第5話・紅は颯爽と駆けつける


人選が謎過ぎてたので山吹やまぶき君に聞いたところ、彼が個人的にかしこいと思っている人達だと言う。


なぜ、山吹君が僕にそんな評価をしているのか分からないが、逆らう訳にもいかないので大人しく指示された所に集まると、机を4つ合わせて大きなスペースをつくり、僕らはそれぞれに座る。


隣には白臼しらうす君が、向かいには竜胆りんどうさん、そして彼女の隣には灰羽はいば君が座った。


「よろしくね、草室くさむろ君!」

「う、うん」


相変わらず白臼君と話す時は、女子と話しているような気分になる。


「よっし」


灰羽君はいきなり口を開くと、僕達を一瞥いちべつした。


そして、これについてどう考えているか?と問いかけた。


「……私は特に」


竜胆りんどうさんはない感じで答えた。


「白臼は?」

「え、あ、僕ですか?」

「お前しか白臼いねぇだろ?」


アハハ、と白臼君は笑う


「そうですね、僕は、草室君が前に言ってた『ヤバいやつ』がやったんではないかなって思ってます」

「でも、監視カメラには何も写って無かったぞ?教室のやつも廊下のやつも…、ちゃんとそれは昨日確認して来たし」


さらっと言ったが、僕は彼の行動力に驚いた。

いや、そもそも彼がクラスのためにそこまでしていた事に驚いた。

もしかしたら灰羽君は、僕達が思っているような不良わるいやつではないのかもしれない。


うーん、と白臼君がうなっていると。


「それこそ、ヤバい人らが関わっている事の証拠なのでは?」


竜胆さんだった。


彼女は体の向きを真横に変え、隣の人に問いかける。


「灰羽君」

「な、なんだよ、急に」

「監視カメラには、本当に何も写って無かったんですよね?」

「おう、ひと1ひとり写って無かったぜ」

「……なるほど、これはいよいよ平和じゃなくなってきましたね……」

「おい、どういう事だよ、詳しく言えよ」

「分かりませんか?」


彼女は試すように言う。


「監視カメラには、『何も』写って無かったんですよ?」


白臼君と灰羽君を見たが、イマイチ ピンと来て無かったようなので代わりに僕が言った。


「それは変だね……、誰かが教室の机の上に封筒を置いている以上、監視カメラには、その誰かが必ず写るはず……。それが無いという事は、カメラの故障か……」


僕がチラリと白臼君を見ると、


「ハッキングをして記録を変えた!」


と嬉しそうに答えた。


僕は黙ってうなずく。


「つまり、封筒を置いた誰かは、学校という高いセキュリティの壁を突破し、監視カメラの映像をハッキングして記録を別の物に変えることができる技術を持つ者……、という事になるね。」


