第44話 指輪「投擲武器ではない。」

一応四十階層までクリアした俺達は仲間?も増えたということで一旦戻ることにした。

聞けばかえでの方も一人増えたみたいだしな・・・あんまり増えすぎてもとは思うが何を今更というやつだ。


「そういやヴァンパイアだったよな?陽の光でダメージ負うんじゃないのか?」

「お兄ちゃん、我は【陽射しの元歩む者デイ・ウォーカー】程度は嗜んでおります。体験したことはありませんが太陽の下では能力こそ落ちても痛みは感じませぬ。」

「じゃあ・・・銀の弾丸。」

「普通にダメージはあるかもしれませんが其れはどんな者でもでしょう?魔術的に清められた銀は闇属性に偏る魔物全般に効くかと。」

「・・・心臓に木の杭をぶっ刺す。」

「一時的にダメージは受けるでしょうが我は不死の象徴です、すぐ復活するでしょうね。そも、それこそ普通の者なら死ぬのでは?」

「鏡に映らない、流れる水が怖い、十字架を嫌う、ニンニクで鼻が曲がる。」

「・・・主様の吸血鬼観がどうなっているのか知りませんがそれは恐らく吸血鬼個人個人の弱点ではありませんかね?それに鏡に映らなくては日々のお肌のコンディションが分かりませんよ?」と、チラッと見せてくれたイヤリングは銀の十字架であった。


・・・確かに言われてみればそんなに弱点を抱えた魔物が最高位の種族なんて祭り上げられるのもおかしい話であると一人納得する。


「悠介さんのいた世界のお伽噺の吸血鬼はそんな特徴を一人で抱えていたから直ぐに討伐されたのでは?」

「そもそも実際にいたって証拠も虚ろな存在だからな。こっちの世界に普通にいる魔物だって向こうでは幻の存在だぜ?物語や映画にしか出てこないんだ。」

「ほぉ、ではお兄ちゃんが噂の【漂流者ドリフター】!!異世界の人間が何らかの規格外の能力を得てこの世界に渡ってくるという。それこそおとぎ話の勇者様のようです♡」


逆にこの世界の人達は漂流者ドリフターにこそ幻想を抱いている感じもする。ただのヒューマンが恐ろしい力を持つなどそれこそ有り得ないことなのではないだろうか。


「あ、ボクが聞いたことのある吸血された者は吸血鬼になるという話は?」

「それも眉唾物だね。アリス殿は吸血鬼となったアラクネを見た事は?」

「・・・ないですね。」

「そんなスキルを持つのはネクロマンサーという一部の魔族のみかな。勿論魔族の中では中級といったところだから頂点たるヴァンパイアを作り出す術は持ちえません。」

「じゃあ何ができるんだよ?」

「そうですね、種族固有のスキルとしては変化と怪力ですね?あとは他の種族よりは闇の魔術が得意だよ!」と、そう言った瞬間に陽炎のように姿全体が揺れたルヴィンは瞬く間に黒猫の姿に変わってしまう。


「どうですかニャ?真似出来るものはいないでしょう!」

「猫ちゃんだ〜♪」

「ってぎゃあああああああ!ドラゴンかこの娘は!?」


そうして彼女はクロがいる前では二度と猫の姿に変わることをやめた。


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ダンジョンにはワープポイントと呼ばれる魔石の嵌め込まれた場所がボス部屋の目の前に存在する。それに触れることで念じた先のフロアへ飛ぶことができると言う。

ちなみに自力で到達していないフロアへはどんなに頑張っても行けない事は実証済みである。悠介もダンジョンのマップを開きながら試してはみたが良い結果は得られなかったのだ。


そうして迷宮から家へ戻ってくると・・・我が家は真っ白なモフモフの毛皮の上にフリルの着いたヘッドドレスと腰だけのエプロンを着けた下半身が大蛇・上半身はモデルのようにセクシーな少女によって隅から隅まで綺麗に掃除されていた。

「お帰りなさいませご主人様!」と満面の笑顔で出迎えられる。


「えっとかえで・・・?いる?」

「はい!ただいま呼んで参りますね、お嬢様~。」「お嬢様はやめてってば!」


たしか昔俺がかえでの家に遊びに行った時も執事の人に呼ばれてそう答えるのがお約束だったな・・・なんてしんみりしていると本人が出迎えてくれた。


「おかえり悠介!迷宮次は私も連れて行って・・・誰?」

「お初にお目にかかります、かえで殿。我こそは魔界にて不死の軍団を束ねていたヴァンパイアのルヴィンと申します。この度は父上を負かせた勇者たるユースケ殿に一生を捧げるべく軍門に下りました。」と敬礼するとやはり立派な胸が主張される。

「また増えたのね・・・」と脱力するかえで。


その後はリビングで新しく増えた仲間とお互いの報告会となり、自己紹介の場に移っていった。

クララの入れてくれた紅茶とクッキーのような焼き物が素晴らしく美味しい。

全員の自己紹介の後に新しいメンバーのルヴィンがまた胸を張りながら元気よく敬礼した後、クララの番となった。


「では改めまして、わたしはバニップのクララと申します。オークションにてかえでお嬢様にお買い上げされた上に素晴らしいお名前まで頂きました恩をお返しする為にこの身尽き果てるまで誠心誠意お嬢様方とご主人様に捧げましょう。戦いは苦手ですが家事は料理・洗濯・掃除・と全てお任せ頂けるよう邁進する所存であります。」

「なんか変なワード混ざってなかった!?」

「それ私もツッコんだから。」


クロはクララのモフモフの体毛に夢中らしく尻尾に巻かれて夢中になっている。・・・いいなアレ、俺も後でやってもらおう。


「で、コレが三十階のボスが悲鳴上げながら投げ捨てていった宝箱から出てきた指輪だ。」と、【亜空間アナザー】から取り出した紅く穏やかな光を放つ指輪を目の前に置く。


「待った!それは大変強力な術式が込められたものだ!力を持たぬ者は逆に命を食われて・・・」


慌てて立ち上がるルヴィンだったが指輪をひょいひょいと見て回る俺たちの内、腕が腐り落ちるものは一人もおらず目を丸くしていた。


「・・・おっかしいなぁ、スキル無くなっちゃったのかな?」

「るぶぃんとやらが驚くのも可笑しくはない程我らは人外集団となっておるのだな・・・。」


後日、試しに襲われた盗賊相手に指輪を投げつけてみたところ見事にミイラとなったので指輪の力は本物だった事は証明済である。

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