第2話・朱は見て聞いた

翌朝、教室は静まり返っていた。


テレビの撮影では無かった。


では、一昨日おととい机の上に置かれていた100万円の出処でどころは?


皆、分かっていた。


分かってはいたが、口から出せなかった。


口に出すことで、目を逸らしている現実と向き合わなくてはいけなくなる気がしたからだろう。


僕達は悶々とした気持ちで6時間目までの授業を受けた。



******************************



そして、7時間目の授業かいぎ


「じゃあ皆、今日の会議訓練かいぎくんれんの授業をはじめます!」


赤山あかやまさんの声がいつもより元気だった。

クラスの人達の気分を少しでもやわらげようとしているのかもしれない。


山吹やまぶき君もそれにあわせて、暗い顔の子に声をかけて冗談を話していたりした。


白臼しらうすどうしたんだよぉお!お前顔真っ白だぞ!白臼だけにぃい!」



正直、山吹君に冗談のセンスは無いなと感じた。



赤山さんはタイミングを見計みはからって、話を持ち出した。



一昨日件、テレビの撮影では無ければ何なのかと。


「まぁ、それは分かりきってるだろ?」


前の方の席の誰かが口を開いた。


サッカー部の車谷くるまや紫秀ししゅうだった。

イケメンで高身長、しかも頭が良いとかいう非の打ち所が無い子だ (少し性格が荒いが) 。

噂によると、去年バレンタインデーに貰ったチョコの数は30越えらしい。


「車谷君……」


赤山さんが彼に何かを目で伝えようとしていたが、彼はそれを無視した。


「皆言わないみたいだから言うぞ。…てか、皆分かってんだろ?」


彼は目を細めながらそれを言った。


一昨日、俺達の机の上に置かれていた100万円の出処は、例の富豪の遺産カネだ、と


「車谷君、根拠は?」

「あ?赤山お前…、この100万円が証拠だよ…!3年5組28人全員に100万円、合計2800万円!こんな大金がそこ以外のどこから出てくると!?」

「けど、テレビのさ

「それはねぇのは分かってるよな!?お前バカじゃないだろ?現実から目を背けるなよ!都合のいい解釈してんじゃねぇよ!」

「ちょっと!車谷言い過ぎ!」


友達が責められているのに我慢がならなかったのか、川澄かわすみさんが席から立ち上がり叫んだ。


風花ふうかちゃん悪くないでしょ?」

「そういう話しをしてるんじゃねぇよ!」


車谷君も立ち上がった。


「俺は赤山だけに言っているんじゃない、このクラス全員に言ってんだよ!間違いなくほぼ全員が昨日の夜のニュースを見てさっした筈だ、これはテレビの撮影なんかじゃない、自分達は何かとてつもない事に巻き込まれたと!」


彼は、川澄さんに向けていた視線を僕に向けてきた。


「それこそ、草室くさむろが言っていたヤバイ奴らにな」

「そ、それって、殺し屋とか……?」


川澄さんが怯えた声で車谷君に聞いた。


「まぁ、殺し屋とはいかなくても暴力団とかな。お前も知っているだろ?富豪アイツが裏社会の深いところと関わりがあるって噂されていた事」

「で、でも、それは、あくまでも噂だから」


「いや、そうでも無いみたいですよ」


全く別の声が答えた。


朱顔しゅがお智紀ともき君。

メガネをしており、陰を極めたような子だった。


そんな子が答えたため、皆少し面食らっていた。


「そうでも無いって、どういう事かな?」


こういう時にも平然と対応ができる赤山さんは流石だなと改めて感心する。


「これを見て下さい」


そう言うと、彼は自分のスマホで撮ったであろう動画を皆に見せてきた。


それは、豪邸の周りをThe・暴力団といった感じの人達がうろちょろとしてる様子だった。

豪邸は、おそらく例の富豪の物だろう。


「これは……?」

「自分が今日朝4時ぐらいに撮りに行ったものです」

「朝4時!?早っ!暇かよ!」


五十嵐いがらし君が急に叫んだ。


「ちょっと五十嵐君うるさいよ……?」

「あ、すまんな」


五十嵐君のこういうところは僕はあまり好きじゃない。

落ち着いて欲しい。


「朱顔君続けて?」

「あ、はい」


なぜ僕にすら敬語を使うのだろう。


彼はスマホを操作し、今度は2つ写真を見せてきた。


「これは、どちらも例の豪邸の周りにいた暴力団員と思われる人達の写真なんですけど、この人達って多分別の組織の人達だと思うんです、それも死者が出るくらいの抗争をしている」


「分かりやすく」


車谷君が僅かに睨(にら)む。


「えーっと、これは自分の予想なんですけど、例の富豪は仲の悪い2つの暴力団どちらとも関わりがあったんではないかなと、そして彼らは富豪に…」


そう言いながらまたスマホを操作し、今度は音声を流した。


『アイツの遺産って俺らに配分ある筈だよな?』

『そうだが?』

『でも、鳥島組とりしまぐみのヤツらもそんな事言ってましたよ?』


「???」


クラス全員の頭の上に ? がとんでいたが、山吹君だけは分かっているようだった。


「なるほどな」

と呟く


「例の富豪は、抗争するほどの仲の2つの暴力団どちらとも関わりがあり、行く場所によって護衛ごえいなどをしてもらっていたのだろう。そして、どちらにも遺産を渡すと伝えていた」


「つまり?」

車谷君は頭をかきながら聞く。


「抗争するほどの2つの暴力団は遺産を目当てにその富豪の豪邸の周りに集まっている」



一瞬時が止まったかのように教室が静かになった。

そして、誰かが言った。



「という事は、私達は2つの暴力団から狙われる立場にいるって事?」


クラス全員が怯えているのが分かった。



「ちょっ、ちょっと!皆落ち着いて!もしかし

「もしかしたらはねぇから!」


車谷君がまた赤山さんの言葉を遮り叫ぶ。

そして、問いかけた。


「おい、朱顔、その豪邸はどこにあるんだ?」


彼は少し驚いた表情をしたが、すぐに答えた。


窓の外から見えるの山を指さしながら。


あの山の頂上、と


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