第6話・赤は闇を秘す


「……、3年、5組?」

「あぁ、そうだぜ?」

「という事は俺達と同じクラスじゃないですか!?」


五十嵐いがらし君は大きな声で叫んだ後、直後に不可解な顔した。


「でも、俺はあなたみたいな人を見た覚えが」

「アハハハハ、それはそうかもね!俺は去年から停学を食らってるからな、暴行と窃盗の疑いで」

「え、それってガチのヤバいやつじゃないですか?」


僕達とクラスメイトだと名乗る男は敬語を使うなよ、と間にはさみつつ 鳥島組とりしまぐみの男達が逃げっていった方向を見た。


「俺はあいつらに、はめられたんだよ」

「はめられたって?」


どうやら赤山あかやまさんも、詳しい事情を知らないようだ。


昨年きょねんのちょうどこの日ぐらいかな? 電車で家に帰ろうとについているときにな、うたた寝をしている他校の女子高生のかばんを置き引きしようとしている奴がいたんだよ。俺はそいつの事をずっと見ていて、女子高生の鞄に手をかけた時に動いたんだよ、肩を持って『それは犯罪だぞ』と」

「うんうん、それでどうなったの?」

「この時の行動は、俺は今でもいているんだが、奴の持っている女子高生の鞄を奪い取ったんだ」


それで、そいつにこう言われたんだよ


用賀木ようがき君は少し悔しそうな顔をしながら言った。


「コイツがこの子の鞄を盗もうとしてる、ってね」


!!!


僕達3人に雷が落ちたような感じがした。


冤罪。


しかも、人助けをしようとしてそれに巻き込まれた。


「で!?それでどうなったの……?」


彼は今度、優しそうな顔をして言う。


「女子高生は寝てたからね?そいつの言うことを信じたさ」

「それって…、酷いわね」

「いや、無理もないさ。正直言って、自分も逆の立場なら そいつの言い分を信じただろうしさ」

「オ、オイ、それでどうなったんだ?」

「持っていたカバンを持ち主に押し付けて、既に電車内から外に出ていた奴を追いかけたよ。そのまま駅からも出て、夜の街で追いかけっこだ。たくさんの人とぶつかりながらな。そうしたら、ふとしたところで奴が路地裏に入ったんだ。何度も曲がって曲がって曲がって曲がって曲がって、俺はついた」

「ついたって、どこに……?」

袋小路ふくろこうじだよ、俺はそのまま奴を壁際まで追いやった。そうしたら後ろから物音がしたんだよ」

「それって……」

「そう、罠だったんだ。相手はスーツ姿のガタイのいい奴らばっかだったよ。胸のポケットの上に、鳥が羽ばたいているような形のバッチをしているな」

「それって、鳥島組とりしまぐみか?」


彼は黙って頷いた。


「相手は窃盗未遂犯せっとうみすいはん合わせて5人」

「それでどうやって逃げたんだ?」


五十嵐君の質問に、彼は満面の笑みで答えた。


1人残らずボコボコにしてやったよ、と


「え?えぇ!?相手5人だったんだろ!?」

「あぁ、だから流石に疲れて、即家に帰ったぜ?」

「それでそれで?」


赤山さんが食い入るように聞く。


「その次の日かな?学校に鳥島組とりしまぐみの奴らが連絡をしてきたらしいんだ。『貴校の生徒、用賀木ようがきくれないが暴行と窃盗をしているところをうちの組員が確認した』ってね」