「という事は、犯人は朱顔しゅがおとか?」

「それはないわ、かれは、ちゃんと始業式に出席してたもの。どのタイミングで封筒を置きに行くの?」

「けど……」


白臼君は申し訳なさそうに言った。



「協力者という線は捨てられないよね?」



******************************


僕達は、先程話し合った内容を赤山あかやまさんと山吹君に伝えた。

山吹君は、どこか嬉しそうに伝えられた内容をノートに書き写していた。


「じゃー、君達が話し合ってもらってた間に他の人達で話し合ってた事について伝えるね」


そう言うと赤山さんに、マスコミに絡まれた時にどうするのかの対策を伝えられた。


******************************


終業のHR。


3年5組だけ、裏門から出るようにと伝えられた。


******************************


僕達は下駄箱から下靴を持ってくると、校舎裏で履き替えて外に出た。


いつもは五十嵐いがらし君と2人で帰っているのだが、今日は少し違い、赤山さん、山吹君、灰羽君もいた。


「なんで今日は一緒に……?」

「あら、お邪魔だった?」

「いや、山吹君や灰羽君はともかく、赤山さんは何時いつ川澄かわすみさんと一緒に帰ってるから……今日はいいのかな、と」

「なるほどねー、それなら大丈夫よ、大事な話をするからって、先に帰ってもらったのよ」

「……左様ですか」

「うん?なんだか不服そうだね?」


そう言うと彼女は僕を下から覗き込んできた。


思わずドキリとしてしまう。


「そ、そんな事ないです」

「そう?ならいいけど」


赤山さんは怖い。

彼女には何とも言えない『闇』のような物を感じるからだ。


正直言ってあまり関わりたくない。


「で、赤山?なんでオレ達を呼んだんだ?」

「さっき言ったでしょ?大事な話をするためって」

「その大事な話が何かをあかつきは気になってるんだよ…」


山吹君があきれながら言う。


「あ、ごめんね、なら本題に入るね?」


そう言うと彼女は、僕達の少し前に出て振り返り何かを言おうとした。


その時だった。


「おい、姉ちゃんたち」


彼女の背後から声が聞こえた。


そこには2人組の男がいた。

1人は若めの金髪の男、もう1人は黒髪の30代ぐらいの男、多分こちらの方が上司なんだろうか。

どちらもスーツ姿だがガタイがよく、胸のポケットの上には鳥が羽ばたいたような形のバッチが付いていた。

よく見ると、そのバッチには『しま』という文字が掘られていた。


一瞬で朱顔君が録音してた音声を思い出した。


「鳥島組(とりしまぐみ)…?」


おもわず五十嵐君がその名を口に出してしまった。


何をしているんだコイツは……。


本格的に彼との付き合いを考え直さなければならないようだ。


「お?そこの兄ちゃんは知っているようだな?」


若めの金髪の男が反応した


「なら、もちろん他の君らも?」

「いいえ、知りません」

「嘘をついたらいかんなぁ〜、姉ちゃん。さっき、あの兄ちゃんがうちくみの名前を出した時に驚いてただろ? なんでコイツは言っちゃうんだ?って感じの顔だったぜ?」

「……」


まぁ別にどうでもいいけどな、と言うと


うちの事を知っているのなら話は早いよな?」

「なんの話ですか?」

「とぼけちゃダメだよ兄ちゃん、遺産カネだよ遺産カネ、例の富豪のな」

「あぁ、マスコミに届いたとかいうFAXの話ですか、あれはガセ情報ですよ?」

「本当かい?なら、なんで君達は裏門から出てきた?マスコミから逃げるため?やましい事がないなら正門から堂々と出ていけばいいじゃないか」

「学校からそういう指示があったので」

「おい…」


今まで黙っていた、黒髪の男の口が開いた。


「俺達を舐めているのか?」


そう言うと彼は、金髪の男の対応をしていた山吹君の肩を押し、近くの民家の壁に追い詰める。


そして拳をつくり、彼の顔のすぐ右を殴った。


「ヒッ!」


赤山さんが小さな悲鳴をあげた。


僕は左右の隣の男達を見た。

五十嵐君は怯え切っててブルブルと震えていたが、一方、灰羽君はだった。

無表情で、ただひたすらに事の流れを見ていた。


彼はいったい?


ふと彼の右手を見ると、そこにはスマホが握られていた。


なるほど録画か……。


そうこうしてるうちに、黒髪の男は脅しだけだと意味が無いと判断したのか、山吹君の胸ぐらを掴むと、1度奥へとやり、再び己(おのれ)に近ずけて頭突ずつきをした。続けて倒れ込む山吹君に膝蹴ひざげりをする。


