第8話 ただ守りたくて……

(1)


「空!朝だぞ!!」


天音がいつも通り勝手にドアを開けて部屋に入ってくる。

まあ、天音はまだ4年生だ。そういうのが気にならないんだろう。

と、思ったら抱きついてくる。お兄さんに甘えたいっていうやつなのか?

それは無いと否定された。

天音は僕に恋愛感情があるらしい。

父さんが言うんだから間違いないだろう。

普通だったら何か対策すると思うんだけど、対策どころか肯定している。

僕に天音か翼かどちらか選べという。

もちろん他にも選択肢はあった。

翼の友達・石原美希。

恋愛感情というものが分からないからと断ったけど。

翼の感情に触れて少しわかった気がした。

とても温かい感情。

壊れてしまいそうなほど脆い食て切ないもの。

だから人は必死になって守ろうとするんだろう。

そんな気持ちを翼はいつから抱いてきたのだろう。

あの日まで僕に打ち明けずにずっと。

僕に恋愛感情というものがあるとしたらそれは翼かもしれない。

天音には悪いけど。

双子の「共鳴」がそうさせているのかどうかわからないけど。

双子だから「共鳴」出来るという理屈が間違っているのかもしれない。

僕と翼だから出来るのかもしれない。

それを人は運命と呼ぶ。


「嬉しい事思ってくれてるね」


気づいたら翼がいた。


「い、いつからいたの?」

「空が自分の世界に入ったあたりから」


僕も一応父さんの子らしい。

数ある父さんの能力を少しばかり継承している。

「ゾーン」と呼ばれる能力。

自分だけの世界に入り込み最高の結果を導く集中力の極限状態。

父さんもそうらしいけど僕もその状態に入りやすい体質らしい。

この状態に入った時だけは球技も瞬間的な好プレーをする事が出来る。

翼や天音と違って地味な能力だけど。

しかしそれに気付いてたって事は……。


「翼僕と共鳴してた?」


僕の思考を読み取ってた?

僕が言うと、翼は少し頬を赤らめて言った。


「ええ。やっぱり空は私のものだね」


そう言って翼が抱きついてくる。


「こら!翼ずりーぞ!!」

「天音はさっき私に黙って勝手に空に抱きついてた」

「翼が朝早起きしねーからだろ!」


2人が言い争っていると母さんが入ってくる。


「2人とも気持ちはわかるけど空の邪魔をしたら駄目でしょ。着替えさせてあげなさい」


母さんその言い方は色々問題あると思うんだけど。

案の定2人はにやりと笑う。


「そうだな」

「着替えさせてあげないと」


そう言って2人は僕から寝間着をはぎ取ろうとする。

母さんの前で何やってるんだ!


「朝からいちゃつきたいのも分りますけどもう時間が無いから早く着替えさせてあげなさい」


それでいいのか?母さん!

無事着替えてダイニングに向かう。

そして7人で朝食を食べる。

僕達3人は食事の時間は静かに食べることに集中する。

食べ終わると準備を始める。

翼は化粧をするらしくて時間がかかる。

そのわずかな時間を狙って天音がじゃれついてくる。

それは翼が準備を終えて降りてくるまで続く。

僕に休息の時間があるとしたら寝てる間だけだ。

呼び鈴が鳴る。

水奈だ。

僕達は玄関に行くと靴を履いて外に出る。


「いってきま~す!」


天音はそう言って今日も元気に登校する。

いつも通りの朝だった。


「しかし昨日のあれは傑作だったな水奈!」

「おう!挙句の果てに校長の奴ヅラってバレてるしな!」


2人は笑ってた。

その傑作でまた母さんと水奈の母さんが呼ばれてた。

校長は激怒してたらしい。

2人とも怒られてる事より、その怒ってる本人がヅラだって事が面白かったらしく説教中も笑っていて長引いたらしい。

昨夜父さんは苦笑してた。


「よく思いついたな」


そう言って軽く流してた。

何をやったかって?

やったことは至って簡単。

来客用のスリッパの底にボンドを塗って並べて置いたらしい。

それを校長が履いて歩こうとしたらつんのめってこけてヅラがとれた。

まあ、誰がやったのかって真っ先に疑われるのが天音と水奈なんだけど二人ともその場で爆笑していたのが決定打になったらしい。

今日は何をしてやろうかな?

