第9話 六人目①
……うーん? 何だろう、感想が出てこない。
私――星と運命の女神ズヴィオーズは目を閉じて思い返す。
神に対する敬いを忘れない感心な死に損ないだったけど、客としての旨みは微妙ね。
その人生も蚊だったから正直、コメントに困るわ。
ただ、収支的には余り美味しくないのが続いているのでそろそろ若くて寿命をいっぱい持ってそうな客が来ないかしら?
そんな事をぼーっ考えていると――おや? これは呼ばれる感覚!
来た来た来た! そろそろいっぱいガチャを回す奴が来ますようにと思いながら呼ばれる声の方へと向かう。
さぁ、女神の導きの時間よ!
お、これは中々良い感じじゃないかしら?
お馴染みのいつもの空間に立っているのは女性。 かなり若いわね。
どれどれと対象のプロフィールを参照する。
いきなりな事態に困惑顔だけど、私の姿とガチャマシンを見て薄ぼんやりと察しているのは楽でいいわ。
これぐらいの年齢のガキはこういう事に対しての察しが非常にいいのでやり易い。
細かい説明が省けるのはいい事ね。
取りあえず恒例のガチャと記憶を代償にする無料ガチャの説明すると古蔵 菜橇は早々に理解して目を輝かせ始めた。
「凄い! 最近流行りの転生したり転移したりするあれですか!?」
「転生するか転移するかはあなたが引き当てる運命次第です」
さっさと引けと思いながら笑顔でどうしますか?と促す。
「と、取りあえず、無料分を引かせてください!」
はいどうぞと無料コインを精製して古蔵 菜橇に渡す。
古蔵 菜橇はやや緊張しながらコインを投入してガチャを回した。
引き当てたのは――
SR:魔力感知(大)
あら、結構いいのを引いたわね。 魔力感知は文字通り魔力――要は生体エネルギーや非生体エネルギーを肌で感じる事が出来る能力ね。
魔法が使われる世界であるならかなり有用な能力だけど、この娘の世界では微妙かもしれないわ。
日本ではこの手のエネルギーを感知したとしてもあまり役に立つ場面はそう多くない。
どうせ誰も魔法なんてまともに使えないのに魔力量を知った所で何か役に立つの?と言った感じね。
――まぁ、完全な役立たずかと言えばそうでもないけど――関係ないし今はいいか。
SRで効果の大きな(大)なので運がいいですよとリップサービスすると古蔵 菜橇は気分を良くしたのか、ちょっとぐらいはいいかと内心で考えて五回回すと言って来た。
五年コインか一年を五回回すかと尋ねると後者を選択。 次々と投入してガチャを回す。
一枚目 N:模造刀
二枚目 N:音叉
三枚目 N:ハンドベル
四枚目 N:塩
五枚目 N:身体強化(小)
……ぷっ。
思わず笑いそうになった。
え? なにこれ、ここまで物品ばかり引くのも珍しいけど、ラインナップが意味不明すぎて面白いんですけど。 ここで引いているって事は私から見たらしょぼいガラクタだけど、古蔵 菜橇にとっては何かしら役に立つ物なのかしら?
古蔵 菜橇もこの結果は想像もしていなかったのか引き当てた代物を持ち上げて呆然としている。
いや、面白すぎでしょ? 模造刀は何か安っぽい木製の柄に刃に刃紋すらないチャチな代物だった。
本当に形だけの刀ね。 何に使うのかしら? チャンバラごっこ?
音叉も本当に何の変哲もない金属製の物で、表面には型番らしきアルファベットと数字が刻印されている。 古蔵 菜橇が指で弾くとチーンと澄んだ音が鳴った。
ハンドベルも表面にメッキか何かで金色にしただけで、明らかに安物と分かった。
最後の塩に至っては意味不明ね。 ちゃんとパッケージに納まっていて、でかでかと何か凄そうな名前が印刷されていた。 何か開けて舐めているけど普通に塩みたいね。
「ど、どうしますか? 続けて引きますか?」
あ、危ない危ない。 思わず半笑いで言いかけちゃったわ。
微かに声が震えていたかもしれないけど、気付かれてないっぽいわね。
古蔵 菜橇は引いた代物が余程お気に召さなかったのか、内心では不満たらたらだ。
文句があるならもっと引きなさいな。
良いのが出るまで引けば気分的にはチャラよ! さぁ、引くのです、引きなさい……。
古蔵 菜橇はガチャマシンを睨みつけるともう五年とキレ気味に言って来た。
今度は良いのを引くと五年コインを要求して来たのでハイハイと精製して引き渡す。
これでN出たら笑うわね。 そんな事を考えながら結果を見守る。
引き当てたのは――
SR:魔力放出
あら? これは珍しい。
魔力放出はその名の通り、魔力を放出する能力ね。
単純な思念の波を打ち出すだけだから、異世界に存在する魔法の下位互換って所かしら?
ただ、上手く扱えば物を動かしたりはできるから、日本では分類上は超能力になるわね。
ESPとかPSIとかって呼称されているらしいわ。
まぁ、魔法未満の半端な代物だけど日本では色々と悪用はできそうね。
場合によっては証拠の出ない凶器にも使えるわ。 まぁ、使いこなせればって但し書きが付くけど。
私は古蔵 菜橇に能力の説明を行い、軽く使い方をレクチャーすると簡単に使えるようになっていた。
手から不可視の衝撃波の様な物を放出。 さっき引いた模造刀を破壊して、凄い凄いと驚いている。
へー、中々やるわねー。
扱うには割とコツが要るのだけど、この調子なら目を覚まして記憶を失ってもそうかからずに使えるようになるかも。
一通り試して満足した所で、私はどうしますかと尋ねる。
十年払ってくれたから収支としてはまぁまぁね。 引くならもっと引いて欲しいけど、古蔵 菜橇の思考を見る限り、もう満足しちゃってるからここまでかしら?
……正直、ちょっと意外ね。
この手の異能力を手に入れる奴は大抵は転生か転移関係を引き当てるのだけどそれもなし。
古蔵 菜橇は異世界に行かないって事なのかしら?
まぁ、魔力を多少操れると言っても魔法未満の微妙な代物だし、魔法技術が発展した世界ではあんまり役に立たないだろうしね。
仮に転移なり転生なりを引いているのなら――特に後者の場合は寿命を使い切るぐらい引いた方がいいのだけど、ないならすぐ死ぬ事はないでしょう。
最後の確認をすると古蔵 菜橇はかなり迷っていたけどもう充分ですとはっきりと口にした。
そう、ならこんな所には用事はないわね。 精々、引いた物を有効活用しなさいな。
大半はガラクタだけど。
「では、私はこれで。 貴方に良き運命が訪れん事を」
いつも言っているお決まりの社交辞令を口にして私は古蔵 菜橇の意識を後にした。
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