第47話 魔獣との総力戦!!

『お願いです、敵対する意思はありませんのでぇ・・・(ガタガタブルブル)』

「おかしいですね・・・いくらなんでもダンジョン最深部にこんなに気弱な者が配置されるでしょうか。」

「俺達は他の例を見た事ないから分からん。」

「わたしも直接ダンジョンをクリアした事はありませんが過去攻略された迷宮の最奥部は例外なく一つ前の階層に最も強力な魔物を配置しているはずですね。」と、クララが訝しげな目で白旗を器用に口にくわえて振るユニコーンを見やる。


現在俺たちがいるサジタリウス城ダンジョンの六十階層は今までのボス部屋と比べてもだだっ広い。明らかに外観と部屋の広さがあってないのだがそれはもう慣れた。

だが、ダンジョンが生き物であってあと一階登られたらダンジョンコアに到達してしまうであろうハズのこの場所にこんな頼りないラスボス戦意のないユニコーンを配置するだろうか、俺なら最強のガーディアンを置く。

さすがに可哀想に思ったらしいかえでが目の前まで行ってしゃがんで目線を合わせた。


「ねぇねぇ君。」『・・・なんです非処女。』

「なぁーーーー!?///」ブォンッ

『ぐぎゃあああああああ!!!!?』


ユニコーンとは魔物にしてはとても高い知性を持ち、人語すら簡単に理解し、そして最大の特徴としては全力でである。

清らかなる乙女のみを愛する彼らはそうでないものを忌み嫌い、時にはその長く張り出した螺旋状の角で突き殺してしまうという。その角はエリクサーという万能薬の材料になるらしい。

そうたった今かえでがビンタで叩き割ったこの立派な角が、である。

そのままユニコーンは死んでしまったようで壁に衝突したあとはピクリとも動かないが。


「・・・ひどい事するなカエデ。」流石のクロもドン引きのようだ、ウシオは爆笑しているが。


「もうやっちゃったこと掘り返しても仕方ないじゃない、蘇生なんて出来ないでしょ?」

「試さないとわからないが・・・一応このフロアのボスだったんだしクリアってことになるんじゃないのか・・・ん?」


このダンジョンで死亡した魔物は例外なくすぐにダンジョンに吸収されて消滅するので死体は放置して良いのだ、それは死んでしまった探索者も同様なのだが。まあ、戦う意思をなくして消滅した悪魔ルヴィンのパパという例外は除く。

しかし、ユニコーンの亡骸は

死んだんじゃないのか!?


「違うな、来るぞ!!」


ウシオが叫んだ途端にそれまで普通の馬より一回り小さい程度だったユニコーンの身体は脈動し肥大化しもう一対脚が生えて来る。そして真っ白だった体色は黒ずんでいき気持ち悪いほどに筋肉が隆起し折れたはずの角は更に三本ほど生えていた。


「あれはもうユニコーンではない、【魔獣ビースト】スレイプニルへと存在進化しおった!」

「ああ、アレは間違いなく魔獣だユースケ殿。魔界にしかいないような生きる災害だぞ!?」


魔獣ビースト

滅多に見られない魔物の上位進化個体。自然に生まれることはほぼ無く、魔力の吹き溜まりのような場所で様々な条件が重なってしまうと発生するという生ける災害ディザスター。かえでの従属進化とは別の方向性の悪性進化とも言える。

ちなみにスレイプニルとは北欧神話における主神オーディンが駆ったとされる脚を八本持つ巨大な黒馬であるがこの世界では三本の角を生やした六本足の化け物であった。


『BURARARARARARARARARARARAAAAAAA!!!!』

「こいつが最後の試練ってとこか?【重力グラビトン】!!」


それはこの世界の重力を操る魔法だ。だが強く嘶いたスレイプニルはさっさと魔法の範囲外へと脱出してしまう。【百獣】のときと違い動き回るタイプの敵には効きづらいという弱点が露呈してしまった。


「ここはお任せを!せいやぁっ!!!」


咄嗟に動けないかえでやシルバーを庇うように飛び出したアリスはフレイムタンを抜刀し振り抜くと俺ほどではなかったが強力な斬撃が黒馬向けて飛んでいく、も横へのステップでかわされてしまう。

怯んだアリスを押しのけるように変身したのはウシオ、巨大な九尾の狐の姿となってスレイプニルを押し止めた!


『クッ、この姿で戦うのは何百年ぶりかの!』

『GUOOOOOOOOON!!!』

「なんとぉーー!?」


デカい狐と馬の大怪獣決戦、その力較べを制したのはスレイプニルだった。ウシオを跳ねのけると再び走り始め広いボス部屋を有効に使ってスピードを上げてくる。

この広さはコイツが十全に戦うためだったのか!?

クロも魔力を漲らせて自身より一回り大きなクロムドラゴンの外殻を形成するが力及ばず跳ね飛ばされてしまう。


「・・・お嬢様、わたしに向上アドバンス】を!皆様に手出しは出させません!」

「クララ!?えっと、【向上】!!」


そう、一般的にバフは術者が複数人に掛けるものよりも一人に集中してかけた方が効きが良いのは当然だ。それも


そして、次の瞬間。その姿はまさに真っ白な龍のようである、メイドキャップを頭に乗せた白龍は凄まじい勢いで地面をかけると肥大化した爪でスレイプニルの顔面を一閃、ひるんだ隙に十数メートルはあろうかという体躯で雁字搦めに固めてしまったのだ。


「うわ、クララすごい・・・。」

「でもあれじゃトドメはさせない。かえで、俺にも【向上】くれ!」

「うん!」


駆け出した俺に向上ブーストが乗り、さらに加速。

重力グラビトン】【重力グラビトン】【重力グラビトン】【鉄塊アイアンクラスター】!!

三倍掛けした横方向への重力でスピードを上げた上で生成したイメージはランス攻城槍。飾り気もなく一直線に疾走する槍はやがて赤熱化し魔獣へ迫る!!

その際、俺は全く気付かなかったが獣神の指輪が激しく光っていたらしい。

意図を理解したクララが咄嗟に離れフラフラになったスレイプニルへ俺と一体化した槍が襲いかかり、貫いた。

【重力】を解除してさらに逆方向にかけたがスピードを殺しきれなかったままに反対側の壁にまで深く突き刺さりようやく止まったのである・・・。


「名付けて【主神の槍グングニール】ってとこか・・・使い所無さすぎるだろこんな技。」


頭から貫かれたスレイプニルは断末魔さえ上げることなくその場に沈んだのだった。

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