そんな二人の相談を傍で聞きながら登校していた。

昇降口で靴を脱いで靴箱から上履きを取り出す。

その時天音が何か妙なリアクションをした。


「あれ?」


翼も気づいたらしい。


「どうしたの天音?」


翼が聞くと天音は「別に」と返した。


「……そう?」


翼はそういうと僕の腕を引っ張って「じゃあね」といって教室に向かった。


「あの二人なんか変じゃなかった?」


翼に聞いてみた。


「空も気づいたんだ」


翼は平静だった。


「なんだと思う?」

「空は本当に鈍いんだね」


翼はそう言って笑った。


「朝の登校で靴箱で『あれ?』って答えはほとんど出てるじゃない」


空だって一度経験したでしょ?と翼は言う。

……そういう事か。


「で、どうするの?」


翼に聞いた。


「どうもしないよ」

「天音に恋人出来るかもしれないんだよ?」

「いいじゃない、空も選択肢が減って楽になれるでしょ?」

「そう言われたらそうだけど」

「ああ、でも空にはもう関係ない話だね」

「どうして?」


翼は僕を見て言った。


「だって空の中では『私』って解答がでてるじゃない」


翼は笑顔だった。

それでいいんだろうか?

それに天音に恋人……なんか実感わかない。

そんな僕の気持ちを読み取った翼が言った。


「じゃあ、あとつけてみる?」

「出来るの?」

「天音たちも今日は6限まであるって言ってた。そしてこういう場合人目のつかない場所と言ったら大体予想着く」

「……放課後の体育館裏?」

「だと思う」

「でもそういうことしていいのかな?盗み見してるみたいで気が引けるんだけど」

「じゃあ、先に帰る?」

「……放課後まで考えさせて」

「わかった」


そういうと翼は席について授業の準備を始める。

翼は真面目だ。

実際授業受けなくても教科書見ただけで大体理解してしまうのに生真面目にノートを取る。

前に「どうして?」って聞いたら「私、空に教えるの苦手だから出来る限り分かりやすいようにノート取っておこうと思って」と答えた。

正直な話僕も自分である程度は理解できてるから大丈夫なんだけどな。

でも今日は助かった。

天音に恋人が出来る。

その事が妙に気になった。

そして複雑な思いだった。

そんな事を考えてると……。


「空には私がいる」


翼の心の声が聞こえてくる。

そして放課後になった。

帰り支度を終えた翼がスマホを見せる。


「今日先に帰ってて」


天音からのメッセージだ。


「どうする?」


翼がにやりと笑う。


「……見に行く」


僕は決断した。

そして二人で体育館裏に行く。

様子がおかしい。

先に来てる人がいる。

水奈とその級友だ。

石原大地と栗林粋と桐谷遊。

大地はどんな訓練を受けたのか気配を消し、周りの気配を素早く感じ取るスキルを持っている。

大地は僕達に気付くと人差し指を口に当て手招きする。

小学生の告白の割には異様な光景。

天音と恐らく天音を呼び出した手紙の相手。

それを取り囲む中学生。

どういう事だろう?


(2)


「あれ?」

「どうしたの天音?」


翼が聞いてくる。


「別に」


平静を装った。


「そう?」


翼はそういうと空を連れて教室に向かった。

その後に下駄箱に入っていた手紙を水奈に見せた。

差出人不明の手紙。


「放課後体育館裏で待ってます」


その一言だけが書いてある手紙。

教室に入ると私達の周りに人が集まる。


「これなんだと思う?」


皆に聞いてみた。


「ラブレターか?」


粋が言う。

いくらなんでもそれはねーだろ。


「じゃあなんだと思うんだよ」


遊が聞いた。


「古典的なネタだけど、呼び出して袋にしようって魂胆か?」


私にうらみのある人間……たくさんいるし一々覚えてない。


「で、天音はどうするの?」


水奈が聞いた。


「そんなの決まってるじゃん……返り討ちだよ」

「それはさすがにヤバくないか?」


粋が言う。

多分「どんな奴が何人いるか?」じゃない。「手加減を知らない天音が乱闘はじめたら絶対骨折るとかする」という意味だ。


「それに、本当に偶然の告白だったらどうするの?」


花が言う。

それも考えておかないとな。


「私たちこっそり後つけようか?」


水奈が言う。


「ヤバかったら助けを呼ぶ。告白だったら写真撮ってばらまくってのは?」


水奈のアイデアに皆が乗った。

確かに保険にはなる。

さすがに大人数人とか来たら手に負えない。

問題は誰がついてくるか。

水奈と遊、それと粋と大地が名乗りを上げた。

話は決まった。

今日の暇つぶしも決まったし。放課後に備えて授業中寝てた。

授業?

