第37話 まともなエルフどこですか?

この世界では電気が必要な家電は一切無いのだがそれじゃじゃないよな?というツッコミは置いておくとして、この家なのだが欠点が一つだけある。

それは管理する者がいないのだ。


亜空間アナザー】は中に入れたモノの時間をも止めてしまうので食品が腐敗したり温かい料理が冷めてしまうのさえ防いでくれるのだが、ソレが適用されない例はを中に入れた場合だ。

前述の通り中に入って寝ようと思えば可能なのだが出入り口は俺にしか作り出せない。


ハウスキーパーのような妖精でもいれば助かるんだけどな・・・。

などと考えながら傭兵の里へ馬車を進めていると視界の隅にあるマップに赤い点が現れた。


「敵襲かな?」

「じゃあたまにはお姉さんに任せとき、ただの飯炊き女やないってとこ見せたろやないの。」


と、なにやら羽子板にトゲトゲを刺したかのような物騒な剣を虚空から取り出すライラ。

【亜空間】は俺の固有魔法だが実はクロもそれに近いようなユニークスキルを持っていた。解析してみたところみんなに渡してあるスマホで管理できる劣化版の【亜空間】・・・【倉庫ガレッジ】と名付けた機能でほぼ同じことが可能となったので個々の荷物や装備品などは俺の管理から外れている。


そしてこの剣も魔道具の一種であるらしく、マカナと呼ばれるこの種類の剣はなんとこの突き刺さっている鋭利な黒曜石の刃はチェーンソー宜しく回転して切れ味を増すことが出来るそうだ・・・なんなのだろうこの謎技術は。


「油断するなよ?」

「ウチを心配してくれるんやな、後でヨシヨシたる♪♪」


そうして森の奥から現れたのは・・・耳の長いゾンビだった。呻き声を上げながら身体を重たそうに引き摺り歩いてくる。


「エルフゾンビ!?」

「正にそうとしか言い表せんの・・・。」


全身土に汚れてるあたり突然【探査エクスプレーション】にかかったのは馬車に反応して地中から這い出してきたのだろう、弓矢らしきものを構えた者もいる。


「せやあああっ!!」と稲妻の如く駆け出していくのはライラだ。

生半可ではない瞬発力で飛び出して黒曜石の剣を振るう度にゾンビの首を切り離していき、数分と持たずにゾンビの一団はただの土塊へと返してしまった。露出度の高い格好も相まってまるで踊っているようだ。

そのスピードは正にジャガーの戦士であると言えよう。


「あれがゾンビか・・・本物は初めて見た。」

「ああして埋葬もろくにされなかったような冒険者などの成れの果てやね。面倒なんは意思のある亜人としてのアンデッドもおるっちゅうことかな。」

「吸血鬼とか?」

「せや、ヴァンパイアなんてもんは半ば伝説上のもんやけど意思の疎通が平和的に出来るんは亜人種って一括りに入るらしいで?」


パンッ!


「俺もゾンビを撃つのは初めてだな・・・。」と、拳銃を二丁とも抜いてライラのすぐ後ろのゾンビの眉間を撃ち抜いた。


まだまだマップから赤いビーコンは消えていないのだ。というか馬車が進む度にゾンビは倒す傍から沸いてくるようだ。

後から教えてもらった話だが確かにこの道は真っ直ぐにライブラからサジタリウスに向かう道ではあるのだが、森が深いせいで昼でもゾンビが沸き出すので普通は聖職者でも迂回するような面倒な道だったらしい。


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「ようやく着いた・・・まさか丸一日かかるとは。」

「やたらゾンビだらけじゃったの・・・。」

「おなか空いたー!!」

「ウチも流石に疲れたわ・・・テキトーな宿探してご飯やご飯。」


「おぅにーちゃんよぉ!!綺麗どころばっか連れて【タァンッ】うっわ、何しやがる!!」もちろん相手するのも面倒と思ったので撃ったのだが疲れからか外してしまったようだ。


「うるさい、物盗りならさっさと死ね。」


見れば街に入る直前で待ち構えていたのはオーク・・・ではなくエルフの男三人組だった。


「ちっ、銃使いかよ!」

「誰がだ、俺はまほ・・・あ、魔銃使いだ。」


弾丸の次は【鉄塊アイアンクラスター】で鋭いカギ付きの鎖分銅を発射してまとめて拘束した。


「はあ!?なんで銃から鎖を撃てるんだおかしいだろ!」

「もう面倒ですね、このままギルドに引き渡します。」

「同意です。」


アリスとシルバーは身動き取れなくなった盗賊エルフを殴って昏倒させ引きずって行った。

なんかこの国に来てからまともなエルフを見た覚えがないな・・・。

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