「……つまり?」

「鳥島組は学校を脅したんだ。俺を停学にしないと この事をマスコミにバラすってね。流石にそれは学校の名誉や存続に関わる事だから言う通りにしたらしい。」

「そんなの酷いじゃない!あなたは人を助けようとして巻き込まれたんでしょ?」

「そうだぜ?けどな、証拠が無いと誰も信じてくれないんだよ」

「そ、んな」


僕は今まで黙っていた、灰羽はいば君と山吹やまぶき君を見た。


「君達は、……知っていたの?」


あぁ、もちろんだぜ、と灰羽はいば君は言った。


「いや、そもそも……、君達3人は知り合いなの?」

「オレ達、3人は保育園からの仲だ」

「へ〜、知らなかったわ」


赤山さんは山吹君をチラリと見た。


「な、なんだよ」

「別に〜」

「???」


そして僕達は少し雑談をすると家に帰った。


******************************


一方、その頃。


鳥島組とりしまぐみの金髪と黒髪の2人の男は、組長の前に呼び出されていた。


彼らは正座をさせられていた。


「アンタらはさぁ…、なんでそう簡単に動くんだ?」


組長が彼らに問いかける。


「い、一刻も早く、遺産カネを取り戻さなければと!」


金髪の男は怯えながら答えた。


「ふーん、それで?なんでアンタらはボロボロなんだ? 情報1つすら吐かせていないんだろ? 返り討ちにあった? 鳥島組のアンタらが? それはゆるされないよな?」


「お、お言葉ですが組長……、」


黒髪の男がおそるおそるといった感じで口を開く。


「相手には、あの用賀木ようがきくれないがいました……」


組長の動きが止まった。


「用賀木だと?」

「はい、確かに間違いないかと」


組長はふと、昨年の事を思い出した。

女子高生に狙いを付け、置き引きをしようとした部下が、その場に居合わせた高校生に長い時間追いかけられたという事を。


(確かアイツは、もしもの時用の袋小路に逃げたが、そこで駆けつけた仲間諸共ボコされていたな。)


そして、その高校生が


「用賀木 紅か…」



組長はふところから小刀を二刀取り出し、金髪と黒髪の男それぞれに渡すと、隣に控えていた部下に木の板を用意させた。



「小指だ」



彼らの顔が青ざめていくのが分かった。


「いいか?アンタらの失敗は決して赦(ゆる)されない失敗だ、だが、俺はもう一度チャンスをやると言っているんだ」


そう言うと、左手の小指を内側に折って見せた


「小指を切る。用賀木を始末する。これがお前らに残されたチャンスだ」


******************************


翌朝。


僕はいつも通り校門に向かった。

昨日と同じように大勢のマスコミがいるかと思ったが、そんな事は無く。3、4人程度しか居なかった。

おそらく、ほとんどのマスコミが例のFAXをデマだと判断したんだろう。

校門は難無なんなく通る事が出来た。

だが、下駄箱で靴を履き替え校舎に入ると、担任の先生が不機嫌そうな顔をして待っていた。


「遅かったな」


は?まだ8時ですよ?という言葉をぐっと飲み込んだ。


僕は『生徒指導室』という札がかけられた教室に連れていかれた。


「ここで待ってろ」


そう言うと先生はどこかに行ってしまった。


しばらくすると、赤山さん、山吹君、灰羽君、五十嵐君もやってきた。


メンツで察した。


昨日の事だ。


まぁ、警察が関わったし無理もないか…と思う。


先生は僕らを大きな机の1つ側に座らせると、反対側に座った。


(そっち広そうだな、こっちは結構狭いんだが?)


「なんで集められたか、分かるよな?」

「はい、これについてはシラをきれませんしね、警察が関わったので」


先生はため息をつきながら、何かをメモした。


「それで?詳しい状況説明をしてくれ?」


僕が赤山さんを見ると、彼女は微笑ほほえみながら頷いてきた。


任せろ、ということらしい。


「昨日、私達が5人で帰っていると、鳥島組を名乗る男達に襲われました」

「いや待て、ちょっと待って」


先生は後頭部をきながら言う。


「連絡を受けた時にも驚いたが、なぜこの5人だったんだ?」

「それは、私が個人的に話したいことがあったので」

「その話したいことっていうのは?」

「それはちょっと」

「あ、はい、そうですか…、じゃ、教室に行っていいぞ」

「え?帰っていいんですか?」

「どうした山吹?もっと話したい事でもあったのか?」

「いや、そういう訳では無いのですが…」

「あくまでも事実確認をしたかっただけだからな?」

「……なるほど」

「分かったなら、行った行った」


僕達はなかば追い出される形で『生徒指導室』から出た。


「用賀木君については触れられなかったわね」

「そうだな、オレ達の事を伝えられているならあいつの事も伝わっていると思ったが…、あえて言わなかったのか?」

「多分、そうだろうね……、学校側からしたら用賀木君は消したい存在だろうし……」


*****************************


♪〜♪〜


7時間目の開始を告げるチャイムがなった。


さぁ、授業かいぎの時間だ。


「じゃー、いつも通り会議を始めるんだけど。今日はその前に皆に伝えておかないといけない事があります」


そう言うと、赤山さんは昨日の顛末てんまつを簡単に話した。


「ちょっ、風花ふうかちゃん昨日そんな事があったの?大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ みどりちゃん」