睡眠学習てあるだろ?

放課後体育館裏に行くと二人の男子と中学生の学ランをきた男が何人かいた。

一つずつ整理していこう。


「お前誰?」


私が言った。


「この学校で僕をしらないなんてね。僕は山本喜一。フォーリンググレイスのリーダー」

「ああ」


フォーリンググレイス。

この学校でその名前を知らない奴はいない。

簡単に説明すると不良のグループ。

そのリーダーが山本喜一らしい。


「で、私に何の用?」

「お前最近目障りなんだよ。目立ち過ぎだ。癇に障る」


自分たちより目立つなってことか。

下らな過ぎて思わず腹を抱えて笑ってしまった。

周りの中坊が構える。


「で、中坊にまで加勢してもらって女子一人を袋にしようってのか?噂ほど大したグループじゃねーな」

「……言っとくけどこいつらには『手加減するな』って言ってあるんだけど?」

「割と可愛いじゃん。精々楽しませてもらおうぜ」


呼び出された中坊も小者感半端ない。

相手が年上なら骨の一本や二本折っても怒られないだろ?

私も構える。

だが、中坊が動き出したとほぼ同時に2人の男子が間に割り込んだ。

同級生でも一際背丈の低い男子・石原大地と栗林粋。


「2人とも下がってて!」


粋は私の前に立って、私を守ろうとしていた。

大地が雑魚を散らすみたいだ。

私達をちらっと見る大地の隙をついて、金属バットを大地に向かって振り下ろす中坊A


「馬鹿!危ない!!」


私が叫ぶけど大地はにこりと笑って攻撃を紙一重で躱すと拳を中坊Aの鳩尾に目掛けて打ち上げる。

中坊A終了。

次に中坊B。

殴りかかってきたけどそれを躱して腕を取り関節を決めて投げ飛ばす。

正確に中坊Cにぶつけて二人始末

次にすでに戦意をなくしつつある中坊Dにむかって飛び掛かりふわりと飛び跳ねると回し蹴りを中坊Dのこめかみに当てる。

そんな感じで一人で暴れまわり中坊Fくらいまで倒すと残りの中坊は逃げ出した。

喜一は既に逃げ出していた。

意識を失った中坊達を確認すると大地は私を見る。


「怪我無い?」


私は2人を見ていた。

気持ちが乱れてる。

なんだこの気持ち。

もし、空と「共鳴」する事が出来るなら聞いてみたい。


「なんだ!またお前たちの仕業か!」


教師たちが来た。ヤバい!!

だが、大地が教師たちを見て言う。


「すいません、むしゃくしゃしてたんで僕がやりました」

「石原が!?つまらん嘘はよせ。お前ひとりで出来る事じゃないだろ!」


それが本当なんだよ。

信じられないけど。


「本当です。私達見てました」


翼と空が出てきた。つけてたのか。


「職員室で詳しい話を聞く。お前らちょっと来い!」


そうして私達は職員室で話をすることになった。


(3)


気づいたら自分から名乗り出ていた。

粋と遊と水奈と一緒に様子をうかがっていた。

不安だったから。

不吉な予感がしたから。

そして放課後体育館裏に物陰に隠れていると翼さんと空君が来た。

2人に静かにしてるようにお願いして。成り行きを見ていた。

予感は当たった。

中学生を利用した処刑。

いくら天音でも危険だ。

まずい!

皆が飛び出そうとする。


「水奈はここにいろ」

「でも……」

「水奈は俺が守るから!」


水奈と遊がそんなやりとりをしてる。

飛び出したのは僕と粋。

粋に天音の護衛を任せる。

年上とは言え素人。

新條さんから叩きこまれた戦闘術が役に立った。

何人か叩きのめすとあとは自然と散っていった。

倒れてる中学生を確認すると天音達を見て言った。


「怪我無い?」


すると先生達が駆け付けた。

先生達は天音達の犯行だと決めつけてた。

だから名乗り出た。


「すいません、むしゃくしゃしてたんで僕がやりました」


先生たちは信じてくれなかった。

でも翼さんと空君が証人になってくれた。

僕達は職員室に呼ばれた。

生まれて初めての経験。

母さんを呼ばれた。

中学生を叩きのめした。

怒られるかな?と思った。

でも母さんは褒めてくれた。


「あなたも望に似て立派な男になったのね!よくやったわ大地!」


母さんは僕を抱きしめる。


「お母さん、お気持ちは分かりますが立派な傷害事件ですよ」


先生たちが言う。


「だから何?この子に非があるというなら徹底的に争ってやるわよ。その山本とかいう奴も連れてきなさい!」

「ですが……」

「事の真相も確かめないで天音や粋。それに大地を最初から悪いと決めつけるなんて無礼にもほどがあるわよ!」


平謝りする先生達。

母さんの怒りはとどまることを知らない。


「その気になったら教育委員会くらいどうとでもなるわよ!」


母さんの言ってることは本当だ。

なんせ「家族団欒の休日くらい考えてあげなさい!」と県知事とのゴルフをも父さんに断らせた猛者なのだから。

母さんの気が済むと僕達は学校を出る。


「天音ちゃん達も気を付けて帰ってね。両親によろしく」


母さんはそういうと車に乗り込もうとした。

その時天音が僕の腕を掴んだ。


「どうしてこんな馬鹿な真似をした?水奈は助けを呼べと言ったはずだぞ?」


天音が言うと、天音の顔を見た。

凄く不安そうな顔をしていた。

そんな顔をさせたくてこんな事をしたんじゃないのに。

いつもの明るい天音に憧れてた。

やってる事は無茶苦茶だけど元気で明るい女の子だった。


「大地。行くわよ」


母さんが呼んでいる。

いかなきゃ……。

いや、ダメだ。ここで言ったらもう二度とこんなチャンスないかもしれない。

父さんが言ってた。

天音のお父さんから聞いたらしい。


「ラーメンはのびないうちに食え」


僕に今一度勇気を!


「僕が戦闘術を学んだのはたった一つの目的の為」

「は?」


天音が聞き返す。


「僕のたった一つの目的。大切な人を守るため」


天音は僕を見ていた。


「僕の大切な人……それは片桐天音さんです」


言ってしまった。後戻りはできない。


「ずっと見てきました。気づいたら恋に落ちていました」


天音さんは黙って僕の言葉を聞いている。

ずっと見てきたから分かる。

天音さんが僕と同じように空の事を見ていたことくらい分かる。

でもいいんだ。これで僕の初恋に整理がつく。

だから言おう。


「天音さん。ずっと好きでした。付き合ってください」


終わった。

返事はいいよ。

困らせてごめんね。

最後に笑って欲しかった。


「ちょっと待てよ!抜け駆けはゆるさねーぞ!」


え?

ずっと天音の隣にいた粋が言う。


「俺も天音の事が好きだ!付き合って欲しい!」


流石に天音も戸惑っているみたいだ。

それにいつもの威勢が無い。

突然僕と粋に告白されて混乱しているのだろうか?

母さんも場の空気を読んで静かに成り行きを見守っていてくれた。

そしてやがて天音が口を開く。


「ごめん、こういうの初めてでよく分からない。2人に対してもどう接したらいいか分からない」


まあ、そうなるよね。

僕の粋は落胆した。


「でも、いつか必ず返事をするからそれまで待って欲しい。それまでは今まで通り友達でいてくれないか?」


こんなに不安そうな天音は初めて見た。

いつも気丈な天音なのに。

僕と粋は黙ってうなずいた。

そんな僕達の顔を見てやっと天音が笑ってくれた。


「今日はありがとうな」


天音を狙ってるライバルがいるのは予想していたけど、まだ期待はしてもいいようだ。

どんなに絶望しても明日の希望に胸が震える。

告白が恋の終りなんかじゃない。

そこが始まりなんだ。

僕の恋物語は今幕を開けた。


(4)