それで十分だった。


「よし、つばさよく耐えたッ!」


灰羽君は僕にスマホを投げ渡すと走り出し、そのままの勢いで黒髪の男に体当たりをした。


だが、男はその程度では倒れない。

灰羽君をにらみ付け、駆け出す。


そんな彼に山吹君は足をかけた。


流石に認識外にんしきがいの攻撃には耐えることが出来なかったのか、その場でコケた。


山吹君はゆっくりと立ち上がり、灰羽君に聞いた。


「録画は?」

「してある」

「データは?」

「保存済み」

「流石だ」

「……後な、アイツが近くにいるらしいから呼んだ」

「まじか、後どれぐらいで……、いや、いい」


2人は黒髪の男を見下ろす形でいた。

今までの攻撃はあくまでも正当防衛せいとうぼうえいになるが、これ以上は過剰防衛かじょうぼうえいになる。それを分かっていたので何もしなかった。


「おっ前っらッァァァアアア!」


男は咆哮さけびながら立ち上がると、服の内ポケットから何かを取り出した。


それは黒かった。


それは見ただけで正体が分かった。


それは誰でも簡単に他人ひとの命を奪う事ができる物だった。



拳銃けんじゅう



「兄貴!流石にそれは!」


金髪の男が阻止しようと声をかける。


「何を言っている…?俺はコイツらに恥をかかされた!なら殺すしか無いよな!?」

「兄貴……、やってられません!私は帰りますよ!?」


男は金髪の男の方を見る。


「別に構わねぇが……、後で殺すぞ?」

「ッッツ!」


金髪の男はここで待つ事にしたようだ。


早く帰れよ。


とりあえず僕は、赤山さんと五十嵐君を近くに来させると、バレないように警察に連絡をした。

ただコールをするだけでいい、それだけでおそらく来て貰えるはずだ。


男は拳銃の引き金に指を置いた。


「最後に聞くぞ?遺産カネはどこだ?今答えると半殺しでませてやる」


「知らねぇなぁ!」


灰羽君は大きな声で叫んだ。


男がその返事こたえを聞き、拳銃の引き金を引く一瞬前。


彼は後ろから蹴飛ばされた。


そのままの勢いで、灰羽君と山吹君の間を通り抜ける。


「はァ…あ、ああ、あ?」


そこには、僕達と同年代の男がいた。


「ガキが次から次へとッ!」


男は拳銃を探すが辺りには見当たらなかったようだ。

蹴飛ばされた時の衝撃で手から離れ、排水路の蓋の持つ用の穴から落ちた事には気づいて無いのだろう。


「お前は、ここの高校の生徒じゃないだろ? 無関係者むかんけいしゃが、ちょっかいかけてくんじゃねぇよ!」


黒髪の男は、蹴飛ばした男に言った。


「いや、生徒だよ、ただ停学中なだけ」

「あ?」


「ご紹介するよ、」


山吹君はお辞儀しながら言った。


「彼は、用賀木ようがき くれない。彼の名前は鳥島組きみたちなら知っていると聞いたが?」


「よ…、用賀木だと!?」


男の顔がみるみるうちに青ざめるのが分かった。


「お、おま


その時、パトカーのサイレンの音が響いた。


「チッ、サツに連絡してやがったのか、おい帰るぞ!」

「はい!」


男達はその場から去っていった。


******************************


僕達はパトカーの中で警察官に長い間話を聞かれた。


できるだけ全ての質問に答えるようにしたが、『なぜ、襲われたのか?』という質問にだけは答える事ができなかった。


******************************


僕が警察官の質問から解放され外に出ると、皆が待っていてくれた。


「ごめんない……、遅れちゃって」

「いいわよ、そんなの気にしなくて」

「そうだぞ草室〜」


そう言いながら、灰羽君が僕の頭を撫でてきた。


いや、なんで?


「そう言えば……、」


灰羽君の手を退けながら、僕は黒髪の男を蹴飛ばした男の方を向いた。


「危ないとこを助けていただきありがとうございました……、あなたは?」

「ん?俺の事知らないのか?」

「はい……」


男は少し悲しそうな表情をしながらも答えてくれた。


「3年5組、27番、用賀木ようがき くれないだ、はじめまして」

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