彼女はそうは言ったが、クラス全体が恐怖に呑み込まれているのが分かった。


それもそうだろう、実際に僕達は殺されかけたのだから。

現に彼女と共に前に出ている山吹君は怪我をしている。


赤山さんは続けて話した。


同じ3年5組の仲間である、用賀木 紅という名の少年の詳細を。


そして、


彼の停学は正しかったのか否か、また停学を停止させる方法を今日は話し合いたい、と


「これは、出席番号順に4人ずつ…、計7班で話し合ってもらい。考えがまとまったら班の意見を発表していく感じにしようと思う」


山吹君の指示を聞くと、僕は後ろの方を見た。

そこには出席番号順に生徒の名前がずらりと書かれているからだ。


僕の出席番号は7番。

つまり、話し合うのは5番から8番の人だ。


(5番は神吉かみよしさんか…)


そのまま視線を横に移していく。


(6番は川澄かわすみさん、7番は僕)


そして、


(8番は……、車谷くるまや君か……)


僕は、急(いそ)いで他の3人が集まっている席に行く。


空いていたスペースは車谷君の向かいだった。

彼の隣には川澄かわすみさんが、僕の隣には神吉かみよしさんが座っている。


僕はてっきり車谷君に質問攻めをされると思ったが、そんなことは無く。彼は上半身を机にして寝ていた。


そんな彼に、川澄さんは軽蔑の視線を向ける。


「早速だけど草室くさむろ君、昨日の事詳しく教えてくれないかな?」

「はい」


神吉かみよし かわりさん。

彼女もうぐいす君と同じように笑顔を絶やさないタイプの人間のようだ。

少し怖い。


僕は昨日起こったことと『停学の真実』を、赤山さんが皆に伝えた時よりも詳しく伝えた。


「なるほどね、暴力団が絡んできたのか…」

「それって、結構ヤバくない? よく風花ちゃん無事だったよ!」

「はい……、実際相手は拳銃を使う気でしたし」

「それで、その時助けてくれたのが用賀木君だったと」


僕は頷いた。


「……皆さんは、僕の話を聞いて、用賀木君の停学停止についてどう思いますか?」


川澄さんは、風花ちゃんを助けてくれたんなら停学停止は当たり前でしょ!、と即答だったが、神吉かみよしさんは違った。


「……草室君が言ってた、『停学の真実』とかいうやつ。彼が人助けをしようとしたのは分かるんだけど、相手を殴ってるんでしょ?」

「いや、でも、相手は5人がかりで襲ってきたので多分 正当防衛せいとうぼうえいになると……」

「けど、その場から逃げたんでしょ?警察に連絡をせずに、それだと真実が分からないよね」

「……どういう事?」

「はやい話、彼が君達に嘘をついている線は拭えないよね?」

「でも、山吹君や灰羽君はその事を結構前から知っているようでしたよ?」

「それは証拠になるかな?用賀木君が彼らに嘘をついているという線は?そもそも彼らも君達に嘘をついているという線は?」

「そんな事は!」


僕は思わず立ち上がりながら叫んでしまった。


「うるせーなー!」


車谷君が怒鳴った。


「ご、ごめん……」


僕は大人しく席につく。


「ちょっと車谷!話し合いに参加しないくせに文句言わないでよ!」

「あ?ちゃんと聞いてたよ」


彼はそう言うと上半身を持ち上げた。


そして僕を見て言った。


「用賀木が言っている事は事実だ」

「え?」

「俺はその現場を見たぞ、アイツが5人組に囲まれながらも全員を潰していく一部始終いちぶしじゅうをな」

「車谷君、それは本当?」


神吉さんの声を聞くと、彼は何も答えずにスマホを取り出し何か操作をすると、1つの動画を見せてきた。


そこには写っていた。


用賀木 紅が自分に向かってくる者たちを倒していく様子が。


「これは……、」

「班の意見は決まったか?」


車谷君は神吉さんを見た。


「そうね、これは信じざるを得ないわ」



そして、班の意見の発表。


はじめは『停学は正しかった』と『停学停止はしない方がよい』の意見が多かったが、自分達が提示した証拠動画で一気に『停学を停止すべき』の意見が増え、無事に彼の停学停止を求める署名を書くことになった。



「皆!今日はありがとう!」


そう言うと、学級委員長は署名書を大事そうに抱え、笑顔で授業(かいぎ)を締めた。



******************************



赤山あかやま風花ふうかは家に帰ると、直ぐに自室に入った。


そして、自らのパソコンを起動させとあるデータを開く。



『拝見、報道各位。先日殺害された例の富豪の遺産についての情報を私は提供する事はできます。ご興味がある方は連絡をお願いします。』



彼女は親指の爪を噛みながら呟いた。


この程度ではマスコミを惹き付ける事はできないか…、と

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る