「天音、何考えてるの?あの二人なら粋の方があってるでしょ!?それに空はいいの!?」


水奈が言う。

私は何も言わなかった。

自分の心に芽生えた気持ち。

その正体を探るのに必死だった。

大地と粋の告白を受け入れたのは衝動的だった。

多分理由を説明する自信はない。

言ったところで納得してもらえないだろう。

帰りが遅くなった。

母さんたちに何があったのか聞かれた。

翼が説明してくれた。

私は部屋に戻る。


「本当にいいの?空は諦めるの?」

「わかんない。でもその方が翼も都合がいいんじゃないのか?」

「……そんな投げやりな気持ちじゃない事くらい分かる」

「そうだな」


そういうと翼は何も言わなかった。

夕食の間は考えないことにした。

食べ物に罪はない。

我が家の家訓。

だけど……。

食事が終わった後、3人で風呂に入るんだけど……。

私は愛莉にお願いしてみた。


「ちょっと今日は愛莉と入りたいんだけど」

「私と?」


愛莉が聞くと私はうなずいた。


「娘と入れるなんていつぶりかしら」


愛莉は嬉しそうだ。


「じゃあ、翼と空さっさと入ってきなさい」


翼と空を二人っきりにする事には抵抗はないんだろうか?

少なくともパパは険しい表情をしていた。

パパ達が入った後愛莉は一番最後に入る。

そして言った。


「誰か好きな人が出来た?」


愛莉は普通に話してた。

この感情を恋というのだろうか?

今までの私は単なる兄に甘えていただけ?

翼に空を独り占めされるのが嫌なだっただけ?

私は今日あったことを話した。

大地と粋に告白された事も。

愛莉は黙って聞いていた。

いつもの事だ。私達の言い分を最後まで聞いてくれる。


「そうね、恋っていつ落ちるか分からない。その時の自分の勘を信じて動くしかない」


愛莉は言う。


「あなたも感じたのでしょう?じゃあその気持ちを温めていきなさい。たった一つの奇跡なのだから」

「うん」

「それでどっちを選ぶの?」

「わかんない」


あの二人がどうして私を選んだのかすら分からないのだから。

これもこの騒めく気持ちを恋と呼ぶなら、少なくとも空に対してはその感情を持っていないことはわかった。


「まあ、まだ小学生だもの。ゆっくり考える時間はいくらでもありますよ」


そう言って愛莉は笑ってた。

そうして一日が終る。私達の恋物語が始まる。

それは私の短い恋の終わりを告げていた。


「翼。私の空に対する感情は翼が持ってる感情とは違うみたいだ」

「……そうなんだ」

「空は翼に譲る。誰にも渡すなよ」


翼の気持ちが本物なら。


「分かってる……」


翼は言う。

私達は眠りについた。

新しい一日に夢を馳せていた。


(5)


その晩翼と二人で風呂に入った。

なんか寂しい気分がした。


「空、そんな気持ちは忘れて。忘れたの?空には私がいる」


翼がそういう。

翼の気持ちはよく分かる。

以前よりも強くはっきりと。

前よりも衝動的で情熱的で感傷的な物。

翼とファーストキスを交わした時から感じていた想い。

それは星を駆ける純情。

今なら自信を持って言える。

僕は翼が好きだ。

それは変わらない。

ただ、なんか寂しい。

妹にが彼氏が出来るってそういう事なんだろうか?

ひょっとしたら翼もいずれは誰かと恋をするんじゃないだろうか?

その時翼が僕の頭をこつんと叩いた。


「今空が思ったこと。絶対にないから」


断言する翼。

風呂を出ると、部屋に戻る。

天音は今頃母さんと風呂に入っているんだろう。

そして僕も時間が来ると寝た。


翌日。


いつも通り天音が飛びついてくる。


「空起きろ!朝だぞ!!」

「だから着替える時間くらいくれよ!」


そして遅れて翼が来る。


「天音!どうしてそういつも空に迷惑かけるの?」

「いいじゃん兄妹のスキンシップだよ。翼が起きるのが遅いんだよ」

「だからって空に抱きついていい理由にはならない」

「……天音、一つ聞いて良いか?」


僕は気になることがあったので天音に聞いてみた。


「どうした空?」

「恋に落ちるってどんな感じだ?」

「分かんね。大体どっちが好きなのかも未だにわからねーんだぜ」


聞いた僕が悪いのか?

よく分からない。


「頭が真っ白だった」


それなら分かる気がする。

僕も翼に触れた時そうだったから。

そして朝食を食べて準備をして翼が遅れてくる。

翼の化粧品は母さんと選んで買ってくるらしい。

肌荒れしない程度の軽い化粧品を買ってくるそうだ。


「安物を若いうちから使ったりあまり若いうちから厚化粧すると歳を取ってから苦労しますよ」


そう言って翼の化粧の指導をしているらしい。

翼の化粧が終る頃。水奈がやってくる。

僕達は今日もいつもと変わらない朝を迎える。

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