや、多すぎでしょ。
それと引いた物を見てこいつがどんな世界に転移するかを察した。
取りあえず、聞かれたので引いた物の説明を行う。
まずは簡単な物から。 金貨銀貨は向こうの貨幣ね。 国のシンボルらしき紋章が描かれていた。
それぞれ袋に詰まっている。
次に装備品ね。 調べたけど、転移先の世界に存在する上等な装備ね。
実際、装備品としては優秀だ。 その根源結晶だけど、自然から発生した物じゃなく世界から生まれた高純度のエネルギー結晶体ね。 だからこそ普通じゃあり得ないような高いスペックを発揮する。
まぁ、ほんの欠片みたいな代物だから「優秀」の域は出ないと言った所かしら?
私の知る限り、世界から生まれた本物の武器はこんな物じゃない。
真の意味での聖剣、魔剣、果ては神剣なんて呼ばれる武器に比べればゴミみたいな物だけど、余程の相手じゃなければ圧倒できるスペックね。
身体能力強化や異性交際権は見たままなので、ここでは省略。
さて、問題は最後の一つ。 要は嵜岡 釼木が最初に引いた代物ね。
鑑定眼。 効果はシンプルで、その名の通り対象の
これは本人に資質として備わりはするが、使える場所は限られる。
「あ、あの、こ、ここでは使えないんですか?」
「残念ながらここでは扱えません。 使用可能なのは転移後の世界です」
そう答えながら内心で苛立ちに眉を顰める。 こいつ、私のステータスを見ようとしやがったな。
馬っ鹿ねぇ、仮に使えたとしても見せる訳ないじゃない。 お前程度が私のプライバシーを侵害するなんて一生どころか百生かかっても無理ね。 身の程を弁えなさいな。
「じゃあ、この異性交際権で付き合える女の子に関しては分からないんですか?」
「えぇ、今の段階では不明です。 貴方と結ばれる因果を持った存在が引き寄せられるとだけ言っておきましょう」
うーん。 こいつ本当に気持ち悪いわね。
内心でどんな女と付き合えるんだろうとか言って妄想してるわ。 うわ、なんでそこで私かもとかいった思考に到達するのかしら? アホすぎて理解できないわ。
女に飢えているのは分かったから後にしてくれない? というかもっと引け。
そう考えてはいたのだけど、引き当てた武器と異世界転移権に満足しているようだし、この様子だとこれ以上は望み薄かしら?
嵜岡 釼木は悩む素振を見せているけど、引く気はなさそうだ。
しばらく悩むポーズで引っ張った後、言い難そうに「止めておきます」と言って来たので今回は終了ね。
ま、精々、転移先の世界で頑張りなさいな。
用も済んだしこの場はお開きね。
「では、私はこれで。 貴方に良き運命が訪れん事を」
いつもの社交辞令を口にして私は嵜岡 釼木の意識を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます