第20話

「お兄ちゃん、友達がお見舞いに来てくれたよ!どうぞ」詩織の声が聞こえる。


 友達?友達と呼べるような奴は……、生川か……、学校のプリントでも持ってきたのだろうか。あまり話したくないので俺は布団を頭から被って顔を隠した。

「どうも~」あれ、生川の声ってこんなにキーが高かったっけ?

 しばらくの沈黙が続く。

「山本見っけ~!」その声と同時に掛け布団が一気に剥ぎ取られた。

「きゃー!!」俺はなぜか乙女のような悲鳴を上げてしまった。落ち着いて見上げるとそこには、昌子と恵の姿があった。昌子は布団を手に持ち笑っている。

「具合はどう?」恵が小さな声で聞いてくる。

「具合って、まだ文句があるのか!?」俺は起き上がると昌子から布団を奪い返した。

「……」恵の返答はない。

「あっ、これがもしかすると恵の?」昌子は棚に飾るように置いてある縦笛を指差した。

「「あっ!!」」俺と恵はシンクロするように声を上げた。恵は真っ赤な顔をして下を向いた。

「この少女漫画もそうか?で、体操服は?」昌子はなんだか嬉しそうに俺の部屋を物色している。

「体操服は……、引っ越しの時に捨てた。俺ずっと自分の気持ちしか考えてなくて……、天野を虐めてたつもりは無かったんだ、でも実際は……ゴメン」俺はベッドの上で正座して土下座するように謝った。

「私は、絶対に許さない。あの山本直樹にされた事を……」恵は目に少し涙を貯めている。

「ちょ、ちょっと恵……」昌子が珍しく困ったような顔をして恵をなだめようとしている。

「でも……、今のあなたは……、あの山本直樹とは、違う山本直樹君だと思う事にするわ」

「えっ!?」俺は彼女の言っている意味が理解出来なくて顔をあげた。

「恵、素直に好きって言っちゃいなよ」昌子が口を出す。

「ば、馬鹿な事を言わないで!私がこんな奴好きな訳無いじゃないの!!」恵は強烈に否定する。

 俺は唖然としながら二人の顔を見ている。

「でも、山本も鈍感だね。恵の態度見てたら気持ち位解るでしょうに」昌子は呆れている。

「いや、でも、それは彼女の俺へのリベンジで……」

「最初はそうだったけれど、恵も山本を好きになっていったんじゃない。もう子供じゃないんだから二人とも素直になりなさい。恵が要らないなら、私が山本貰っちゃおうかな」そう言うと昌子は俺の隣に座ると腕を組んで胸を押し付けてきた。

「それは駄目!……あっ!!」恵は俺の腕を掴んで引き寄せる。なんなんだこのパラダイスは……。

「俺も、やっぱり天野の事が好きだ。あの頃からずっと……」俺の言葉を聞いて、恵は更に顔を赤らめている。


「お兄ちゃんがこんなにモテるなんて、きっと天変地異がくるわ」廊下の詩織が呟いた。


 こうして、俺のリベンジは達成されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初恋の君へ……、俺のリベンジ物語 上条 樹 @kamijyoitsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